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樋口楓2ndフルアルバム「GAME GIRL」発売記念インタビュー 「ゲームをコンセプトにつくりたかった曲は、全部入れることができた」

VTuberグループ「にじさんじ」一期生としてデビューし、「でろーん」の愛称で知られるバーチャルライバー、樋口楓さん。YouTubeでの配信では関西弁によるトークやゲーム実況で81万人を超えるフォロワーに推される人気VTuberの樋口さんですが、2020年にはランティスからメジャーデビューを果たすなど、アーティストとしても積極的に活動しています。
10月9日にリリースされた2ndフルアルバム「GAME GIRL」のコンセプトや収録曲について、これまでのアーティスト活動をふりかえりつつ、ふだんの配信でも見せる樋口さんのゲーム愛をまじえて、お話をうかがいました。

©Bandai Namco Music Live Inc. ©ANYCOLOR, Inc.

2ndフルアルバムは「ゲーム」がコンセプト

――2ndフルアルバムの発売おめでとうございます。2020年の「AIM」から約3年10か月ぶりのフルアルバムですが、どのようなコンセプトで制作されたのでしょうか。
樋口 今回は「ゲーム」をテーマにアルバムをつくろうと考えて、新規の書き下ろし曲もたとえば恋愛ゲームならこういう感じの曲で……みたいにイメージを出しながら、サウンドプロデューサーの光増ハジメさんに相談させていただきました。

――VTuberとしての配信活動でもゲームをプレイされることが多いので、ゲームは樋口さんにとって身近なテーマでもありますね。
樋口 にじさんじに入る前から好きで遊んでいたし、私以上にゲーム好きなリスナーさんたちから教えてもらって始めたゲームもあったりするので、ゲームは私の生活の中にあるものって感じですね。みんながなじみのあるゲームで、少し懐かしく思っていただけるとうれしいなと考えて、私が初めて遊んだゲーム機がゲームボーイアドバンスだったので、その名前をもじって「GAME GIRL」というアルバムタイトルにしました。

――初回盤のジャケットはレトロな携帯ゲーム機のイメージで、歌詞カードを差し替えることで画面が変わる凝った仕様ですが、通常版のジャケットアートも乙女ゲーム風ですごいインパクトです(笑)。
樋口 そもそもリスナーさんに「ガチ恋はしないでね」と言っている私を恋愛ゲームのキャラクターにたとえたらおもしろいんじゃないかというコンセプトで(笑)。もし樋口楓を攻略対象にするなら、かわいいよりかっこいいキャラだよねということで、「イケメンシリーズ」で人気の山田シロ先生に描き下ろしていただきました。

「GAME GIRL」初回限定盤
「GAME GIRL」通常盤

VTuberとしての不安や焦りを超えて

――1stアルバムからの大きな変化として、今回の収録曲にはタイアップで歌われた楽曲が増えたことがありますね。
樋口 レーベルのランティスさんのおかげでもあるんですけれど、「AIM」を出してからの3、4年の間にVTuberっていう存在がすごく浸透して、世の中の流れが変わったなというのは感じますね。初期からのにじさんじのリスナーには、樋口楓=歌というイメージがあったみたいですけど、グループが大きくなるにつれて新しくファンになってくれた人から「樋口楓って歌う人だったんだ」みたいに言ってもらえることも増えてきて。タイアップ曲を歌わせていただいた作品から入って、YouTubeの配信を見たりラジオを聴き始めたという方もいらっしゃるので、入り口がめちゃくちゃ広がったなと思います。

――テレビの音楽番組やフェスでVTuber、Vシンガーを目にすることも増えましたからね。「量産型リコ」のタイアップはテレビドラマということで、アニメやゲームのファンとも違う層に届いていた印象です。
樋口 VTuber活動をしていなかったり、あまりアニメを見ないタイプの友達がテレビで「量産型リコ」の楽曲を耳にしたのを機に連絡をくれたりしました。今までずっと「樋口楓の曲だから聴いてもらう」という活動をしていた気がするんですけれど、作品を通して私を知ってもらうことも増えてきて、日に日にフェーズが変わってきたなというのを感じていますね。

――先日の「VTuber最協決定戦 SEASON6 Ver APEX LEGENDS」でも活躍されていましたが、そこから知った人にとっては、歌う樋口さんが新鮮かもしれませんね。昨年は声帯結節の手術で配信活動を休止されたりもして、不安や焦りもあったのではないでしょうか。
樋口 休止中も動画を出せるように準備はしていたんですけれど、VTuberとしてリアルタイムでのリスナーさんとのコミュニケーションができない期間は、やっぱりすごく不安でした。日に日にエゴサで名前がひっかからなくなったりして、目に見えるものが全てではないと頭では分かっていても、それでしか自分を保てない時期ではあったので。休んでいるので身体はすごく楽ではあったんですけれど、心はしんどかったですね。

――アルバムのリード曲「Reset and...」はそういう不安や焦燥感を歌っている曲だと思いますが、樋口さんとしてはどんな気持ちを込められたのでしょう?
樋口 個人的に「リセット」って「心機一転」みたいな意味だと思っていて。声帯結節の手術をすると今までどおりの声には戻れず、新しい声で再スタートすると言われているんですよ。私は私だし、不安だったころの自分も自分だから、リセットしても変わらず続けていくみたいな……。小休止してみて、こんなに自分のことを思ってくれるファンがいたんやというのにもびっくりしましたし、結果的にこうして変わらずお仕事できているので、生まれ変わるというとおおげさですが、そういうニュアンスでの「リセット」ですね。

タイアップ曲に込めた想い

――Wリード曲の「キュンリアス」はアニメ「転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます」のオープニング主題歌ですが、おもしろい曲名ですよね。
樋口 主人公のロイドくんが、たくさんの女性キャラに囲まれていても、恋愛とかじゃなく魔術にしか興味がないっていう部分に焦点をあてた曲で。魔法を極めることにすごくワクワクして、ときめく少年の好奇心を意味する英語(curious)と、キュンを掛け合わせた言葉をタイトルにしてもらいました。

――アニメファンの間でも話題になった作品で、制作スタジオのつむぎ秋田Labも注目されました。樋口さんもリアルタイムで同時視聴配信をされていましたね。
樋口 もともとコミカライズを読んでいたんですけれど、絵の描き込みがすごい作品だったので、それがアニメで動いているのがすごいなって思いました。戦闘シーンもド派手で、リスナーさん達もめっちゃ楽しい! と盛り上がってくれたので、「第七王子」のオープニングを歌わせていただけたことは光栄でしたね。

――ドラマ「量産型リコ」シリーズの楽曲は安藤紗々さん作詞の等身大ガールポップです。アップテンポな「ビューティーMYジンセイ!」「ぶっ飛んでラニカイ」と、やや雰囲気の変わる「アイムホーム!」の3曲の世界観を、樋口さんはどうとらえていますか?
樋口 安藤さんから聞いたところによると、「ビューティーMYジンセイ!」「ぶっ飛んでラニカイ」の2曲はプラモデル用語を歌詞に入れてほしいというオーダーがあったそうですが、シリーズ3作目は家族愛を確かめるハートフルな物語だったので、「ただいま」「おかえり」みたいな雰囲気の曲にしたかったんです。「アイムホーム!」には風鈴や花火のような、子どもの頃に聞いた懐かしい音も入っていたりして、3曲がそれぞれドラマの世界観に合ったものになっているんじゃないかと思っています。

――熊田茜音さんとのデュエット曲「Take My Chance」のソロバージョンや、「Bravery? Naturally?」のような爽やかなロックサウンドは樋口さんの持ち味を感じます。
樋口 「Bravery? Naturally?」はアニメ「英雄教室」のOPで、主人公のブレイド君が学園生活も楽しみつつ、みんなで少しずつ勇気を出し合って大きな物事に立ち向かっていくようなアニメだったので、その雰囲気を表現できるような楽曲にしたかったんです。それなら爽やかなロックにしようという光増さんの提案でこういう曲になりました。

――イントロからしてアニメのオープニングらしい気持ちよさがありますね。
樋口 確かに! ここでタイトルが入るって想像できますよね。

――同じアニメソングでもアニメ「100万の命の上に俺は立っている」2期OPの「Baddest」は、超ハードなギターサウンドです。これだけ違う曲調を歌いこなす上で何か意識する部分はあるのでしょうか。
樋口 「Baddest」はダークロックだからちょっとダークめに歌うとか、「アイムホーム!」なら実家でゆっくりする情景をイメージして歌う、みたいなのはあるんですけれど、特に意識して喉を切り替えて歌うみたいなことはしていなくて。自分が思うそれぞれの曲の印象のままにレコーディングしている感じですね。

――「Baddest」冒頭のシャウトには圧倒されますが、ライブでは披露されるんですか?
樋口 最近ライブではやっていないので、ちょっと歌いたいなという気持ちもありつつ……シャウトして喉を壊したらほかの曲が歌えなくなっちゃうんで(笑)。自分のコンディションと相談して決めようかなって感じです。

コンセプト満載のアルバムオリジナル楽曲

――最初に歌ったらそこで喉を使いきってしまいそうですね(笑)。にじさんじの瀬戸美夜子さんが作詞を手掛けた「Feel it now」は、アルバムのなかでも屈指のかわいらしい楽曲になっています。
樋口 山田シロ先生にジャケットイラストをお願いする流れで、恋愛ゲーム風の曲をどうやってつくろうとなった時に、樋口楓が誰かに恋するより、樋口楓に恋してもらうほうがおもしろいと思って。「樋口楓を落とす」のをコンセプトに曲を書いてもらうなら、私のことを知っている人に頼んだほうがおもしろいよなと考えて、にじさんじのライバーにお願いすることにしたんです。

――瀬戸美夜子さんに作詞を依頼しようと思われたのはなぜですか?
樋口 せとみやさんが詞を提供した曲を聴いていましたし、私をよく慕ってくれる後輩のひとりでもあるので「樋口楓を落とすつもりで詞を書いてほしい」とお願いしたら、「えぇっ?」と言いながら書いてくれたんです。プライベートで深い付き合いがあるという訳ではなかったので、この機会にごはんに誘っていただいて、樋口さんの好きなタイプとか、趣味とか教えてもらえますか?みたいな、お見合いの初日みたいなノリのやりとりをしました(笑)。歌詞の中に、私が雨の日に傘をささないみたいなネタも入れてくれて、キュンキュンだけでなく、この人を好きになってしまってどうしよう、みたいな感じの歌詞になっています。

――ぜひ実際に恋愛ゲームをつくっていただきたいな、と思いました。
樋口 自分も遊んでみたいです。「はぁ?」とか思いそうだし(笑)。

――「MML」は樋口さんが愛してやまないオンラインRPG「マビノギ(mabinogi)」とのコラボ楽曲で、自ら作詞も担当されていますね。
樋口 たぶん私より「マビノギ」を熟知している作詞家さんはいないと思うので……「マビノギ」の曲を歌わせてもらう以上はちゃんとつくりたいという気持ちで書かせていただきました。光増さんにも「マビノギ」感を出したいとお願いして、曲の中にゲーム内で流れる音がオマージュされて入っていたりするので、「マビノギ」のプレイヤーなら気づいてくれると思いますし、この曲がきっかけになって新規のプレイヤーが「マビノギ」で遊んでくれたらうれしいなと思っています。

――タイトルもゲーム内で作曲できる「ミュージックマクロランゲージ」の略称からで、「マビノギ」愛を感じます。
樋口 そうなんですけれど、私の場合は遊んでいるサーバーがマリーサーバーなので「Mari Mabinogi Life」みたいに、略称の「MML」をあえてほかの言葉にして、「マイマビノギライフ」だったり「マイマビノギラブ」だったり、自分なりのいろいろなMとLの頭文字にして楽しんでくれるといいなと思っていたりするんです。

――長年のプレイヤーならではの想いを感じるお話です。「Around the bizarre world」は、松井洋平さんの詞と樋口さんの歌唱の相互作用でミステリアスな一曲になっていますよね。
樋口 私はめちゃくちゃホラーが苦手なんですけれど、PCゲーム「すだまリレイシヨン」は洋風ホラーではなく日本のオバケとか妖怪の物語なので、ヒュ~ドロドロ……みたいなおどろおどろしい感じを出して歌いたいというテーマがあって。メリハリはつけつつ、「謎を解き明かしていく楽しさ」のほうで歌わせていただきました。

――「野球讃歌」は樋口さんの野球愛を感じる曲ですが、この曲を今回のアルバムの中に入れようと思ったのは?
樋口 そもそも私は野球好きなんですけれど、甲子園球場でトランペットを吹いたこともあって。球場で応援をしたことのある人なら、みんなで応援歌を歌ったりする楽しさがわかると思うんです。「AIM」の時は「Victory West!」っていう曲で「実況パワフルプロ野球」のことを歌ったんですけれど、今回は本物の野球応援歌にしたいと思って、管楽器を入れてどのチームのファンでも歌える曲をテーマにつくってもらいました。球場に行ったことのある人なら絶対に聴いたことがあるフレーズも入れたので、野球好きな人はおもしろいと思って聴いていただけるんじゃないかと思っています。

――ラジオ番組のタイトルを冠した「こんな良い時間に何してんねん!」は、変幻自在なテンポや関西弁の歌詞がカオスで楽しい曲になっていますね。
樋口 ビバラッシュさんのつくられる楽曲がめちゃくちゃおもしろくて、いつか歌ってみたいと思っていたんです。いろんなゲームを詰め込んだパーティーゲームみたいな曲にして、ゲームで遊ぶ楽しさを伝えることをモットーにつくってもらいました。個人的に入れたかったのが「ゲームあるある」で、夜中にゲームの音でお父さんを起こして怒られるみたいな私の経験談も歌詞になっています(笑)。

――ゲームをコンセプトにバラエティに富んだ構成で、聴いていて楽しい一枚になっていると感じます。樋口さんにとって「GAME GIRL」はどんなアルバムになりましたか?
樋口 休止明けくらいから話を始めていたので、思い返せば長い時間をかけてつくっているんですけど、完成してみるとあっという間だったというか。ゲームをコンセプトに、自分がつくりたい曲は全部入れることができたので、満足しています。でろーんはゲームをこんな風に思っているんだとか、自分もゲームでこういう経験をしたことあるとか、一曲ずつ楽しみながら聴いていただけるとうれしいですね。

――樋口さんのゲーム愛はすごく伝わってくると思います! 11月からは初のソロライブツアーが台北と東京で開催されますが、意気込みはいかがですか?
樋口 台北での開催は、大きな挑戦なんですけれど、台北だからこそできることみたいなのを、ライブのなかに取り入れたいと思っています。東京は東京で、台北とまた違う感じの公演にして、同じツアーでもそれぞれ違う側面を楽しんでいただけるようなライブにしたいと思っているので、ぜひ現地に来ていただければ!

【取材・文:平岩真輔】


樋口楓「GAME GIRL」
発売:ランティス
発売・販売元:バンダイナムコミュージックライブ
価格:初回限定盤 5500円(税込)/通常盤 3850円(税込)

リンク:樋口楓YouTubeチャンネル
    樋口楓公式X(Twitter)・@ Higuchikaede
    樋口楓レーベル公式サイト
    樋口楓「GAME GIRL」購入・配信サイト
    Higuchi Kaede 2024-2025 LIVE Tour “BREAKING”特設サイト