コーヒーの味を決める、「4:3:2:1の法則」を語りたい

はじめに


えー、皆さんはじめまして。藤岡弘、です。あー、違った違った、亜門虹彦です。

コーヒー生活十六年。珈琲店もやっているので、生豆を買って焙煎して挽いて淹れて飲む。考える。生豆を買って煎って挽いて淹れて飲む。コーヒーの本を読む。考える。生豆を買って煎って挽いて淹れて飲む。実験してみる。考える。生豆を買って煎って挽いて淹れて飲む。道具を替えてみる。考える。生豆を買って煎って挽いて淹れて飲む。また考える……。こうした生活を、ずっと日々続けてきました。その中で自分なりに発見したことを書いていきたいと思います。


酸味をめぐる様々な問題

まず一番プリミティブな問題は、「おいしいコーヒーとは、どんなコーヒーか」ということです。

コーヒーの味を表現する時に、「酸味」「苦味」といった言葉がよく使われますが、これがまた「おいしいコーヒー」をとらえるうえで、難しい。これらの言葉は確かにコーヒーの味の一面を表現するものですが、喩えて言うなら「酸味が強い」「苦味が強い」といった言葉は、「主人公が泣いている場面が多い映画」「主人公が怒っている場面が多い映画」と言うようなもの。

こうした要素が「映画の面白さ」と別であるように、「コーヒーのおいしさ」も「酸味」や「苦味」と別なものなのです。

さらに「酸味」という言葉には二重の意味があるのも、悩ましいところです。酸味とは本来、コーヒーに含まれるフルーティな味わいのことですが、コーヒー豆というのは焙煎してから日にちが経つと、そして挽いてから、抽出してから時間が経つと、どんどん酸化し劣化していきます。「フルーティな味わい」と「酸化による味の劣化」のふたつを混同して「酸味」と表現しているかたが、思いの外多いようなのです。

コーヒーの劣化や豆の保存法についてはまた後日書きたいと思いますが、まずここで言う「酸味」とは、「コーヒー豆のフルーティな味わい」に限定させてください。「酸化による劣化」は酸味の中に雑味があるし、胃の負担になったり胸焼けの原因になったりするので、新鮮なコーヒーを飲み慣れればすぐにわかります。

さらにさらに、人間の舌と言いますか、味覚のメカニズムも、知っておきたいところです。といっても、そう難しい話ではありません。

コーヒーを味わう上で重要なのは、「酸味と甘みは非常に近しいもの」だということです。

これは、フルーツの場合を例にとると、すぐにわかります。オレンジでもイチゴでも、単に甘いだけだったら、逆に甘みをさほど強く感じることはありません。酸味があって、さらに甘みがあるからこそ、「すごく甘くておいしい」という結論になるのです。

また、ラーメンに酢を落としたりすると、スープの味に奥行きが増すだけでなく、どこか甘く感じられることがありますよね。これも酸味と甘みがいわば分離不可能なものである傍証です。

ことコーヒーに関しても、酸味がゼロでは甘みや旨味といったものを感じることは難しいのです。


いよいよ四大プロセスの説明が始まる

結局のところ「おいしいコーヒー」とは、「適度な酸味と苦味、香ばしさが感じられ、その奥に一種の甘みが感じられるもの」ということになるでしょうか。言葉で書くとごくごく一般的な話ですが、まずこれを前提に、「おいしいコーヒー」にたどり着くためのポイントを解説していきます。

私が考えた「おいしいコーヒー」のための「4:3:2:1の法則」とは、コーヒーの味を決める4つのプロセスを表します。コーヒーを飲むまでには、4つのステップがある。そしてそれぞれのステップによって、コーヒーの味は40%、30%、20%、10%決まるというわけですね。

では実際にこの4つのステップを解説していきましょう。


最初のステップは

まず最初のステップは、4。コーヒーの味の4割を決める最重要な部分は、「生豆の品質」です。

たびたびオレンジの喩えばかり出して恐縮ですが、ちっとも甘くないオレンジを、どんなにすぐれた方法で丁寧にジュースにし、高級なグラスで飲んでも、おいしいオレンジジュースにはなりません。同様にコーヒーも、「生豆」がおいしさを持っているものでなければ、おいしく仕上げることが絶対に無理なのです。

ではどこの豆がおいしいのか、とはよく聞かれるところですが、コーヒー豆の産地は、「有田みかん」なのか「三ヶ日みかん」なのかを問うようなもの。有田産のみかんにもおいしいものとさほどでもないものがあります。

産地にこだわり過ぎるのではなく、その産地の中でも誠実な農園で生産され、丁寧に管理され、分別され、適正に保存された豆を買うことが大切です。そのため我々のようなコーヒーを買う側の人間は、いい問屋さんを知っておくことが不可欠です。

もちろん生産地によって、コーヒー豆の味にも大まかな傾向があります。ブレンドなどにせずストレートで飲んで日本人の味覚に合うのは、グアテマラやマンデリンといったところでしょうか。独特のフローラルな香りを楽しみたいならモカ。私に言わせればキリマンジャロ(タンザニア)は、少しエキゾチックな味になります。

もちろんコーヒー豆はあくまで農産物ですから、必ずしも毎年、まったく同じ豆が採れるとは限りませんが……。


2番めのステップは

2番めのステップ。コーヒーの味の3割を決定するのは、「焙煎」です。

コーヒー豆というのは、生の状態で食べても青臭くエグみがあって、まったくおいしいものではありません。しかしある程度の時間230度以上に熱することによって、豆の中にあるエグみがあの独特の香りと味に変化していくのです。

「浅煎り」「深煎り」という言葉は、この焙煎の度合いを表すものです。浅煎りですと、豆の色も少し薄く、フルーティさが十分残った状態になります。ただそれが「青臭い」という印象になってしまうこともあります。

逆に「深煎り」ですと、豆の色は濃くなり、味は苦味のほうに大きく寄っていきます。ただこれも少し行き過ぎると「苦いだけ」「炭のような香り」ということになってしまうのです。

せっかくおいしい生豆を仕入れても、焙煎のステップで失敗すると、すべてが水の泡。大切なプロセスです。酸味を適度に残しながらも、甘みが最大限に感じられる「スイートスポット」の見極めが、焙煎職人の腕の見せどころですね。

ちなみに私は、ずっと長い間、ステンレスのポットに生豆を入れてガス台の上で振る「やかん焙煎」という方法でやっていました。この方法は、煙は出るしチャフ(コーヒー豆の皮)は飛び散るし、腕は痛くなるし、大変な作業であまりおすすめはできません。環境によっては火災報知機も鳴ってしまうかも。

ただこの方法で焙煎をすることによって、焙煎中の音と香り、豆の色の変化、水分が蒸発することによる豆の重量の変化などを、細かく研究することができました。焙煎過程のコーヒー豆の変化を五感すべてを使って体験できたことは、大きなメリットでしたよ。焙煎については、機会があったら、また詳しく述べたいと思います。


3番めのステップとクイズ

さてもし仮にあなたが、おいしい生豆を上手に焙煎した豆をゲットしたとしましょう。その次のプロセスは「抽出」。コーヒーを淹れることであり、このステップでコーヒーの味の2割が決まります。とはいえもちろん、このプロセスで失敗をすると、すべてが台無しになってしまうこともありますが。

ではここで質問です。ものの本などを見ますと、コーヒーを淹れるための方法として、色々なものが紹介されていますが、あなたはどの方法が一番すぐれていると思いますか? サイフォン? コーヒープレス? それとも? 答えは10行後!

すぐ前の部分で「答えは10行後」と書きましたが、あれは真っ赤な嘘で、今答えを発表してしまいます。その方法とは、「ドリップ」なんですね。とはいえこれはあくまで、私の個人的な意見です。

私も色々なところで、様々な方法で淹れたコーヒーを飲みました。実際にサイフォンを買い、コーヒープレスを買い、同じ豆を使ってドリップとその味の違いを検証しました。その結果、私が「確かにこれはうまい」「コーヒー豆の微妙な特徴をよく引き出せている」と感じるのは、常にドリップだったんですね。

もちろんこの考えには異論もあると思います。サイフォニストの皆さん、コーヒープレッサーの皆さん、申し訳ありません。

でも実際に私には、ドリップが一番おいしく感じられるんです。これはドリップ特有の「蒸らし」という過程がポイントかもしれません。

さてその淹れ方ですが、これはそう難しいものではありません。古い本ではなく、最近出版されたコーヒーの本やムックなどで紹介されている方法を、一度キチンと身につければ誰にでもおいしいコーヒーを淹れることができます。

大事なのは、お湯を細く落とすことができるポット。お湯の温度管理。最初に淹れるお湯の量。蒸らしの時間。途中でお湯を注ぐペースとお湯の量。淹れ終えたら少しゆすって空気を含ませること。これくらいです。

あっ、しまった。そうそう、コーヒーを「淹れる」プロセスに含まれる重要な要素として豆を「挽く」ことについて語るのを忘れていました。豆を挽いて粉にする、ここはどうしても道具なり機械を使うことになりますが、このプロセスにはやはりそれなりの投資が必要になります。

挽くプロセスで出る微粉は雑味の元になるし、挽く時に温度が上がり過ぎると豆の劣化が進んでしまいます。私も機械を買い替えてみて「これほどコーヒーの味が変わるのか」という経験を、実際にしましたよ。その私の経験上のおすすめは、フジローヤルの「みるっこ」というミルであります。


最後のステップはワルツに乗せて

さあ、最後になりました。コーヒーの味を決める最後の一手。コーヒーの味の10%を左右するのは、温度とカップ、環境であります。

飲む時の温度は、人によって好みもあるので、自分で一番おいしいタイミングを研究してください。そしてカップも意外と重要。特にカップの厚みと口をつける部分の角度によっても、味は微妙に変わります。これは口に入ってくる量と香りのバランスのせいかもしれません。この実験もどなたでも手軽にできると思うので、色々な器でコーヒーを飲み比べてみてください。

そして環境。山の頂上で飲むコーヒーがおいしいように、コーヒーの味は環境にも大きく左右されます。

最後の最後にフレッシュについて。最近は植物性のフレッシュがどこでも使われていますが、やはり味の点では乳製品由来のものがベストです。フレッシュを入れて飲むのがお好きなかたは、ぜひ一度試していただきたいです。私がふだんフレッシュとして使っているのは、紙パックの生クリームや缶で売っているエバミルクです。

いかがでしたでしょうか? コーヒーのことについて、ずいぶん長々と書いてしまいました。また機会がありましたら、今度は焙煎のことやドリップに使う道具のこと、豆の保管方法、豆のブレンドのことなども書いてみたいと思います。

おや、どこからかワルツが聞こえてきたぞ。ここで私も、コーヒーを1杯、いただこう。

皆さんにステキなコーヒーライフが訪れますことを、願ってやみません。

おしまい

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