ロストマイン #1
「ボス!ブツが足りません!」
「まだ届かねえのか!」
「ここのラインだけは絶対破られるなよ!」
―――
○○:おはよ~だいぶ人少ないな。
父:おはよう。今絶賛山下組と小競り合い中だからな。何なら今が一番佳境まであるだろ。
○○:んで、親父がしゃあなしで朝飯作ってると。
父:関係のないお前にも迷惑が掛かってるからな。
○○:無駄な送迎がないのもいつぶりなんだか。
今うちでは山下組というヤバい集団と勢力争いをしている
勢力争いをしているという時点でうちも何をしているかはお察しだろう
そう、ヤーさんだ
どうやらじいちゃんの代から確執があるらしい
そんなもん俺の代となれば関係のないことだ
久しぶりの電車通学
??:あ、○○じゃん!久しぶりに見た~
○○:今日みんな忙しいみたいでさ。
幼馴染の向井純葉
よく笑い、よく泣く、とてもいいやつだ。
純葉と一緒に学校まで行く
正門をくぐると人だかりができていた
何かがあったのは間違いないだろう
先生に促され、生徒たちは校舎に入っていく
教室の中にはすでに先生が待機していた
担任は理佐ちゃん先生
いつもは時間ギリギリにくる理佐ちゃんがこんなに早く来るということはやはりただ事ではないのだろう
理佐:みんな、いい知らせと悪い知らせ、どっちを先に聞きたい?
悪い知らせを先に聞きたいのは人間の性だろうか
理佐:…村井さんが学校の屋上から飛び降りをしました。何か知ってる、もしくは心当たりあるかもって人は言いたくなったらでいいから教えてね。
どうやらこの一件はすべてのクラスに話されているらしい
クラスメイトの自殺に重い空気が流れる中、いい知らせも聞かされる
理佐:転校生がきまーす!!!
「いやいやいやいや!!!!」
そのテンションは流石に無理があるぞと誰もが思った
しかし、無理にでもあげていかなければならない。だって転校生が来るのだから。
「山下瞳月です。よろしくお願いします。」
男どもは歓喜した。めちゃくちゃ可愛い女の子だったからだ。
ただ、山下というのが引っかかる
ただの同性であってほしいが…
そして、何故だか山下さんから懐かしい匂いがする
何か特別な香水でもつけているのだろうか?
朝のHRが終わり、山下さんに話しかけに行く人、クラスメイトの飛び降りにショックを受ける人でクラスは半ばカオス状態になっていた
純葉:○○はお話に行かないの?
○○:異性だし、村井の飛び降りはやっぱこたえるわ。
純葉:そっか…仲良かったもんね。○○何か聞きたいことあったら私聞いてくるよ~?好きなタイプとか。
○○:おい。
人がおセンチになってるときによくそんなこと言えたなと思うが、それが彼女のいいところでもある
村井とは付き合っていたわけでも、特別仲が良かったわけでもない。
それでも、ヤーさん一家で女性関係が極端に少ない俺にとって数少ないまともに話せる女子だった
その日の授業はほとんど頭に入ってこなかった
そんな俺を心配した純葉と久しぶりに一緒に帰ることに
純葉:○○はさ~好きな人いる?
○○:いないなぁ。うん。
純葉:私はね~いるよ?
○○:まじ?誰?
純葉:教えなーい!
○○:でも純葉はモテるもんなー誰であってもおかしくないか。
純葉:結構告白されるけどさ、本当に告白してほしい人からは告白されないんだよね~
○○:純葉に興味が無いか、俺なんか…と思っているタイプなのか。
純葉:興味は絶対あると思うんだよね。でも俺なんか…とは思ってそうかも。
○○:純葉を待たせるなんて罪な男がいたもんだ。
純葉:ね~、進展あったらまた教えるよ。家寄ってく?
○○:悪い、今日親父からなるべく早く帰ってきてくれって言われてんだ。
純葉:え、もしかして再婚とか???
○○:俺も一瞬よぎった。有り得ない話ではないからね。
母さんは俺がまだ小さいころ、ヤーさん一家だと知ると離婚して家を出ていった
流石に小さい俺を一人で育てることはできなかったんだろう
純葉と別れて家に帰る
すると、珍しく親父はスーツを着て待っていた
○○:何の騒ぎですかこれは。
父:目下抗争中の山下組との件あるだろ?あれはじーさま方の確執だから○○には関係ないけどさ、構想を止める方法が一つだけある。ただ○○に迷惑がかかる。
○○:みんなが無事に帰ってこれるなら出来ることはやるよ。
父:本当に申し訳ないな。お前には全く関係ないことなのに。
○○:それで俺は何をすればいいんだ?
父:山下組のお嬢さんと付き合ってほしい。ゆくゆくは結婚だな。
○○:結婚!?それは話が違くないか?
父:なんだ、好きな人でもいるのか?
○○:いや、別に、うんいないけどさぁ。
父:じゃあいいじゃねえかよ。
父の後について大広間に向かう
そこには我々の陣営が揃っていた
「すみません若!俺たちのために…」
「若には向井ちゃんがいるのに…」
○○:おい。
「うちが圧勝できればよかったんですけどね。向こうも手強い。」
しばらく待っていると山下組の皆さんが入ってくる
ここで運命の顔合わせタイム
向かい側の来客用扉から入ってきた人を見て、俺は言葉を失った
瞳月:あれ、○○君?だっけなんでここにいるの?
○○:それはこちらのセリフでもありますね。
山下さんが転校してきたとき、懐かしい匂いがしたのは香水なんて綺麗なモノじゃなかった
俺が懐かしいと感じていたのは、硝煙と薬莢の香り・・・
瞳月:パパ、急な転校ってこういうことだったのね。
「なんだ二人とも知り合いだったのか。」
○○:転校してきてね。クラスメイトってやつかな。
「じゃあ話が早いじゃないか。」
お互い、ことの重大さがわかっているから断ろうにも断れない
しかも大人たちは「あとは若いもん同士水入らずで~」なんて言いながら出ていった
きっとこの後酒飲むぞあれ
○○:どうしようか。
瞳月:少なくともパパたちが納得するまでは続ける必要があるよね。
イチャイチャまではする必要はないが、我々が付き合っていることにより抗争に対する一定の抑止力になるのは確かだ。
やがて時間が解決してくれる。この時の俺たちは確かにそう信じていた・・・