『Dream Nights』

ねくすぽすとミュージカル企画vol.5
『Dream Nights』
脚本・演出 たかはしともこ
音楽    原嘉宏

S#0-1

   開場1分前
   風の音と木々のざわめきがかすかに聞こえ始める

♪「おやすみ伯爵の調べ」

   舞台中央に一人の少年
   あたりは薄暗く、はっきりと顔は見えない
   うさぎのぬいぐるみを固く抱きしめている

   高台より、少年を見つめる一人の女
   女はかすかに歌を口ずさんでいる

  魔女 
   誰に会いたいか もう 忘れてしまったの

   それはそれは 始まりの物語
   暗い夜の先 探すのは
   誰かしら?

   少年が歌声に気が付き振りむくが
   すでに女の姿はない

   少年、去る

S#0-2

   開演10分前。
   オープニングパフォーマンス。
   五年前の「DREAM NIGHTS」にて。


M0「Overture」
 A MUSE
  今始めよう 私のための物語
  誰にも譲らない
  この世界でたった一つ
  きらめくもの 探しに行くの

  私考えたわ 神様は意地悪ね
  こんなに欠かさずに 毎日お願いしてるのに
  ちっとも幸せになんて してくれないの
  
  それならいいわ お祈りなんてヤメヤメ
  掴んで見せるわ この手で

  ほら聞こえるわ 鐘の音がDing dong
  最高のハッピーエンド 見せてあげる

  今始めよう 私のための物語
  誰にも譲らない
  この世界でたった一つ
  きらめくもの 探しに行くの

S#1

♪「Opening」in

五年前の「DREAM NIGHTS」にて。
20周年記念イベントにて歌うA MUSE

M1「DREAM NIGHTS」
 アンサンブル(街の人々)
  始まるわ 始まるわ
  とっておきの 憧れの
  待ちわびた 夢の夜
  
  何かが始まる予感がするわ
  見たこともない 聞いたこともない
  夢の夜

  暗い時は過ぎ去り
  新しいこの時が ついに来た
  楽しもう 手を取り合い
  待ちに待った この夜を

マーカス  紳士淑女の皆様。今宵はようこそDREAM NIGHTSにお越しくださいました。忘れられない、夢の一夜をあなたに。歌っていただくのはもちろんこの三人。A MUSE!

 A MUSE
  Dream Nights Dream Nights
  今日もまた夢を見よう
  胸に秘めている 大事な夢を

  夢の中でまた会えるかしら
  夢のような 今日この夜
  あのね一つだけ わがままを 
  叶えてお願い これきりだわ

  夢じゃなくても会いたいのよ
  誰でもないあなたに会いたい

  長い長い夜の先に 待っていたもの
  今はもう一人じゃないから

  かけがえのない夢を見ているの
  今まさにあの頃の未来で 歌っているから
  忘れない今日この夜を
  あなたに会えた この夜を

  ♪

  かけがえのない夢を見ているの
  今まさにあの頃の未来で 歌っているから
  忘れない今日この夜を
  あなたに会えた この夜を

S#2

現在。DREAM NIGHTSにて。
五年前の出来事をオリバーに語って聞かせるマーカス。
しかしオリバーは、生返事をし、書類仕事を続ける。

マーカス もうあれから五年だ。この店、DREAM NIGHTSが始まって、二十周年の夜だった。

   書類を書き続けるオリバー。

オリバー  ええ、マーカスさん。
マーカス  オリバー、君ももちろん知っているね。
オリバー  ええ、マーカスさん。
マーカス  A MUSEの三人は非常に素晴らしかった。
オリバー  ええ、マーカスさん。
マーカス  彼女たちが平和を歌えば、誰もが平和を願い、またある時愛の尊さを歌えば、一人残らず愛することに夢中になった。彼女たちの復活は、誰もが望んでいることだ。そうだろう、オリバー。
オリバー  ええ、マーカスさん。
マーカス  長く暗い戦争は終わり、今まさに新しい時代が来ようとしている。それなのに、ここはいまいちパッとしない。なぜかわかるね?
オリバー  ええ、マーカスさん。
マーカス  そう、この店にはスターが必要だ。人々に夢を与える、絶対的なスターが。
オリバー  ええ、マーカスさん。
マーカス  そこでだ、一か月後、来る二十五周年の夜、彼女たちに、A MUSEにもう一度マイクを取ってもらいたい。そしてそのために。オリバー、君に動いてほしい。
オリバー  ええ、マーカスさ……ん?
マーカス  ありがとうオリバー! 引き受けてくれると思ったよ。
オリバー  ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか?
マーカス  二度も言わすな青年よ。今言ったとおりだ。
オリバー  二十五周年の夜に、彼女たちが、ここでもう一度歌う。
マーカス  素晴らしいことだ。
オリバー  そのために、僕が?
マーカス  やってくれるね、オリバー。
オリバー  いやいやいや、ちょっと待ってください、無理ですよそんなの! 僕にはやることがある。この山のような書類をさばいて、さばいて、さばいて、提出して、またさばいて……。いやそれに何より、彼女たちはもう歌わないって、そう言ったのはマーカスさんじゃないですか。
マーカス そうだ。彼女たちの手紙には決まってこう書かれていた。「何か大切なものを忘れてしまったから。その何かを思い出すまでは決して歌わない」と。
オリバー  ええ、聞きましたよ何回も! だから無理です。そんな詩的な怪文書の謎、僕には解けない。
マーカス  魔法の力でも何でも使って解いてくれ。
オリバー  お伽話だ! ……それに第一、僕はこの店にいた彼女たちのことを知らない。会ったこともない。
マーカス  大した問題じゃない。それにだからこそ、だ。何か新しい切り口を見つけてくれるかもしれない。
オリバー  買いかぶりすぎです。
マーカス  君が初めてここに来た日をまるで昨日のことのように思い出せる。「人に夢を与えられる人間になりたいんです。この場所で、より多くの人に、夢を与えたいんです!」……立派だった。それにとてもいい顔をしていた。
オリバー  昔の話です。
マーカス まあ、とにかく! 何でもいいから考えてみてくれ。君の案に、全面的に協力しよう。頼んだよ、オリバー。

   マーカス、去る。

オリバー  ちょっと、マーカスさん!

   オリバー、マーカスを追って去る。
   その時、書類を一枚落としてしまう。

 S#3

   オリバーとマーカスの会話を聞いていたサラ。
   ふふふっ、と笑い出す。

M2「秘密の魔女の歌」
 サラ
  この時を待ちわびた
  あの日の夢 叶えよう
  あの子たちと 交わした
  夢 約束 想い
  この力で

  オーガスティン アリー マルグレット
  ローガン バイオレット ゾーイ ミラ
  ハーパー ワイアット アリーヤ
  ビビ バーニー
  サラ サラ…… サラ!

  あの日 あの時 産声を上げ
  三日月の夜 そっとそっと 生まれ落ちた
  それは魔女の誕生日

  ご存知でしょうか 魔女の暮らし
  お伽話の中だけじゃないのよ
  ほらここに本物の魔女 でも
  人間のあなたには シーッ!
  言えないことがたくさんあるわ

  魔女だってこと バレちゃいけない
  だから隠れて紛れて でも交わるの時々ね
  そうとっても スリリングじゃない?
  秘密と嘘と あとちょっぴりのトキメキよ

  こんな暮らしも悪くはないけど
  だけどね 内緒よ 憧れているの
  夢とか 希望とか
  まるで人間みたいにね!

  でもでもね 魔女は人間と関われない
  昔はそうでもなかったのに
  最近じゃトンと厳しくなったわ
  つまらないわ ああ ああ ああ

  魔女に生まれて もうすぐ千と百年
  ずっとずっと人間を見てきた
  憧れていたの 儚く強いその一生に
  魔女には持てない不思議な力

  次に生まれるのなら人間になりたい
  誰かを愛するの 輝ける夢を持つの
  でも今 魔女として
  魔女として 生きるわ

   書類を取りに戻ってくるオリバー。
   魔法にあふれたその空間に唖然とする。
   風に舞う書類を追いかけ、やがてサラと目が合う。

S#4

サラ   見た?
オリバー 見てない。
サラ   そう。
オリバー ……何も。ちょっと疲れているみたいだ。
サラ   ねえあなた。
オリバー わかってる、わかってるよ。
サラ   ……シーッ。
オリバー そうだろうよ、そうだろうとも。こんなこと、言いたくもない! 頭がおかしくなったと思われる。いや、それもいいかもしれない。そうすればあの仕事から解放される。いや、そもそもこれは夢だ。夢に決まっている。でも夢にしては妙に現実的だ。僕は今まで一度だってこんな想像をしたこともなければそういった本を読んだこともない。つまりこれは……?
サラ   本当のこと。
オリバー わあ! びっくりした。
サラ   もしも、声に出して、私が……(口パクで「魔女」)だってこと、言ってしまったら……。
オリバー 呪われる?
サラ   そうとも言えるわ。だって、とても大切なもの、全部忘れてしまうことになるんだから。
オリバー なんだ、そんなことか。それならいいよ。僕には忘れたくない思い出なんて一つもない。むしろ忘れたいことだらけだ!
サラ   そう? でも、内緒よ。
オリバー 内緒も何も、こんなこと信じられないよ。でも、これが僕の夢の中の話だとはどうにも思えない。
サラ   そうね。
オリバー まあ、ともかく。君が……(口パクで「魔女」)だってことは、秘密にするよ。
サラ   ありがと。
オリバー ……ちょっと待って。君さっき、なんて言った?
サラ   ありがと。
オリバー いやそうじゃなくて君、さっき大切なものを忘れてしまうって言った?
サラ   ええ。
オリバー 君はA MUSEって三人組を知っている? 五年前、この店のスターだった。
サラ   とてもよく知っているわ。
オリバー やっぱり! そして君は、彼女たちにバレてしまった。その、アレだってこと。
サラ   ……それで?
オリバー それで、だから、もしそうなら、わかるんじゃないか。彼女たちはここを去って、そうして「大切なものを思い出すまでは歌わない」と言った。それって君のことだろう? そうに違いない!
サラ   そんなこと言っていたのね。
オリバー ほらやっぱり! 君は知っているんだ。彼女たちのこと。そうかそうか、まさかこんな……だからあんなに不思議な言い回しをしたんだ彼女たちは。解決だ。ねえ、君なら呼び戻せるだろう! 彼女たちのこと。
サラ   無理よ。
オリバー どうして!
サラ   だって、手紙に書いてあったんでしょう。忘れてしまったものを思い出すまでは歌わない、って。
オリバー いやいやいや、そこはほら、君のその、アレで、ちちんぷいぷーい、みたいな?
サラ   ねえ、オリバー。
オリバー どうして名前を知っているの!?
サラ   何でも知っているわ。知ろうとしたことは全部。
オリバー 君の名前は?
サラ   サラよ。
オリバー サラ。
サラ   ええ。ねえオリバー。私、あなたに協力したいのよ。あの子たちをこの街に呼び戻すため。
オリバー さっき無理って言ったじゃないか。
サラ   私にはできないのよ。でも、あなたにならできる。
オリバー そんなことある?
サラ   あるわ。
オリバー ……僕は、彼女たちのことが好きじゃない。だから本当は、戻ってきてほしくないとも思っている。
サラ   どうして?
オリバー だって、彼女たちが夢を叶えて、スターとしてここで過ごして、そしてその間に一体何人の人たちが夢破れたのかと思うとさ。うまく言えないけど。
サラ   あの子たちが、何の苦労もなく夢を叶えたとでも?
オリバー 違うよ! そういうことじゃないんだ。彼女たちはすごい。ただ、これは僕の問題だ。
サラ   そう。じゃあ、まずはそうね、あの子達のことを知って。そして好きになって。教えてあげる。あの子たちのこと。
オリバー わかった。話してよ。
サラ   いいわ。それじゃあ、七年前のロックベリーに行きましょう。

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