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葛飾北斎の作風に影響をあたえた彫刻師 波の伊八「波に宝珠」東頭山 行元寺

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数々の芸術が遺るお寺として知られる千葉県いすみ市「東頭山 行元寺(とうずさんぎょうがんじ)」

慈覚大師によって東国に最初に開かれた寺として、「東頭山」と名付けられました。
幾度も戦禍に遭い、焼失しますが再興し、この地に長く歴史を刻んできました。

文化財建造物や芸術作品は、どれも一見の価値があるものばかり。
中でも、千葉県鴨川市出身「初代波の伊八 武志伊八郎信由」の「波に宝珠」は、ぜひご覧になっていただきたい作品です。

撮影の許可をいただき、ご住職同行のもと、貴重な作品の数々と境内を見学させていただきましたので、ご紹介します。

山門「慈雲閣」(いすみ市指定文化財)

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山道を登ると出迎えてくれるのは、華麗な彫刻が目を引く重厚な朱塗りの山門。
周囲をめぐる木々の緑と、朱色のコントラストが目にも鮮やか。

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建立は江戸時代中期だそうですが、創建当時、桃山文化の名残を遺していたとみられたことから、桃山文化と元禄文化に挟まれた寛永文化(江戸時代初期)の特色が表れています。

山門は平成19年から4年の歳月をかけて修復されました。
当時の輝きや色彩を再現するため、ラピスラズリ(瑠璃)をはじめ、孔雀石やトルコ石など、天然の宝石から作られた岩絵具を各地から取り寄せたそうです。

色鮮やかな群青色や金箔が豪華な雰囲気を醸し出し、より一層山門の美しさを際立たせています。

大本堂と客殿(旧書院)

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「本堂」(いすみ市指定文化財)と本堂右手にある「客殿(旧書院)」(千葉県指定文化材)内で、波の伊八の作品「波に宝珠」や幻の名工高松又八の「牡丹に錦鶏」を見学できます。

初代伊八の作品「波に宝珠」

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旧書院欄間彫刻、初代波の伊八作品「波に宝珠」は、葛飾北斎の有名作品「富嶽三十六景神奈川沖浪裏」の原風景といわれる伊八の代表作。
この彫刻から、「波を彫らせては天下一」と言われ、「波の伊八」の異名で知られるようになります。

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まるで生きているかのようにうねる波、打ち寄せた波が今にも崩れそうな一瞬を切り取った作品は、立体的で躍動感にあふれ、強烈なインパクトを与えます。

波といえば正面から捉えた構図が当たり前だった時代、当時の常識を覆す伊八の横波は、近代美術にまで影響を及ぼしたといわれています。
この作品を見るために、国内はもとより国外からも多くの参拝者がおとずれるそうですよ。

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旧書院の一角には、葛飾北斎の「富嶽三十六景神奈川沖浪裏」と伊八の波が上下に展示されています。作品を見比べながら、躍動感に満ちた「波に宝珠」を鑑賞すると、葛飾北斎の絵画の原点となったこともうなずけます。

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「伊八の松竹梅」、「伊八の波」などの作品も、ご住職にお話を伺いながら見学させていただき、伊八の世界を堪能することができました。

初代伊八の作風が感じられる名作、ぜひ間近で実物をご覧になってみてください。

元祖 宮彫師 徳川家御用 高松又八郎邦教「牡丹に錦鶏」

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波の伊八作品とともに、行元寺でぜひ鑑賞しておきたい「牡丹に錦鶏」

幻の名工といわれる「高松又八」の「牡丹に錦鶏」の彫刻が、本堂欄間に施されています。

徳川家お抱えの彫物師であった高松又八は、とくに江戸城改修工事に彫り物棟梁として活躍しました。

台東区上野の寛永寺や港区の増上寺などに遺されていた作品は、第二次世界大戦の戦禍によってすべて焼失。
そのため幻の名工と呼ばれるようになりますが、のちに行元寺の本堂欄間彫刻に、高松又八の銘があったことが発見されたのです。

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中央に牡丹、左右に雌雄の錦鶏を配した「牡丹に錦鶏」の彫刻は、山門と同様、岩絵具を用いて当時の色合いを忠実に再現しました。

天然の岩絵具は天然石を砕いて作る大変高価な絵具です。
科学的処理に頼らず、人の手で石を砕き、不純物を取り除く工程を繰り返した後、粒子の細かさによって選別をかける作業などが行われます。

手間と時間をかけて作られた天然の岩絵具を使っているからこそ、当時の人が見ていた欄間とまったく同じ色彩を眺めることができるのです。

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よく見ると、着物や工芸品に見られる文様が使われています。
卍(まんじ)の形をくずして斜めに連ねた「紗綾形(さやがた」、扇形を交互に重ね、波のような模様を表した「青海波(せいかいは)」は、とくに縁起が良いとされる吉祥文様と呼ばれるもの。

これらの吉祥文様は、ラグビー日本代表のユニフォームにも使われているそうですよ。

古くから伝わる日本の伝統文化が、現代まで絶えることなく受け継がれていることを実感として感じます。

漆や金箔を施した優雅な雰囲気は、まさに豪華絢爛!
花が開いたような華やかな時代の背景を思い浮かべながら、ゆっくりと鑑賞を楽しんでみてはいかがでしょう。


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七福神の「毘沙門天」、波の伊八や葛飾北斎の作品をパネルで紹介する「伊八亭」など、他にも見どころが多いお寺です。

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「関東に行ったら波を彫るな」と言わしめた初代伊八こと武志伊八郎信由は、10才の頃から彫刻を始め、意欲的に多くの作品を創り続けました。

代表作といわれる旧書院欄間彫刻「波に宝珠」は、目に焼き付けておきたいと感じる作品でした。

高松又八の行元寺本堂欄間彫刻「牡丹に錦鶏」は、日本で唯一彼の作品として確認できているものです。

二人の名工の作品が遺る行元寺。
周囲には田園風景が広がり、参道には大きな木々が並びます。これから春から初夏にかけては、いっそう緑が美しく感じられることでしょう。

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いすみ市には他にも伊八の作品を見られるお寺があります。
ご参拝と併せて伊八めぐりを楽しんでみませんか。
一見の価値あり!と、うなずける作品に出会えるのではないでしょうか。


千葉県いすみ市に、現存する波の伊八「武志伊八郎信由」主な作品

・行元寺 欄間彫刻「波に宝珠」
・飯縄寺 欄間彫刻「天狗と牛若丸」
・長福寺 欄間彫刻「龍、麒麟」
・光福寺 向拝彫刻「龍」

【行元寺】
〒298-0131 千葉県いすみ市荻原2136

一般公開 土日祝日
拝観料  500円(案内付)


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