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創作大賞2023イラストストーリー部門応募作品 【嫌われ者】

人間関係というのは、表面を見ただけでは分からない、非常に厄介で 時に残酷で、
美しいものだと思う。                                 
                                                               
                                                                          
                                                                 
                                                                 
                                                                暖かな春のそよ風が頬を伝い、眠っていた生命が再び動き出そうとする時
期待と憧れと、ほんのちょっぴりの不安に胸を躍らせ、私はこの高校に入学した。                          
                                                                 今年の新入生は女子より男子の方が多いらしく、今まで男子とあまり上手く関わってこれなかった私としては今までにないチャンス。
別に 彼氏をつくろうと奮闘しようとしてた訳ではなく、ただ異性としっかり話せるようになって、友達をたくさん作ろうと思っていた。

自分のクラスに行き、基本的な自己紹介と授業のオリエンテーションなどを終え、少し自由な時間が出来た時。クラスの子と話してみようと思った。明るい雰囲気を出し、頑張って同じクラスの女子全員と話すことが出来た。
私のクラス、1年7組は 担任の先生も、副担任の先生も、クラスメイトも皆優しそうだったので、このクラスでなら楽しくやっていけるかもしれない と 思った。

そんなことを考えながら、帰りのショートホームルームが始まる直前。1番前に位置する 私の席に座ろうとした時。

『最初は皆 優しいだろう。不安だから 猫を被っているんだ。』

どこかから、辛辣な、少し落ち着いた感じの、そんな声が聞こえた。

誰?

確かに私の近くに人はいるが、女の子ばっかりで、そういう声を出すような人はいないと思うんだけど。

『ここだよ。』

また聞こえた。
声がする方角的に前の方なんだけど、私の席は1番前だから、人はいないはず。
じゃあ、どこから?

『ここだよ。君の前だよ。』

なんと、声の主は...


教卓だった。

『やっと気づいてくれた。』

教卓が、喋ってる。

急いで当たりを見回してみたけれど、この教卓の声に反応している人は誰一人いなかった。
ってことは、私にしか、この声は聞こえていないということだ。

どうして喋れるようになったのだろうか。
いつからここにいるのか。
疑問は山ほど浮かんできたし、同時に、考える度に興味も湧いてきた。
だけど、出会ったばかりのクラスメイトが教卓と1人で会話している姿を見たら、恐怖に慄き 引かれるに決まってる。
入学したばかりなのに引かれたら、私のキラキラJK生活も終わってしまう。

そんなことを考えているうちにも、教卓は何やら喋っていたのだが、担任の先生が話し始めたので教卓が喋っている内容はあまり聞いていなかった。

下校時刻になり、他の生徒が1人も居なくなって少し寂しさが残るようながらんとした教室に、私は1人ぽつんと残っていた。

そう、もちろん。
教卓と話すためである。

人の気配がすればスマートフォンで電話をしているふりができるので、意外とバレにくかった。

「こんにちは。」
まず私から、クラスメイトに話しかけた時と同じように、教卓に話しかけた。

『こんちは。』
と、どこか気の抜けたような返事が聞こえた。

「あなたは、どうして人間の言葉が喋れるの?」
私は、1番 疑問に思っていたことを問いかけた。

......

..........


『...分からない。』

長い長い沈黙の末、ついに答えがかえってきた。

「分からないの?」

『ああ、分からない。俺が勝手に喋っていたら、君が偶然聞こえていただけだろう。こっちからすれば、何で俺の声が聞こえているんだ、と、思うけどな。』

「じゃあ、この質問なら答えられる?
あなたはいつからここにいるの?」

『それも、分からない。気づいたらここに居たんだ。人間たちが生まれた時と同じじゃないのか?君は自分が何で生まれたのかを知っているのかい?』

なんだかちょっと 頑固で理屈っぽい感じがしたが、私は「分からない」と答えた。

『明確にいつからかは分からないが、期間でいうと大体10年程にはなるんじゃないか。』

今のは、教卓の声だよな。ということは、やっと答えてくれたってことだ!やった!
それにしても、10年いるということは 私のクラスの担任の先生よりもベテランさんなのだろうか。

「結構な期間いるんだね。」

『そうなのか。この10年で、人間の文化や文明は大きく変わり今は色々な事が起きているらしいな。その、今君が握っているすまーとふぉん、だって できたのはここ最近なんじゃないか?』

と、急に歴史の授業のような話をし始めた。
スマートフォンは結構前からあるはずだけど.....
ああ、もしかして、ここは学校だから、校則で長い間禁止されていたのかもしれないな。

なんてことを考えていたらいつの間にか日が落ちてきていたので、この教室を後にすることにした。

「じゃあ、私もう帰らなくちゃいけないから。
またあした。」

いつの間にか入学時に感じていた不安は少し軽くなり、これから始まる 少し不思議な学校生活にわくわくしていた。

翌朝からクラスメイトと、ついでに教卓に小さく「おはよう」をして、席に着いた。                        

お弁当の時も友達と楽しく話しながらご飯を食べられて、とっても順調な高校生活のスタートだった!

部活は特に入らなかったので放課後は時間が出来た。

昼には友達とたくさんおしゃべりをして、
放課後は教卓とたくさんおしゃべりをする。

そんな生活を毎日続けていた。

教卓の声は私以外に届かない。
それをいいことに授業中に先生をちょくちょくからかったりしていた。
分かるのは私だけだから、笑いをこらえるのに必死だった。

私と教卓の世界はとても面白くて、楽しかった。


私はいつも、友達を大切に、人間関係を大切にして生きていた。

でも、なんとなく、少しだけ、つるんでいる友達に違和感は感じていた。

『どんな違和感だ?』

私はいつものように、放課後 教卓と話をしていた。
「なんか、ちょっと疲れてきちゃったかもなって。よくトイレとかに一緒に誘われたりするんだけど、自分で行けばいいんじゃないか、とかおもっちゃうし。わたしがおかしいのかな。」

中学校の友達とは少し違う、なんでも一緒にやりたがる、いわゆる集団行動しかできないような子と関わってしまい、合わせすぎて疲れていた。

『あー、ありがちだな。でもな、』
と、教卓は話し出した。

『その、女子特有の、トイレに誘われるっつうのは、単純にトイレをしに一緒に行きたいってよりかは、教室では話しづらいことがあるから男子が寄り付かない女子トイレで話さない?っつうことでもあるんじゃないのか?
まぁ、例えば恋バナしたい時とかな。』

なるほど。さすが高校に10年ほどいただけのことはあるな。
「恋バナ..........恋バナかぁ.........................。」
私は、恋バナができない。
誰がかっこいいということも分からないし、異性に恋心がわかないことが多い。
「だから、話をふられても分からなくてついていけなかったりするんだよね。」 と、話した。

『人の好みなんざ、人それぞれだから、無理についていこうとせず、君は君の良さを出せばいいんだよ。』
その言葉がとても優しく聞こえて、私は涙が出そうになった。
「そうか。わたしはわたしの良さを出せばいいか。」
「ありがとう」と言い、少し心が軽くなれた。

入学して1ヶ月ほどたって、学校生活にもちょっとずつなれてきたころ。
私は教卓がアドバイスしてくれたことをむねに、なるべくポジティブに考えて学校生活を送っていた。

しかし、ある時から、1人の仲の良い女の子から無視されるようになった。
事の発端は少し前。いつものように「おはよう」と、言いに行ったとき。
絶対に聞こえる距離で、聞こえる音量でいったはずが、わざとらしく顔をそらされてしまった。
そのあとも何回か話しかけたが、やはり反応はない。

これは意図的に無視されている、と、わかったのだ。

友達がいなくなったとしても私には教卓という話し相手がいるし、理解者がいるから、そんなに落ち込みはしなかった。

クラスに人間の話し相手がいなくなったので、お弁当は他のクラスの友達と一緒に食べるようになった。

教卓は、もちろん無視された時の様子を見ていたので私がどんな状態なのかはわかっただろう。
だけど、私と話す時は無理に触れては来なかった。

そんなことがあって、月日は流れた。
セミがたくさん鳴くようになり、ジリジリと太陽が照るなか、終業式を迎えた。
ようやく夏休みだ。
教卓とは暫く会えなくなるのが寂しかったが、無視してきた、嫌いな奴に1ヶ月もあわなくていいのはいくらか気楽だった。

夏休みにはいるにあたり、私はある決意をした。


高校の夏休みは中学校より行動範囲が広くなるのでとっても楽しく、有意義な日々を過ごした。

そして迎えた9月。
登校したての私には全校生徒の視線を集めるくらいに注目された。

当たり前だろう。

私は、入学したての地味な黒髪ロングから、
ツインテールにして髪を染めていた。
いわゆる地雷系というものに。
普通に校則違反だったので、先生にも怒られた。だけど別に怖くはなかった。

私はこの学校を辞めるから。

どうせ辞めるなら、校則を1回くらい破ってしまおうと思った。

入学したてで辞めるなんて、どうかしていると言われるかもしれない。
でも、両親にもこの話はしてある。
もし合わなかったら辞めて通信に通っても良い、と、言われていたし。そういってくれる親で本当に良かったと思う。

教卓も、今のこの私の髪をみたら驚くだろうな。

『自分に正直に生きるのはいい事だと思うぞ。』
教卓にこの姿を見せた時、言われた。
全く驚かれなかった。まぁ、教卓を驚かせるためにやった訳じゃないが。

もう教卓と話せなくなるかもしれないので、話をしてた。
「私には、憧れの人がいるの。」
「お気に入りの洋画に出てくる、白衣をまとい、高校教師だけど、とっても勇敢な、金髪ロングの女の先生。」
『......』
私は教卓に肘をつき、豊かな想像力をはたらかせ、その彼女を目の前に思い起こした。
「その先生は、いつもどこかに怪我をしている。だけど、いつも何かを守るために、必死で戦うの。」
私の中の彼女は目の前にいるであろう敵をキッと見据えて、自分がボロボロになりながらも戦おうとしている。
「とってもかっこいい、尊敬している人。私もあんな風に、勇敢に立ち向かいたいと思った。」

.........


『......どうして辞めようと思ったんだ。』

多分、教卓が気になってたことなんだろう。

私はその経緯と自分の気持ちを初めて、高校でできたともだちに話そうと思った。


「私はなるべく自分の気持ちを押し殺そうとして生きてきた。
特に、このクラスは女の子が少ないから最初からちょっと団結心があるかんじで、仲良くして行けそうだとは思ってた。だから私も明るい雰囲気をつくって自分を出しつつ、笑顔をキープしながら挨拶をかかさずに頑張った。
それなのに、仲が良かったはずの1人の女子から嫌われて、無視されるようになってしまって、
でも別に、1人の人間に嫌われただけで人生終了では無いし、向こうも人間なんだからしょうがないなとは思った。
しかも、無視された時はまだ5月だった。こんな早い段階で、高校生にもなって無視してくるような奴から、逆に好かれなくて良かったって、思う。

だから、その子と仲良くするのは早々に諦めて他の友達をつくろうとした。
だけど。もう他の女の子たちはそれぞれのグループが出来ちゃってて、今更そこに急に入り込むことは私には出来なかった。

そうしているうちに、私を無視してきたあの子はクラスの中でも特に明るい子に好かれて、たちまちみんなの人気者になった。
対照的にわたしは 自分にどんどん自信がなくなっていって、人とどういう風に関わったらいいのか分からなくなって、クラスのなかで孤立した。

小学校の時も、クラスの女の子とか、男の子とかに仲間はずれにされて、無視されて、悪口を言われてた。そのころの私は無知だったから、それが泣くほど辛かったけど、いじめだって分からなかった。でも、その経験があったから今やられても多少耐性はついていたし、メンタルだって少しだけ強くなった。
中学校に入ってからは、良かったことにとっても人に恵まれた。だから その中学での3年間が、今まで生きてきた中で1番楽しい!っていう三年間になったし、自分に自信もつくようになった。

でも、
とはいっても、
小学校のころにうけたあの いじめが、いじめられたトラウマが消えたわけじゃなかった。
トラウマって、そんな3、4年そこらで消えるものじゃないと思うから。

だから高校では、その小学校時代にいじめてきた人達が絶対に行かないような、偏差値がちょっと高めな高校を選んだ。それが、今の高校。この学校。
なんでかって、
ここは、勉強を頑張ってる人がたくさんいるって聞いたから。
そんな熱心な人がたくさんいるならいじめとかしているヒマはないだろうし、高校生だし、精神的に大人な人もたくさんいるから、無視とかされないかもなって思ってたから。


その矢先に、この仕打ち。
無視された時も、悲しみとか、怒りとかっていう感情よりも先に、「なんで?」っていう疑問が先にきたくらい、その、分からなかった。
なんでこんなことをされるのか。

もしかしたら、自分には多少の非はあったのかもしれない。自分が知らないうちに、相手が嫌がることをしちゃったのかもしれない。
もしかしたら、最初に仲良くする人をまちがえた私の選択が悪かったのかもしれない。「合わないな」って、ちょっとだけでも思ってた時点で、「まだ最初だからそういうこともある。まだ合わないのは仕方ない。少しずつわかっていこう。」なんて固執せずに さっさと次の友達を早い段階で見つけに行っておけば良かったのかもしれない。

でも、
でもさ、

本当に、ぜんぶわたしが悪かったのかな?

最初だからって、相手に嫌な気持ちをさせないように、相手を立てて、褒めて、相手を優先して、いつでも笑顔で、自分は嫌だったとしても、自分の感情はそっちのけで相手に合わせ続けた。

それでも、。
嫌われたのはすべてわたしのせい?

そうだといえるの?

今だって、今でも、思い出すだけでイライラするし、後悔してるし、自分まで自分が嫌いになってしまう。
じゃあ思い出さなきゃいいじゃんって、わたしだってわかってるよ。
わたしだって、思い出したくなんかないんだよ。私の人生の大切な時間を、あんな奴に使ってやる暇なんてない。
だけどこの教室にいる時点で、教室に入った瞬間に嫌いな奴の顔なんていやでも目に入ってくるし、
忘れたくても、簡単には忘れられない。
誰かに相談するにしたって、そう簡単にできることではないし、できたとしても自虐風にしか、サラッとしか言えない。
だって、弱い自分を見せたくないってのもあるし、心配かけたくないし。
だから、あんまり深刻に相談しないようにしていた。」

そこまで話すと、いつの間にか涙が出てきていた。目の前が滲んでいる。、
だけど、自分では止められないほど溢れてきていた。


私には小さい頃からの癖があった。
昔から空想が激しく、目につく色んなものと会話をする癖。

それのせいで怖がられたりすることもあった。


本当は、心のどこかで分かってた。

実際に教卓は喋っていないって。
ただの私の空想でしかないって。

今までの教卓との対話は、私の中での自問自答なだけだったって。

そんな気持ちの悪い自分が嫌いだった。
だけど、何故かこの教卓は、今まで私が会話をしてきた物たちとは違くて、もしかしたら本当にいるんじゃないかって思ってきてしまっていた。

私は今日でこの学校を去る。
私の空想だったとはいえ、教卓はこの教室内で、私にとっての相棒だった。

私は教卓を手で少しだけ撫でながら

「ありがとう」

とひと言 言った。

もう空想だとはっきり分かってしまったので、返事が返ってくることはないのかな。

そう思って教室を出ようとした時、

『楽しかったよ。ありがとう』

と、確かに聞こえた。

聞き間違えるはずのない、あの教卓と、全く同じ声。

まだ空想なのかは分からない。だけど確かに、
私は教卓と話していた。



私は学校を辞めた後、通信に通いながらある活動をして暮らしている。
創作の お仕事。

自分の癖を活かして、アイデアを膨らませ賞をめざして小説を書いている。

心が折れてしまう時もある

だけど

だけど今は、私を縛るものは何も無い。

私の心の中にはあの美しい思い出と共に、
教卓がいる。

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