BFC2 私的なお礼と備忘録

【謝辞】 

 ブンゲイファイトクラブ2が閉会しました。
 祝祭的な一カ月半が終わり、なんだか寂しい気持ちです。

 私的なことを。
 BFC観戦前、めちゃくちゃ行き詰っていました。
 誰かを喜ばせるために文章を書きたいのでなく、思い付きが書きたいだけだったと気づいたからです。他にも多数の他人(読者・作者・etc)への言いがかりが頭をグルグルと回り、身動きが取れませんでした。
 そもそも、そんなに他人が好きでもないのです。
 誰を喜ばせたいでもないのに、なんで小説を書くのでしょう。
 周りを見れば、けっこう屈託なくものを書いている感もあります。無邪気です。チッと思います。どうして無邪気にものが書けるのだろう。いちど腹が立つと色んなことにも腹が立ちます。なぜジャンルは横断できないのだろう、なぜ一つのジャンルしか読まないのだろう。ああ自由にやりたい。
 他人に文句をつけ始めました。これはマズい思考回路です。
 たまに息継ぎをしないとマジでマズい。
 なんでもいいから好きに書こう。
 そういえばBFCがある。第一回もオープンマイクも自由だったな。
 自由はいいなあ。
 よーし八つ当たりするぞ!

 参加は、そういう経緯です。
 結論から申しまして、すっかり反省し、すっかり回復しました。
 文芸の自由を謳歌し殴り合うさま、喧々諤々と小説について討議するさま、称え合う人たちの輝き、あらゆる小説を好む人たちのすがた、多様な文章を浴びる喜び、小説の強さだけ考えて過ごす一カ月間、好きなこと書いて過ごす一カ月間。
 全てが得難い癒しでした。そして、反省の気持ちでいっぱいです。
 自家中毒だったんですね。もっと早く誰かに相談すればよかった。小説を愛する色々な人たちが集う様子を見ていたら、憑き物が落ちました。
 他人をどうこう言う前に、もっと書けるように、読めるようにならねば。
 全参加者に、そして「惑星と口笛」の皆さんに、御礼申し上げます。
 ありがとうございます、心から。

【BFC2観戦記】

●本戦について
・10月25日に1回戦ファイターが発表されました。
 そこに私の名前はありませんでした。
 奇しくもその日「ちいかわちゃん」が草むしり検定に落第。行く末を心配していたら他人事じゃなかったのでした。
・1回戦の40作は全てが高水準。
 のちに立ち上がる落選展にも佳品がひしめき、選考は難渋したことと思います。私はといえば、1回戦を数作読んだ段階で落選に納得し、ぬるい作品で八つ当たりしたことを反省しました。
 落ち込みました。これではいかんと思いました。
 修行のため最後まで観戦することを決めました。

・で、すっかり元気になって、今。
 こんなに楽しいブンゲイの集いはない。

・伸び悩んだり自分の実力が生半可だと感じている人は、
 BFCに「出場する」よりも「観戦する」ほうが有意義だと感じます。
 まず、作品に打ちのめされて発奮します。
 次に、ジャッジを読むことで、作品読解の手法を学びます。もちろん野良ジャッジや観戦者の感想も読みます。ハイクオリティかつ多様な読解に触れる機会は、そうありません。自分の読解と他者の読解を比べる機会も。
(私は、自分がいかに読めてないか知りました。マジで落ち込んでいます)
そんでもって、作品を追う人々やファイターの熱狂に触れ、語らうことで、元気を出します。
 小説は、作業としては一人で書くものですが、楽しみ方には決まりはありません。楽しみを分かち合った記憶を持ち帰って、一人で書く作業に、また向き合うわけです。文芸を楽しんでいる人々と接するのは、ヤル気を持続させるうえで、とても効果的でした。党派性のない殴り合いも、なかなか見れるもんじゃありません。刺激になります。
・というわけで燻っている君はBFCを始めよう!
 BFCは規模として相当に大きいですし、同じ話題を共有し続ける一カ月半なので、友達がいっぱいできました。根が暗く思い込みが強いので会話したらもう友達です。お前も、お前も、そしてお前もだ!


【傾向と対策について】
 少し気になったので。
 BFCにおいて傾向と対策を考えるのは無意味だと思います。
 あるのは巧拙だけでしょう。
 自分のベストをぶつけるのが一番いいと思います。

 今回に関しては、一読して意図や内容が明快な作品と、作品世界に余韻や広がりのある作品となら、後者に分があった印象は受けます。ただしこれは傾向というより、巧い作品にそうしたものが多かったという結果の話だと思います。巧さを越える「強さ」(これはもう印象の問題になると思います)があれば、明解な内容でも勝てるはずと信じています。
 強いて傾向があるとすれば実験小説で手法が目的になってしまう場合は勝ち抜きが難しく、ゆえに実験小説で闘える「イグBFC」は、めちゃくちゃ有意義な場です。
 イグは小説の実験場。チャンピオンREDです。
 それだとブンゲイファイトクラブが週チャンということになってしまう
・「強さ」といっても、そこには巧さも含まれる。それでは詩歌の「巧さ」をどう測るのか?詩歌の技巧は、小説と闘う「強さ」に変換できるのか?
 このへんは今は答えの出ない問題なので、次回までに考えます。
・いずれにせよ、私は全人類が全文章を楽しめばいいと思っているので、
 魑魅魍魎が殴り合うリングにどんどんなればいいと心から思います。


【商業性について】
 プロットを消化するために進む文章ではなく、細部が豊かであったり、
 通読することで言語化しがたい印象が立ち上がるものを読みたい。
 短いながらも何度も味わえる文章に出会いたい。
 BFCにおいての私のスタンスはそれだけで、市場原理は十分に外で見られます。
 


【ファイターと作品とジャッジについて】
 大ファンになったのが今村空車さん海乃凧さん
 お二人の諸作は全て好きです。
 空車さんに至ってはマイクロノベルも天才的です。
 海乃さんは、2回戦で「味幸苑」を勝ち抜けに推していました、実は。ジャッジの皆さんと私は小説観が違うので、「味幸苑」が最推しであることは、今も変わりありません。
 私はお二人の小説を読めて本当に良かった。
・完璧じゃんという作品を1本挙げるとすれば、由々平秕さんの「馬に似た愛」。さきにあげたお二人以外の作で個人的に刺さったのは、こい瀬伊音さん「人魚姫の耳」、谷脇栗太さん「虹のむこうに」も。まだまだあって選べませんが。
・「ジャッジのジャッジ」も作品として扱い、トーナメントとは別に総合優勝の概念を設けたい。首都大学留一さん、短歌よむ千住さん、冬乃くじさんのお三方のジャッジ・ジャッジにはそのくらい感動したり笑ったりでした。
中でも首都大学さんのジャッジのジャッジは、知性と愉快さが同居した理想の態度でした。
ベストバウトは1回戦Dグループではないでしょうか。全作勝ち抜けでも問題なかったグループだと思います。
いちばん打ちひしがれたのは蜂本みささんの諸作です。
 特に「タイピング、タイピング」は、どうやって書いたのか全く分からず、もう全部やめてしまおうかと思いました。「ぜーいんころす」という抱負を述べておられましたが、観客席でも死者が出ているとは思いますまい。
・決勝は「ティンカー・ベルとZPT協会」がクリティカルヒットしました。
 白川さんの作品については、1・2回戦とも、私はあまり良い読者ではなかったのですが、これは脱帽しました。
【ジャッジについて】
大滝瓶太さんのスタイルが一番好きでした。もっと読みたかったです。
・生半可な言及をして山田郁斗さんにはご迷惑をおかけしました。後悔してます。
大江信さんにも少しだけモノ申したところ他の人も盛大に噛みついており怖くなりました。しかし大江さんは全ての批判を飲み込んだうえで、闇ジャッジとして戻ってきました。全人類が大江さんほどタフではないので、来年以降のジャッジの引き受け手が心配です。

【場外戦について】
 本戦に並行して開催されたスピンオフ・トーナメントが二つあります。
 イグBFC。
 BFC2幻の2回戦作トーナメント。
 元来がお調子者のニガクサは開催の度にに嬉々として参戦、どちらも決勝で負けるという詰めの甘さを遺憾なく発揮し、特に栄冠を手にすることなく去りました。

 この場外乱闘を通じて多くの方に認知され、図らずも1回戦ファイターの方にまで暖かいお言葉を頂きました。
 以下、自慢のコーナーです。
 蜂本さんに褒められた。やった~~~~~!
 佐川さんに褒められた。やった~~~~~!
 今村・海乃の推し両氏にも言及いただいた。やった~~~~!
 ミーハーなので大喜びしています。
 出入り口でギャーギャー騒いでいたら、見かねた選手が出てきてサインボールを貰った感じです。うるさくしてすみませんでした。
 1回戦発表時の落ち込みが嘘のように調子に乗りはじめたので、そのたびに「タイピング、タイピング」を読むという滝行ならぬタピ行をして己を律しました。
 怪文書一発屋の危機は脱しましたが、依然として描写のある小説を書いてないので、頑張ろうと思います。思い付きでしか小説を書けないので底が割れそうです。

 以上です。ブンゲイファイトクラブ、楽しかったなあ。


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