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戸籍時報連載『旧市区町村を訪ねて』5「土地の人に触れたとき」福島県南相馬市〜小高町〜(文・写真:仁科勝介)

こんにちは。コンテンツビジネス推進部のMです。弊社刊行「戸籍時報」との好評連動企画、「旧市区町村を訪ねて」。
いつもたくさんの「スキ」をありがとうございます💛今回は、9月号掲載の第5回、福島県の南相馬市での出会いをご紹介いただきました。震災後の旧小高町(おだかまち)の取組みと人の“熱”が伝わります。
写真も、今回は初の人物写真。ここではカラーでご紹介します。
今後の連載も、ぜひお楽しみに!

~~本連載の著者は、写真家の仁科勝介さん。2018年3月から2020年1月にかけて、全国1741の市区町村を巡った彼が、2023年4月から再び、愛車のスーパーカブで日本中を旅しています。
 今回の旅のテーマは、1999年に始まった平成の大合併前の旧市区町村を巡ること。いま一つのまちになっているところに、もともとは別の文化や暮らしがあった。いまも残る旧市区町村のよさや面影を探します。
 仁科さんの写真と言葉から、今そこにある暮らしに少し触れてもらえたら嬉しいなと思います。~~

『土地の人に触れたとき』

 日本は広い。世の中には第一次産業から第三次産業まで,数えきれない仕事が存在していて,「自分」という世界の外で,あらゆる世界が動いている。「地域」という言葉を見聞きしたときも,同じことを思う。温泉の成分が土地によって異なるように,同じ「地域」という言葉であっても,それぞれの土地で湧き上がる活動があるのではないかと想像する。

 福島県南相馬市小高区(旧小高町)を訪れたときのことだった。小高区は東日本大震災に伴う原発事故により,避難指示区域に指定された土地だ。その避難指示が解除されたのは,2016年7月である。
 その小高区では,新しい風が吹いている。いや,吹き続けている。2014年に立ち上げられた「小高ワーカーズベース」を皮切りに,避難指示の解除後も地元のキープレイヤーや移住者が立ち上がり,ゼロからの挑戦を支える土地として,次々と事業がにおこされた。それが世間にも伝わり,まちの風土としても浸透し,さらに新しい人々が現在も集まっている。
前回の旅で小高の存在を知って以来,小高の“熱さ”に触れる機会が何度もあった。
 
 今回の旅では,コワーキングスペース兼宿泊施設である「小高パイオニアヴィレッジ」で, コミュニティーマネージャーとして働く野口福太郎くんと出会った。ひとつ年下の20代半ばだ。宿の受付をしてくれたのが彼で,とても親切に接してくれた。意気投合し,いろいろな話をした。


▲南相馬市で早朝の海辺を訪れたとき,野口くんがコーヒーを淹れてくれた。

 コミュニティーマネージャーは「人つなぎ」のプロだ。行政や民間を問わず人と人とをつなぎ,プロジェクトをはじめとする新たな場をつくりだす。彼の出身は埼玉県で,新卒の移住者として小高へやってきた。それも今や4年目。潤滑油の役割を担う彼の話を聞いていると,人とつながり合って生きる体温のようなものを肌で感じた。現に,ぼくが小高の土地に触れられているのも彼のおかげであった。

 だから,野口くんのように,土地と外の人間をつないでくれる人がいることを,とてもありがたく思った。そして,彼のような人物が,日本各地にたくさんいるのかもしれないと想像したとき,人々の心の豊かさを肯定できる,と思った。

 どんな土地にもそこがふるさとであり,長く住む“土の人”がいる。その一方で,新しくやってくる“風の人”もいる。両者が混ざり合い,“風土”は醸成されるものだ。ぼくは彼を通して小高の風土に混ぜてもらい,土地の思い出ができた。そして,また小高へ訪れたくなった。

 そうした出会いが日本中で起きている限り,豊かさの種は,まだまだ蒔かれていると思うのだ。

(かつお╱Katsusuke Nishina)



仁科勝介(にしなかつすけ)
写真家。1996年岡山県生まれ、広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2023年春より旧市町村を周る旅に出る。
HP https://katsusukenishina.com/
X(旧Twitter)/Instagram @katsuo247


本内容は、月刊『戸籍時報』令和5年9月号 vol.843に掲載されたものです。