第12回六枚道場 後半感想

グループG
・「麻雀騒郎記」閏現人さん
 申し訳のないことに、麻雀が分からないのです。
 ネットスラングを多用する奴、風俗狂い、と、キャラクター性が見えるのですが、実のところ私には四人の区別がついていません。区別がつかないままに、区別がつかないことを取っ掛かりに感想を展開しますと、果てのない会話・変わらないノリによって、四人が一つの存在に纏まっているような気がします。「麻雀」という舞台設定ゆえに確実に四人である。それを担保した特殊な会話劇で、だらだらした会話を面白く読みました。物事を続けていくうちにトリップしていくあの感覚が、終わりなく混濁していく会話によって示されているように思いました。

・「動物園」山口静花さん
 むごい話ですよね。
 平日の動物園の寂しさが語り手の心情とだぶり、真に迫りました。
 それにしても、スマホはどこまでも追いかけてきますね。どんなに離れてもメッセージでやりとり出来てしまう。それが救いにもなれば、より人を追い詰める結果にもなり。文字でのやりとりの果てに電話がかかってきて、一瞬、距離が詰まります。動物園という語り手にとって決定的な場(「さみしくなったら行く場」)でも、スマホは、或いはいついかなる場でも斟酌せず切り込んでくる相手の男は、容赦がない。
 相手の男がひどいやつなので、語り手の方、とにかく幸せになって欲しいと思います。

「秋月国小伝妙『終る前のメヌエット』」今村広樹さん
 秋月国が如何なる意図をもって書かれたものかお伺いしたい気持ちと、そんな疑問は野暮で、断片たちから無数の秋月国を夢想するべきなのだ、いやただ秋月国は秋月国のまま受けとればよいのだ、などと色々と考えてしまいます。また不意に出会いたい感じがします。

グループH
・「残心」いみずさん

 描くべき事柄のプランニングをしっかり立てているかたの文章だと思いました。手と手を触れあう必然、面金越しの距離、剣道という題材が活かされた文章たちのように思います。とくに面金の描写はハッとしました。佐々木に蠱惑的なものを感じるまでの状況・心情の流れも見事で、文章のちからで完全にもっていかれました。夜半の宮本と佐々木が邂逅するシーンなど、息詰まる雰囲気や二人の熱量がこちらにも伝わり、脱帽です。

・「キロアラーム」土地神さん
 お手本のようなショートストーリーでした。もしこれがドラマなどであれば、構成的にはもう一押しあったほうがいいのかもしれませんが、最後に混乱して丁半博打になる口調などがおかしく、その面白さで閉じているのが小説的で良いなあと思います。ドラえもんの道具にあっても違和感のないキロアラームのネーミングも面白かったです。

・「散華/後悔」乙野二郎さん
 スラッシュで分かたれた一文が効いています。二股の選択肢を、やり直すのか繰り返すのか迫られる。もうやらない、という選択肢は今のところ与えられていない。前半のリフレインも、終わりのない状況を表しているのかと思うと、悲しくなります。たいへん楽しめました。

グループI
「読みかけのディケンズ」Takemanさん
 閉じ方が前向きで、明るくて、なんだか救われた気分になります。
 なんだか私、ものすごく前向きになったんですよ、読後に。
 こう閉じるには、この語り口で、いろいろな人生を見なくてはいけない。22回のプロポーズに恋心からのダイエット。小さくても気持ちの良い人生たち、その要所を確かにつないだ、ダッシュボードの読みかけのディケンズ。人物造形・語り口・会話ことごとく気が利いていて、本当に読んでいて気持ちが良かったです。

「読みかけのディケンズ」成鬼諭さん
 私は成鬼さんが何者であるのかを諸事情で知っていたので、何が起こるのかなあとワクワクしていたところ、あまりにも飄々とした滑り出しが予想外で、それだけでもう「やられた!」と思いました。飄々とした攪乱です。見事です。そうして目まぐるしく変転する展開のうち、最後はやっぱり飄々と閉じる、そのチャーミングさが魅力であると思います。全ての「作者」がフィクションのなかに、小説の読み書きの楽しさの霧のなかに紛れて消えたようで、かなりお洒落だなとも思いました。
 グエン・ナム・リンって、ぐぇん・な・り、げんなり、ということで合っていますか?

「読みかけのディケンズ」坂崎かおるさん
 読みディケ三つ巴のオオトリで、流石の一作でした。
 この中学生女子の痛ましさが手に取るように私には分かります。背伸びして読んでいたディケンズ、背伸びして飲んでいた缶コーヒー、覚えたての数式に、年下相手に過剰に大人ぶったキャラクターを演じて……。
「外から見ると、後から考えると、イタかったっすよ」という「あの頃」特有の感じをこれでもかと突いていて、このお題をこう処理するのかあと唸りました。読み手にこのような経験がなくても、ちょっとした心当たりを増幅して、我がことのように痛ましく感じさせる手腕を感じました。エピソード選択の巧みさと、細部の巧みさが為せる技だと思います。
 それにしても微苦笑が辛い……少年、あんまりシニカルにならないでおくれ。

グループJ
「近くの彼女」佐藤相平さん
 学習して立ち回りの計算が働くようになった語り手と「博子さん」とは、本質的には紙一重で「近い」存在だったのではないかなと思います。低カースト・いじめの苦境を脱した語り手は、博子さんから「遠い」存在として成長してしまったので、上手に脱せなかった博子さんをスケープゴートにします。博子さんにも博子さんの自尊心があること、それを見越したうえでやりすぎたかと思う気持ちと、でも何だか面白くなくなって更に追いつめる残酷な気持ち。心の動きは克明で、おそらく大量にいるであろうこうした人間・こうした関係性を、的確にとらえておられると感じました。
 風景・匂いなどディティールも巧みで、それだけに、このリアリティに胸が詰まり、どうしようもない気持ちです。

・「田辺さんちの奥さん」椎名雁子さん
 「あんまり頭は良さそうじゃないけど」…おお、酷いな。
 文字組の独特さが、まず、気になりました。意図の有無に関わらず、ぎくしゃくした不穏さを醸していて、けっこうあっているように思います。
 田辺さんの奥さんが「かわいい」というところがミソです。衝撃的な事態を前にしての思考停止は分かります。そこから考えが「これはこれでいい」という方向に進むこと。そこに、男性が求めているものが「家にいる可愛い裸の女」であるという極論が浮かび上がります。おそろしく単純化されてはいますが、この願望が「完全に無い」と男性は否定できるのか? 私は否定できるのか? 
 現実的な問題は山積しています。それを理解しているから田辺は帰宅を急ぎます。このままでよいはずがないのです。けれど現実逃避として「悪くないかもしれない」という考えが頭を過る。たとえ逃避だとしえても、その考えが過ってしまうこと自体の問題を、この小説は指弾している気がします。

・「宇宙作家ディケンズ」小林猫太さん
 わっはっは。ズバット好きすぎるでしょう!
 かいけつだからイノシシだしズバット、流行っているからイノシシ、先生呼びだからイノシシだしかいけつ。重層的なパロディです。
 後半で宇宙に飛ぶところが本当に「やりやがったな!」という感じで面白く、魔空空間(違うわ)を発生させてしまえば展開をガラッと変えてしまえるという東映特撮のフォーマットの偉大さにも改めて気づきました。私はリアタイ世代ではないのですがギャバンとシャリバンが好きでCS放送のを録画してまで見る暗い青春を送ったので宇宙刑事パロディが入るとテンションが爆上がりするんですよ。東映が好き。
 こうした怒涛の展開に唖然とさせられつつも、しかして本当に文章が読みやすいのです。だからスルっと入ってくるのです。凄いと思います。
 猫太さんのこうしたノリのときの作風、好きです。自由な風が吹いているからです。創作の風あつい風。

グループK
・「異動」USIKさん

大型怪獣対策課。これを出しておきながら怪獣を出さない。その構成がクールです。
 見えないもので溢れた短編です。超小型害獣は、おそらく見えづらい、ひょっとすると妖精のような何かなのでしょうか。その存在を認めないよう誘導することで課をも見えなくしていたアカシ。アカシの逮捕も、ナガセから見えないところで起こります。ナガセは小型害獣もアカシの真実も見ることなく、宙ぶらりんです。アカシはナガセが後を継ぐことを確信して消えたのかもしれません。あらゆるものの影を見せなかった点が画期的であったと思います。
 また、会話がかなり上手だなとも思いました。

・「CITY」馬死さん
 馬鹿話かと思いきや。
 ケントとチョーゾーには彼ら独自の関係性がありました。パンチラ、無意味な会話、「こつこつ」。無意味かに思えたもの・無為に思える行為によって繋がっていた時間が、しかしチョーゾーに影響を与えます。風という要素もパンチラと散骨という相反しそうなものを繋いで、悲しい読後感を作っています。他にない読み心地で、かなり好きな一作です。

・「読みかけのディケンズ」山崎朝日さん
 うまい、うますぎる(十万石饅頭か)。
 花火の描写、うまい。風景描写から、やがて主人公の感情へと迫っていくその流れ、うまい。「読みかけのディケンズ」というお題の用い方、めっちゃくちゃにうまい。「ダッシュボードに読みかけのディケンズ」で終幕とする流れにも一切の無理なく、それどころか主人公の万感の思いがお題に仮託されて、ちょっとこれはもう太刀打ちできない。うまいと簡単に評してしまうことが失礼にあたるくらいの書きぶりで、無駄がないのに余韻があり、でも、もう、ただただ、すごいとしか言えません。

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