9月

...ンダー...ってますか?
キッチン内の換気扇の音でお互いの話し声がとぎれとぎれになる。バイト先に新しく入ってきた彼女は年も同じらしく、人見知りの私にしては珍しく初対面の人と話も弾んでいたのだが、おとなしそうなイメージとかけ離れた単語に驚きを隠せなかった。

「ティンダー?やってないですよ。やってるんですか?」
「はい。下の男の子が二人。」
「下の男の子が二人!?へ~いくつなんですか?」
「3つと5つ下です。」
「ってことは高2と中3ですか!?」
「そうですね。」

大変困惑した。一見男っ気のなさそうに見えるこの新人は初対面で出会い系アプリについて質問してきたことに加え、更に未成年に二股をかける飛んでもない阿婆擦れだったのである。

「やっぱりかわいいんですか?」
「もうかわいくてお小遣いとかもあげちゃいますね~」
「あ~それでバイトを?」
「そうですそうです。」

お小遣いとは名ばかりであろう。これはもう間違いなく円光である。日本の闇が今私の目の前にいる同い年の女性を通して露呈している。しかし本人には何ら恥じるとも誇るといったような様子はうかがえない。いつの間にやらそういったことは常識となっていたのだろう。私はひどく時代に取り残されてしまっていたようだ。
それでもまっとうに働いて自分のお金でそういったことをしているので第三者である私が口をはさむことは何もないだろう。むしろこういったことを語る人は身の回りには心当たりがない。折角だ、有難く話を聞かせてもらおうと感謝すらした。

「喧嘩とか結構しますか?」
「私はあんまりしないけど二人は割と激し目にするかな~いっつもそれで私が仲裁に入るんですよ。」

彼らは意外とやきもち焼なのだろうか。いや、いかにマッチングアプリと言えど自分と恋仲にある女性に男がもう一人いるとなれば喧嘩に発展するのも無理もないだろう。思春期真っ只中にいる彼らなら年上の女性に寄る男に対して膨らむジェラシーも一層だろう。
しかも仲裁するということはお互いの存在を認めたうえで交際関係が維持できているということだ。この女、只者ではない。金銭が絡んでいることもあり、やはり上下・主従の関係がしっかりしているのだろうか。もはや5分前の頼りない新人としての風格は見られず、熟練の御者にも似た雰囲気すらも感じられる。

「女性は利用にお金かからないってことだけは知ってますけど、中高生男子でもやってるんですね~。僕も一回ぐらいは触ってみようかな~。」
「何言ってるんですか?兄弟の話ですよね?」

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