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魔法の書



分厚い表紙には、長いこと埃がかぶっていた。いま彼女の手で払われたことにより、その表紙に刻まれた文字がすすけた明かりを灯す。誰も入らなかった閉架に彼女が来たことにより、魔術書と人間の歴史は再び幕を開けたのだ。



「こんなところに独りでずっといたのね」


 赤い小さな唇が動く。魔術書にまるで自分の仲間のように声をかけた彼女。名前は、柘榴ざくろと言う。


 柘榴の手の中におさめられた魔術書は、ひとりでに動いて中央のページを開いた。


「.......ᛋᛈᛖᛚᛚᛋ ᚠᛟᚱ ᚱᛖᚨᛞᛁᚾᚷ ᛒᛟᛟᚲᛋ」


 その下にはルーン文字で呪文が刻まれていた。


「ᛞᛖᚲᛁᛈᚺᛖᚱ」


 そのままではあったが、大事な呪文であることは間違いなかった。

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