稲荷に狸

稲荷神社は榎木神社という。堀川戎神社の境内にある、立派な石造りの社である。見事な地車が鎮座しており、本尊はその奥に潜るようにして進まないと辿り着けない。

堀川神社より一町ほど先に榎の大木があり、その地に祀られていた地車吉兵衛という古狸がいた。吉兵衛狸は夜中になるとコンコンチキチンと陽気な地車の囃子を奏でたが、その音は近所の住む人の家の前にあるようでもあり、また遠くから聞こえるようでもあり、とかく恐れられていたそうだ。

ぜひ聴いてみたいと思ったが、明治40年に現在の地に移されてからは静かになってしまったという。

体温を超えるような灼熱の境内で、この榎木神社の中だけが岩の塀に覆われており大変に涼しい。が、涼を求めるのは人間だけではないようで、暫く居る間に足も手も首の辺りまで蚊に喰われていた。

小説家の田辺青蛙さんが「大阪怪談」の中で豆狸の話を書いている。古い家の軒下に住むというこの豆狸にも、ぜひいつか会ってみたい。

天神橋筋商店街は大変に長い商店街でアーケードもあり、扇町から南森町まで歩くのも苦にならない。

盆の季節でもあるので、可愛らしい団扇のお菓子を土産に持ち帰った。

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