ヤクザが職場にやって来た

サンタは町にやって来る。ヤクザは田舎の料亭にやって来る。百合の花を3本くらい携えて、5000円で売り付けて来る。俗に言うみかじめ料の代わりなのだ。
花屋にも見えなければヤクザにも見えない、冴えないひょろひょろのおじさんがやって来る。随分とくたびれた格好をしているので、指が9本しかない事を見落とせば、彼は普通の大人に見えるだろう

誰もが関係をお断りしたい彼らにも、誕生日がやって来る。大親分のバースデーパーティーを開くため、巨大なケーキを携えて子分達がやって来た。
刺青のおじさん、変な髪型のおじさん、インテリっぽいおじさん、外国人みたいなおじさん、日焼けしてムキムキの禿げたおじさん、まだヤクザに見えないお兄さん。そんな男達が30人くらい集まってバースデーイベントを催すのは異様な光景だ。アニメには出て来るかも知れないが、殆どの人は一生見ないだろう。私はアキバ冥途戦争を思い出した。ここから始まるCinderellaStory

ギャルギャルさ極まるコンパニオンが、幾人か手配されてやって来た。組の系列店から来たのだろう。上司らしき男に挨拶している。インテリっぽいおじさんだ。何となく察しは付いていた。パーティーが始まると彼女らは、炭酸水の提供テンポに文句を言う。私に聞こえる距離でハッキリ愚痴る。良いお局さんに成れそうだ。私は却ってやる気を失くす。提供テンポは上がらなかったが、脳内で流れる洋楽は早くなった。ご機嫌で皿洗いを始める私の耳に、喫煙中のヤクザトークが入って来た。
「岸田なんかダメだよ」
どうやら政権批判を繰り広げているようだ。与党もヤクザに言われたくは無いだろう。岸田総理に同情し、私は自民党への投票を決意した

ヤクザは吞んで吞んで吞みまくる。アセトアルデヒドはヤクザに無力なのだ。埼玉県の条例で飲食店はもう煙草が店内で吸えない。しかし店の外でたむろされてはたまらないので、この日は特別に店内喫煙が解禁された。煙草は臭い、臭すぎる。電子タバコは1人も居ないのであった。無慈悲。きっと帰宅したら嫌煙家の母に私は怒られるだろう

バースデーケーキは冷蔵庫に入らない大きさだった。計画性の無さが出ていると言わざるを得ない。机よりデカいのだ。
蝋燭を何本も立て、照明を落とし、ギャル達が「ハッピバースデートゥーユー」とやり始めた。親分が何歳かは見当も付かない。火を吹き消した後は、店の板前が切り分けて全員に提供する。洗う皿が35枚ほど増える。こりゃ参った。
日本の男は甘党に見えないが、ヤクザは輪を掛けて甘党には見えない。案の定、残す奴らが出現した。
最後は廊下に全員整列して親分を見送る。来た時の逆再生を見ているようだ。全員が店員に大声で挨拶して帰って行った。来た時は無言だったのに何故?これはヤクザの習わしなのだろうか

チップは出ませんでした。案外ケチである。総評すると2度と来ないで欲しい、と成るだろう

2024年07月14日