紙のお金は素晴らしい!

新紙幣が発行された。私の街を代表する有名人が1万円札に成っている。
キャッシュレス化が進む社会で紙幣なんて、という発想の方も居るかも知れない。しかし実は紙幣の方が便利なのである。これは意外と知られていない

紙幣の最も便利な点は「国民の年収が上がる」という点だ。キャッシュレス決済は法律の関係で現金払いと差額が発生しない。しかし手数料をキャッシュレス決済事業者に支払わなければならない。これを支払うのは小売店である。
手数料は大体1.5%から5%だ。なお、今後更に上がる可能性は高い

「私達が支払うお金は全て誰かのお給料になる。国家単位で見た時の貨幣総量は変わらない筈なのに、どうして年収が上がるのか?」と疑問に思う方も多いだろう

まず単純に、店舗経営者の収入は現金払いの方が数%高い。従業員へ払える給料の額も微増する。
手数料を徴収したキャッシュレス決済企業は、設備投資をする為に大抵負債などを抱えている。これには利息やら配当金やらがついて回る。
レジスターを自動化する事で理論上は従業員を減らしており、それでいて人件費が浮いた分だけ時給に反映されている、とはあまり言えないが、小売店が手数料を鑑みて値上げに踏み切る可能性は上昇する。
そして失業率が上がった分だけ労働供給が増え、最低賃金に下げ圧を与えてしまい、貨幣流通速度が落ち、労働者が失業保険や生活保護費を受け取る可能性は上がる

微々たる物だが、キャッシュレス決済はデフレ促進効果を持っている事が分かる。しかし後述するが、キャッシュレス決済にはインフレ促進効果も有るので、デフレ促進効果を相殺して余りある可能性には留意せねばならない

キャッシュレス決済のインフレ促進効果は、取引の効率性が上昇する事によって貨幣流通速度が上昇する、という物だ。
例えば、Noteの有料記事に対してクレジットカードで料金を支払っている方も多いだろう。現金しか存在しない社会だとこの取引は中々発生しない筈だ。何故なら面倒くさいからである。
きっと貴方も、Noteとクレジットカードが無い世界よりも、Noteとクレジットカードが有る世界の方が、財布の紐は緩く成っている事に気付いているだろう。
この様に貨幣流通速度が上昇して社会全体の消費需要が増加するとインフレが発生しやすい。
ただし注意点が有る。それは「物質的な消費量はあまり増えない」という点だ。よって恩恵を受けられる業種はスパチャやサブスク、電子書籍といったデジタル売買に集中する。キャッシュレス決済とインターネットの相互効果によって消滅する業種は多いだろう。
個人的には失業の観点からデフレ促進効果が勝ってもおかしくないと考えている

現金は盗まれるから怖い、と考える人が居るかも知れないが、クレジットカード情報は年間数十万件から百万件単位で流出しているので、キャッシュレスだから安心とは言えないだろう

現金は脱税し易いというデメリットが有る。しかしGDPが上がると逆相関して脱税リスクは下がるので、日本やアメリカがこれを気に掛ける価値は薄い。
寧ろ停電時のリスク、機械の導入費、ネット回線が必須である事による費用、などのキャッシュレス決済のデメリットにも着目すべきだ。
これらの導入費は全国でほぼ同じである為に、キャッシュレス決済による自動化の恩恵を受けられるのは「都会>田舎」となる点には注意せねばならない。田舎ならば30年前のレジスターを使い続け、店主が自分で会計を行えば良いだけの会計需要しか発生しない確率は高く、機械の導入費をペイ出来る確率は低くなり易い。この構造は格差的であると言わざるを得ない。キャッシュレス推進派には田舎が見えていないのだろう

次に大事な事として、キャッシュレス決済を提供している企業が国内企業だとは限らない、という点が挙げられる。
手数料は海外へ渡る事も有るのだ。
ビザやマスター、アメリカンエクスプレス、アップルペイにグーグルペイ、ペイパルなどを使っている人が居るかも知れない

キャッシュレス決済の手数料は現在年間で4兆円ぐらい発生している。
キャッシュレス決済普及率がもしも100%になってしまった場合、手数料の総額は年間で10兆円前後に及ぶだろう。詰まり、国民が単に買い物をしているだけで年間数兆円はアメリカ企業へ渡ってしまうのだ。
大きな影響があるとは言えないが、これは当然円安リスクが発生する

なおFelica等の技術は日本企業の物なので、一概に損してばかりでは無い点に注意が必要だ。世界でキャッシュレス決済が普及する事は日本にも恩恵が有るかも知れない。グローバル経済は何だかんだ言っても持ちつ持たれつだ

しかし、こういったテクノロジーを社会が保持し続ける為の費用は誰が負担して居るのだろうか?
当然国民1人1人である。
どうせ国民の皆で負担するのであれば、税金を使って発行する紙幣の方が、富裕層の負担を多めに出来るという事を私達は忘れ勝ちである。
そして配当や利子といったテクノロジーが生み出す利益は富裕層や大企業へ回る。再配分が適切に為されれば良いが残念ながらあまり期待は出来ないだろう。
結果的に見れば、キャッシュレス決済などの高度なテクノロジーは庶民全体から資本家への資産移転に過ぎない、という見方も可能である。
テクノロジーが発展すればする程に、私達は格差社会を受け入れ、収入の低下を覚悟しなくては成らない。
詰まり、私達は年収を犠牲にして利便性を享受しているという事だ。大衆とは愚かな存在である、などと云われてしまうのはこの為である

そして、かく言う私もその愚かな庶民の1人である。
格差社会を受け入れてでも、利便性が高い社会の方を好んでいるのだ

2024年07月12日