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アニメーター作家イナリ・シローラについて #DesignMatters 2021 レポ Vol.3

先日参加した DesignMatters では、各国のさまざまな分野で活躍しているデザイナーたちが集結し、これからの時代に活用できるデザインの知識や見解を共有してくれました。

こちらはそのレポートの第3弾にあたる記事です。
他の記事については下記を参照ください。


イナリ・シローラ

*デザイナー:イナリ・シローラ(Inari Sirola)
*職業:アニメーター作家
*来歴:フィンランドでうまれ、イギリスで育つ。京都の美術大学で留学を経験するなど日本文化との接点もある。

*主な受賞歴:京都市立美術大学に留学中に制作した「eating in the dark」では「Encounters Film Festival」にて最高賞である「Best of British Animation Award 2021」を受賞。ほかにも受賞歴があるほど、彼女の実力はすでに世界に認められているようです。

*作品紹介:イナリさんの作品はポップですが、そのおぞましさやエグさから見ているのが辛くなる時があります。しかしその正体が彼女の体験した(今なお社会に根深い)ジェンダー差別の醜さだと分かった時、その裏にある現実の哀しさが見えてきます。

彼女の発信するメッセージはいまの日本ではあまり見ないタイプのものであり、いわゆる“ウケ”が悪いのかもしれません。しかしジェンダー問題は現代社会において、今すぐに議論すべき話題であります。そして実際にそういった流れが 「Best of British Animation Award 2021」 を受賞したことにも見受けられます。


2. 女性的 “セクシー” ポーズを、犬に置き換える

イナリさんは歴史が作り上げてきた”美”に対する固定観念に着目し、作品をつくります。彼女自身そうであるように特に”女性”という属性が与えられてきた”美”に対して違和感を覚えると話します。

「HOT Dog」という作品では、犬達の”いわゆるホット”つまり、犬達がセクシーに描かれた絵画が並べられています。一般的な絵画や、漫画での女性モデルは若く張りのある肌で描かれているという対比を見て取れるようになっています。彼女は深く作品について言及していないですが、見ている人に議論の余地を残しているように思えます。

この作品「HOT Dog」はココからチェックできます!

シュールな犬達はエグくもあり、ポップでもあります。

この作品を見た鑑賞者達はみな絵そのものをみるというよりも、イナリさんが作品を通じて問いかけたテーマについて議論に熱中するそうです。

彼女の作品を見てから現実世界に目を向けると、現代の女性たちが強いられている ”美” の束縛に気づけると思います。女性として生きると、無意識のうちにステレオタイプの美しさを押し付けられることがあります。「私は女である」以前に「私は人間である」ことを自分自身も忘れてしまうような差別が実は社会には蔓延していることをこの作品は教えてくれます。彼女の作品はまさしく、その部分を鋭く、そしてユーモアを含みながら風刺しているのです。

現実世界の女性が写真の中や絵画の中で取るポーズを、代わりに弛んだ犬にとらせてみたら「なんでこんなに過激なポーズをさせているんだ?笑」と不思議な気持ちになる。女性ではなく犬に見た目が変わるだけで、体を強調させるようなポーズには意味がなくなり、ただただ滑稽さが残るのです。

女性を、コンテンツのように記号化して認識している世の中であることに気づかせてくれる斬新な作品だと思いました。

2. eating in the dark

基本的に彼女は作品について深く説明しませんでしたが、ここでも共通するのは世の中の "美" への固定概念についての問いかけです。この作品は抽象的で、一見何を示唆しているのかわからないと思うかも知れません。この作品も「見ている側に議論する余地を残す」ことを軸に制作されていると思います。

3. CRAZY

イナリさんはある日恋人に ”CRAZY” だと言われたそうです。それは本人にとっては全くもって評価しようがないものなので困惑した、と彼女はこの作品の制作動機について語りました。

サイケデリックにテンポが良く、ビジュアルのおぞましさと音のうつくしさのギャップが面白い作品です。

彼女が生まれたフィンランドは、男女平等ランキングで3位を獲得する世界でも有数の女性の権利が守られた国で知られています。(ちなみに日本では2021年に行われた国際ジェンダー指数レポートで過去最低の121位を獲得したのは当時ニュースにもなりました。)


そんなフィンランドでも、女性差別が完全にないというわけではありません。しかし、その差別問題を重要課題として認識して取り組んでいくという土台が形作られているのが大きいようです。イナリさんの作品を通じて、世界中の国々で女性差別問題に疑問を感じる人が1人でも増えれば、その問題を解決する土壌が耕されていくのではないでしょうか。

4.まとめ

彼女はデザイナーというよりもアーティストの側面が強い人でした。

そして、この記事を書いていた3月7日に、英国誌のエコノミストが先進国を中心とした29カ国を対象に、女性の働きやすさを指標化した2021年ランキングを発表したというニュースが飛び込んできました。

https://www.economist.com/graphic-detail/2017/03/08/the-best-and-worst-places-to-be-a-working-woman

首位を走るのはスウェーデン。今回の登壇者イナリさんの出身国であるフィンランドは3位にランクインするなどジェンダー問題の意識が高いことが伺えます。

私たちが暮らす日本はどうでしょうか。

驚くべきことに、先進国29カ国中ワースト2位を記録しています。最下位は韓国。この2つの国は6年連続同じ順位であることから、ジェンダー平等意識への転換が他国に比べて遅れていることがわかります。

日本でもアートやデザインの力を借りて、身近な課題に気付いたり議論を活性化させる土壌をつくれるのではないでしょうか。


ニアカリ Magazine / 2022.3.14 発行
文:紺野嶺、永井美蘭(ニアカリ インターン)
イラスト:永井美蘭

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