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保険会社のデザインと消費者の心の動き #DesignMatters 2021 レポ Vol.5

先日参加した DesignMatters では、各国のさまざまな分野で活躍しているデザイナーたちが集結し、これからの時代に活用できるデザインの知識や見解を共有してくれました。

こちらはそのレポートの第5弾にあたる記事です。
他の記事については下記を参照ください。


1. UNDO: が提供する全く新しい保険


*デザイナー:リサ・エーパーズ(Lisa Apers)
*職業:保険会社 UNDO: のリードデザイナー

今回はミレニアル世代、つまり2022年に27歳から42歳を迎える世代をターゲットにした保険会社UNDO: でリードデザイナーを務めるリサ・エーパーズさんが語るデザイン論について紹介します。若者たちの保険の新規加入率が減少しているデンマークでどのように UNDO: は成功しているのか、そのためにどのようなデザインであるべきなのか語ってくれました。

・保険内容を自分なりにカスタマイズができる。
・それをいつでもカスタマイズできる。
・事故があれば報告。即座に補償が適用される。
・そのすべてがオンライン、電子決済で行われる。

ざっとリサさんが語った UNDO: についての内容です。UNDO: の YouTube チャンネルからは保険の活用方法についての動画も掲載されており、非常にわかりやすい上にスタイリッシュです。

UNDO: がミレニアル世代を意識していることを感じ取れる部分は YouTube チャンネルからも見受けられます。とにかく動画の尺が短い。33本の動画のうち1分を超えるものは2つしかありません。その2つも1分半すら超えません。

さらにリサさんは、ミレニアル世代に保険を訴求する上で大切なことを教えてくれました。

・内容がわかりやすいこと
・簡単であること
・フェアであること
・加入者が何にお金を払っているのか明確にすること

例えば、従来の自動車保険の多くは年齢によって金額が決まってきますがリサさんはそれはフェアでは無いと言います。UNDO: ではドライバーテストを行いその点数によって保険料が決まる仕組みを採用しているそうです。今まで当たり前だと思っていた保険料の価値観に鋭い正論を投げかけます。筆者である私は22歳なのでまさに年齢のせいで保険料が高く、UNDO: の仕組みが羨ましいと感じました。

そして上記4点を実現させるために最も大切なのは“心の動き”だとリサさんは続けます。

2. “心の動き”を考えることでユーザーを飽きさせないサービスを構築する

例えばあなたが何らかのサービスの登録をするとき、名前や住所やパスワードなど様々なことを聞かれ入力すると思います。その過程のなかで起こる“心の動き”を考えクリエイティブの力を活用することで、よりそのサービスに対してユーザーは快適にアプローチすることが可能になるとリサさんは語ります。

下の図はユーザーのサービスに対するモチベーションを時間ごとに簡単に図式化したものです。

おおまかな時間ごとのユーザーのモチベーション

ユーザーのモチベーションがマイナスになる部分が2箇所あることに気づくと思います。この部分がクリエイティブの力が必要になる部分だそうです。UNDO: でその手法が如何に行われたか、もう1つグラフを紹介してくれました。

詳細な時間ごとのユーザーのモチベーション

これは先ほど紹介した車両保険に登録するための過程をグラフ化したものです。質問するたびに下がっていくモチベーションを維持するためにQ3の後に小休止としてアニメーションを加えたり、最終的にはそのモチベーションがログインしたときと同じになるように効果的に質問後のイベントを配置しているそうです。

目まぐるしい速さで情報を浴び続けているミレニアル世代を相手に、サービスを成り立たせるには工夫が必要だということがよくわかります。

またこうした飽きさせない工夫であるクリエイティブを作り出すには非常に時間がかかることにもリサさんは言及しています。

ひとつのサービスを完成させるために必要な作業時間のうち約8割はクリエイティブに費やされるそうです。しかしそのクリエイティブに顧客が触れるのはアプリ内で経過する時間の約2割にしか満たないといいます。

なかなか報われない感はありますが、そういったことも理解しながら仕事をしていくことがデザインチームのモチベーション維持のために大切だそうです。

3. まとめ

堅苦しい印象のある保険をデザインとクリエイティブの力で解き放ち、時代の流れに沿わせる。リサ・エーパーズさんの話は時代の波に乗った新しいサービスの提案をしていたように思えます。

時代の流れは急激に変化します。実際にこの記事を書いているZ世代である私の周囲では、年上の世代とは情報収集のやり方が変わってきているなと感じることがあります。 TikTok や数分で読めるニュースサイトなど短時間で情報を得られる媒体が増え、本や雑誌などインプットに時間を要するメディアに触れる機会が減りました。

本を読む際には、「指で活字を追わないと理解が追いつかない」や、「文字の多い本は集中力が保たない」「本は情報量が多すぎる」といった人もいます。だからといって、その状態を批判するのではなく、その変化を敏感に察知してサービスを展開することが、非常に大切な考え方だと感じました。

UNDO: という保険会社が、時代や人に合わせてデザインをどう変化・着地させてきたのか学ぶことができたセッションでした。

ニアカリ Magazine / 2022.9.16 発行
文:紺野嶺、永井美蘭(ニアカリ インターン)
イラスト:永井美蘭

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