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びょうぶのトラ

 むかしむかし、京都の安国寺というお寺に一休さんという小僧さんがいました。一休さんはとんちが上手で、和尚さんでさえ、かないません。
 一休さんのとんちの凄さは、たちまち都の人々の間に広まりました。

 あるとき、このうわさが将軍さまの耳に入りました。
「一休のとんちがどれほどのものか、一度あって話をしてみたいものだ」
 さっそく将軍さまは、一休さんをお屋敷に呼び出すことにしました。
 将軍さまのおつかいの人が、お寺まで一休さんを呼びきたものですから、和尚さんはびっくりです。
「一休や、たいへんな事になったのう」
 心配そうにしている和尚さんに、一休さんは言いました。
「大丈夫です。さあ、行きましょう」
 2人は将軍さまのお屋敷まで、歩いていきました。

 お屋敷につくと、2人は立派な座敷に通されました。
 2人が座っているところからは、きれいな庭が見えます。部屋の中には、立派なびょうぶが置いてあります。
 しばらくして、将軍さまが入ってきました。
「お前が一休か。じつは困ったことがあって、きてもらったのだが
「なんでございましょう」
 一休さんはすまして答えます。

「あそこにびょうぶがあるだろう。そこにトラの絵がかいてあるのがわかるな。じつは、夜になると、あいつがびょうぶからこっそり抜け出すので困っておるのじゃ。ひとつ、あのトラをつかまえてくれないか」
 将軍さまはそういうと、一休さんの返事を待ちます。
 いくらなんでも、びょうぶからトラが出てくるはずもありません。それをつかまえろというのですから、無理にきまっています。
 しかし、無理とわかっていても、将軍さまのいうことを聞かないわけにはいきません。
(困ったことになったぞ)
 和尚は、そう思って、一休さんの顔を見ました。

 ところが、一休さんは平気なようすで言いました。
「では、トラをしばる縄と、それから、たすきを貸してください」
 さっそく、なわとたすきが用意されます。
 一休さんはたち上がると、たすきをかけ、縄を手に持ってびょうぶの前に立ちます。
 そして、トラの絵を睨みつけながら、こう言いました。
「ではどなたか、このトラをびょうぶの中から追い出してくださいませ。すぐに縛ってみせましょう」

 将軍さまはポンとひざを打って、笑い出しました。
「さすがは一休。わしの負けじゃ」

 一休さんたちは、ごほうびをたくさんもらって、安国寺に帰りましたとさ。

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