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デザイナーはスケッチで月面基地を作る #DesignMatters 2021 レポ Vol.1

先日参加した DesignMatters では、各国のさまざまな分野で活躍しているデザイナーたちが集結し、これからの時代に活用できるデザインの知識や見解を共有してくれました。

こちらはそのレポートの第1弾にあたる記事です。
他の記事については下記を参照ください。


1. 民間のデザイナー達による月面基地って?

この記事では以下のデザイナーの講演についてレポートします。

Sebastian Aristotelis さん - SAGA Space Architects
https://2021.designmatters.io/line-up/sebastian-aristotelis/


この講演では、一般的なグラフィックデザインの他に月面建築デザインの話がされていました。彼らが携わるデザインの幅の広さに驚くとともに、デザインそのものが及ぶ範囲の広さに驚かされました。
民間人でもデザインの力を使えば、宇宙開発に携わることができる時代が訪れたんですね。

TV、道路標識、年金システム。
目に見えないものもデザインだ。

2. SAGAは2024年の人類の月面着陸計画にむけて宇宙建築を作る会社

共同創業者のセバスチャン・アリストテレスさん、そして彼を含め9人の若者デザイナーで、宇宙開発を行っているベンチャー企業 SPACE ARCHITECTS SAGA は構成されています。SAGAは、2024年の人類の月面着陸計画に向けて、月面基地といった宇宙建築を多数制作している会社です。


今回、SAGAが現在も実験中である「LUNARK」を紹介してくれました。

LUNARKは、月面に直接設置するタイプの月面基地で、折り紙のエッセンスを駆使して、基地丸ごとを蛇腹型に折り畳むことができる仕組みなんだそうです。これを月面に固定して、数人がかりで開けばあっという間に2人がなんとか暮らせるスペースが確保できるようにデザインされています。中はもちろん無重力ではありませんし、仕事机と簡易ベッド、簡易トイレを設置することができます。プレゼンを見た限り、LUNARKでの暮らしは決して快適とは言えなさそうですが、従来の宇宙ステーションよりは地球の暮らしを再現できそうです。

従来の基地といえば、宇宙空間を漂っている宇宙ステーションが基本です。しかし、この宇宙ステーションを開発するにも膨大なお金がかかることや、尿から飲料水を作ること、常に無重力空間であること(無重力空間にい続けると、筋肉を常に低下させてしまうことや、骨粗鬆症のリスクが高くなるなどの悪影響があります)を踏まえてかなり過酷な状況であることが懸念点でした。

それを解決するために、デザインの力を使って作られたのがこのLUNARKなのです。

月面に直接設置される月面基地。

3. マルチタレント集団

SAGAの9人全員がマルチタレントであり、彼らはデザイナー、エンジニア、経営など様々な仕事をこなし、お互いを補填し合って制作を進めているそうです。たった9人でここまで本格的な月面基地を制作できることがすごいと感じました。

一昔前はデザイナーは職人的であったが、今ではデザインソフトをはじめ、技術習得の簡略化によりマルチタレントが求められるようになったと感じた。

4. 発信力

恐らく今回この DesignMatters に彼らが登壇したのはパトロンを探す意味もあるのだと思われます。かなり大掛かりなプロジェクトに加えて、民間によるデザインで地球を越えるという夢の詰まった計画ですから、この話を聞いて前のめりになる方も、多かったのではないでしょうか。

今回紹介されたLUNARKという建築物だけでも50もの企業とパートナーシップを結んでおり、「マルチタレントであること」や「技術があること」だけでは、乗り越えられない壁を支援者を多く募ることで実現しているようでした。

ジョークを交えた引き込まれるプレゼンテーションで、多くの企業が協力・賛同しているのも納得の内容でした。

5. 宇宙飛行士のメンタルヘルス

この講演の中で、SAGAが課題として挙げていたのは宇宙飛行士のメンタルヘルスでした。

前述した通り、現在の宇宙飛行士達の宇宙での家は宇宙ステーションであり、狭くて360度機械に囲まれた、窓がほとんどない家です。

2024年の月面計画に向けてSAGAはその問題を解決すべく、地球では毎日当たり前に変化を感じる「あるもの」に着目しました。それは、太陽の光です。LUNARKでは、太陽が織りなす光の変化をLEDパネルで再現することにより、その問題に対処しました。例えば夕焼けだったら赤色のLEDを、夜だったら青色のLEDを使って基地の中全体を照らすことで、中で暮らしている人々に擬似的に日没や日の出の体験させるのです。

宇宙開発でもデザイナーが鋭い洞察力で課題発見をし、血も滲む様な努力で解決に導いている様子が話の端々から感じられました。

6. 過酷な実証実験

折り紙の技術を応用し、完成したLUNARKは非常にコンパクトでした。このコンパクトさゆえに、実証実験の現場である北グリーンランドに楽々運ぶことができたそうです。

実証実験に選ばれた北グリーランドでは、極夜、極寒、白色の大地、隔絶された空間、食事など月面に非常に近い環境が揃っています。実証実験では、セバスチャン含め2人のデザイナーだけで、現地での組み立てから実験ミッションもこなしながら三ヶ月滞在することに成功しました。

LUNARKの実験環境を揃えるまでに、かなりの資金と時間が費やされたことが分かります。NASAに採用されるかまだ分からない状態で、精力的にデザイン・開発を行っていた様子が伺えました。

7. 手描きスケッチが出発点

驚くべきなのがひとつひとつのプロジェクトを紐解いていくと、折り紙だったり案外と原始的なアプローチから始まっています。彼らはプレゼンの中で全てのプロジェクトは手描きスケッチが出発点であると話していました。やはり、大事なのは仕組みをいかに簡単にするかということ、自分たちで納得できるまで練り直すこと、なのですね。


手描きスケッチ、そして宇宙開発。その二つを繋いだのは間違いなくデザインです。

現代は情報で溢れています。デザイナーになることはどんな人でも可能な世の中になりました。つまり誰でもビッグプロジェクトを起こせる時代がきたということだと、SAGAはそれを今回私たちに教えてくれました。

8. 終わりに

JAXAが現在、宇宙飛行士を募集していることをご存知ですか?

驚くべきことに、学歴不問で、文系の方でも良いとのこと。宇宙という大きなテーマは、今や理系の人や「選ばれしもの」だけではなくて、全人類が向かい合っていく話題に変わりました。とくに、今回レポートしたSAGAの話は民間人でも宇宙開発に関われるという希望、そして課題発見と解決というデザイナーの仕事は宇宙開発でも同じで、人間の技術を前進させるのだという証明をしてくれています。今まで宇宙は遠すぎると思っていた人でも、宇宙開発に関われる日が来るかもしれませんね?


ニアカリ Magazine / 2022.1.31 発行
文:紺野嶺、永井美蘭(ニアカリ インターン)
イラスト:永井美蘭

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