AIは大して社会を変えない(と思ってしまう)

ハイプ・サイクルという現象がある。
これは掻い摘んで説明すると、「テクノロジーは前評判ほどには効力を発揮しない」というものだ


1843年頃に輪転機が発明されるとヨーロッパに読書が普及した。
「みんなが読書をする事で素晴らしい世界がやってくる」と、19世紀後半の大人たちは思っていた。
そして1914年に世界大戦がやってきた。読書は何の役にも立たなかった

飛行機が発明されると、
「これで未来の物流は劇的に変わる」
「未来人はみんな飛行機で移動する」
そんな事を言う大人が居た。
そんな未来は来なかった

インターネットが普及し始めると、
「やがて世界は1つになる。みんなが交流する事で素晴らしい社会が作れる」と、誰かが口にした。
しかし結局のところ人類は、互いの国や価値観を尊重しあえなかった

2009年、Twitterが台頭すると、
「ツイッターは未来のインフラになる」などと、サイトの設立者は豪語した。
そしてツイッターは低俗なサイトの象徴になってしまった


上記の例たちは氷山の一角に過ぎない

「AIで社会は劇的に変わる」
「AIで労働の価値観がひっくり返る」
昨今、そんな言説たちが跋扈していないだろうか?
そんな未来予測たちに、私は正直なところ眉唾である。
言われている程の大きな変化は訪れないだろう、などと冷めた目で見てしまう


しかし世の中には反例もある。挙げておかねばアンフェアだろう


洗濯機が発売されると、
「母親が心を込めた手揉み洗いの方が良い」などと言う大人が居た。
そして手揉み洗いは滅んだ

1999年、京セラが世界初のカメラ機能付き携帯電話(VP-210)を発売すると、
「ケータイにカメラなんて要らないだろう」なんて言う大人が沢山居た。
今ではカメラが付いていない携帯電話の方が珍しい

ボーカロイドが発明されると、
「こんな物は流行らない」と、多くの音楽愛好家が言った。
しかし初音ミクは21世紀を代表する歌姫になった。
彼女は歳を取らないので、50年や100年もアイドルで居られるかも知れない

世界初のmp3プレイヤーが発明されると、
「こんなもの流行るわけがない」と、音楽関係者は思った。
理由はたった5曲程度しかメモリに保存できなかったからだ。
この産業は順調に成長し、スティーブ・ジョブズたちがiPodを作り、iPodはiPhoneへと進化し、世界を変えていった。
少なくとも私は、スマホの登場で社会はだいぶ様変わりしたと感じている


AIが描く未来図に、私はあまり希望を見出せないで居る。どうやら歳を取り過ぎてしまったらしい。無念だ

しかし若い方たちが希望を抱く事は、凄く良い事だと思う。
大切なのはきっと、
「AIで未来はどう変わるか」
では無く、
「あなたがAIで未来をどう変えたいか」
という事かも知れない

私は今の世の中が結構気に入っているため、変えたい事が特に思いつかない。
なにせ今だにガラケーを愛用しているほどだ

歳を取り過ぎてしまったらしい

2024年06月06日