意識したのは「語尾を伸ばさないこと」――映画『きみの色』、百道さく役・やす子インタビュー
8月30日に公開となった山田尚子監督最新作「きみの色」。人が「色」で見ることができる少女・日暮トツ子を主人公に、バンド仲間の作永きみ、影平ルイと仲が深まっていく様子が描かれます。そんな本作でトツ子のルームメイト・百道さくを演じるのは、声優初挑戦となるお笑い芸人のやす子さん。山田監督も参加したTVアニメ「日常」が大好きと公言する彼女は、どのような思いで「きみの色」に出演したのでしょうか?
――やす子さんといえば、宣材写真の手のひらを正面に向けるポーズが「日常」に由来していることでも知られています。「日常」に限らず、もともとアニメはよく観られていたのですか?
やす子 今は数が減ってしまったのですが、中高生の頃はとても観ていました! 中でも好きだったのは、「日常」と「WORKING!!」、「化物語」ですね。当時はマンガ家になりたくて、可愛い女の子が出てくる作品を見つけては観ていたんですよ。あと、当時から制作スタジオの名前を意識していたので、シャフトさんだからとか、京都アニメーションさんの新作だから観るなんてこともしていました。特に京アニさんは、「涼宮ハルヒの憂鬱」に「らき☆すた」も観ていました。「けいおん!」の影響で高校時代にはギターも弾き始めました!
――高校時代にギターを弾かれていたからこそ、トツ子たちのバンド活動には感情移入ができたのでは?
やす子 はい! バンドこそ組まなかったですけど、友達と一緒に「けいおん!!」のオープニング主題歌「GO! GO! MANIAC」を演奏していましたし、女子の多い高校にいたので理解できるシーンも多かったです。思春期特有の素直になれない気持ちにも、とても共感できましたね。でも、自分が演じるとなると10年くらい前のことになるので思い出すことに必死でした(笑)。
――やす子さん演じるさくは、トツ子のルームメイトである森の三姉妹のひとりです。
やす子 もちっとしたビジュアルにも癒されますけど、まず、友達と楽しく寮生活をしている様子に憧れました。自衛隊時代にも寮生活をしていましたけど、あんなにルームメイトとお菓子を食べたことはなかったですからね。帰寮したらすぐに電気を消して寝る、みたいな生活をしていました。もし、教官のモノマネをスマホで録音していたものなら、その場で腕立て伏せをしなくちゃいけなかった(笑)。なので、さくちゃんたちみたいな生活を送りたかったな、とどこか「なりたい自分の理想像」としてとらえていましたね。
――さくを演じるにあたって、特に意識したことは何ですか?
やす子 語尾を伸ばさないことです。自分は声優ではないので下手くそではあるんですが、百道さくではなくやす子だと見られたいわけではありません。コントで役を演じるときはどこかやす子らしさが残っていてもいいですけど、今回は自分を殺すことに専念しました。収録前、コンビニに行くたびに語尾を意識しながら店員さんと受け答えするようにしていましたね。その結果、少しは抑えられたのではないのかなと思っています。
――完成した映像をご覧になって、どのように感じられましたか?
やす子 一人での収録だったので、実際に観るまでとても怖かったんです。さくちゃんが出てくるシーンは怖さのあまり直視できなかったんですけど、他の方から馴染んでいたと聞いて、ようやく作品の一部になれた気がしました。個人的には3人のライブシーンにとても感動しました。ライブの前にさくが叫ぶシーンがあるんですけど、3人の感情が爆発するきっかけに自分が演じるキャラクターがいたことは本当に嬉しかったです。
――トツ子の作曲過程にもかなり共感したのでは?
やす子 自分もちょっとした思いつきからスマホにアイデアを録音することがありますから、とても感情移入できました。初めて楽器を触るシーンはこんなに感動するよねとか、自分が作った歌詞を人に見せるのって恥ずかしいよねとか……。ちょっと懐かしさも覚えましたね。
――ついに「きみの色」が公開となります。やす子さんはどのように「きみの色」を観ていただきたいですか?
やす子 自分が演じたところだと、遅刻ギリギリのさくちゃんが「セーフ!」って手を広げながら言うシーンがあるんですけど、収録のときに同じポーズを取ったんですよ。もし再鑑賞されるなら、そんなことを頭の片隅に置いていただけると面白いかもしれません。森の三姉妹のアドリブにも注目です。どの世代でも、どの国の人でも刺さる美しい映像によって感情を動かされる作品だと思っています。作品を観て、誰かに思いを伝えたり、家族に感謝の気持ちを届けたくなったりしてほしいですね。
取材・文=太田祥暉
写真=大川晋児(atelier Sirius)
『きみの色』
全国で絶賛公開中
https://kiminoiro.jp/
なお、9月10日発売「ニュータイプ10月号」では、『きみの色』の表紙・巻頭特集。キャラクターデザイン・作画監督の小島崇史さん描きおろしのきみちゃんが目印です。
また、映画公開に合わせて、唯一無二の公式ガイドである「きみの色 アニメーションガイド tri-angle」が発売しています。山田尚子監督、脚本の吉田玲子さん、音楽・音楽監督の牛尾憲輔さんほか20名上のスタッフ・キャストへの取材や、美術や場面写真など数多くの図版など、たくさんの情報を詰め込みました。紙&電子ともに発売中です。