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バイシクル

自転車に乗っていると一瞬で涙が乾いた。私の神様みたいな、あのロックスターも自転車とか乗るのかな。シュッとしたかっこいいやつじゃない、こういうダサいママチャリに。
全26色の色とりどりのボールペンを手に入れたとき、自分では平等に使っていたつもりだったのに『マリーゴールド』という色が真っ先に枯れた。日記帳を見返したらマリーゴールド色ばっかりだった。わかんないけど、わかんなかったけどわたしはこれが好きなんだと思った、だから同じ色の自転車にした。わかんないのは嫌だった。
いちばん好きなものから死んでゆく。そればっか愛するから。新しいのを買えばいいけど、あいにく私はそうできるだけの資源を持ち合わせていない。たとえあのロックスターがシュッとした自転車に乗っていても、私は多分絶対、最後は身の丈に合ったこのダサいママチャリと心中する。
自転車に乗っていると一瞬で涙が乾いた。一瞬で乾く。でも上塗りするようにまた溢れてくる。リストカットと似ているかも、と思うけど、私はリストカットをしたことがないからリストカットを語る言葉を持たない。同じで、溢れてくる涙の理由を説明できるくらい多くの言葉を私は持ち合わせていない。持たないのではなく、残念ながら持ち合わせていない。持ってないものばかりだ。ほしい。悔しい。涙があふれる。あれとかこれとか、もっとほしかった。
君のほうじゃなくて、君を泣かせる世界のほうがおかしいんだってあの人は歌ってくれた。そうか、でも私、どうしても、世界じゃなくて泣いてる私のほうがおかしいと思ってしまう。どう考えてもそうなんだ。自転車に乗っているとき音楽は聴けない。聴けないけど、確実に一瞬だけ涙は乾く。あなたのことは好きだしあなたの話はわかる、でも聞きたくないときがある。だから私はひとりで自転車に乗る。家に帰ったらリストカットをしてみようと閃いちゃったから、このまま永遠に帰宅しないのがいいだろう。実際のところは自分の皮膚を切るなんて度胸はない。と思う。1番好きなのは枯れたから2番目に好きな色のペンを選んで手首に線を描くだけにとどめる。と思う。ずっと苦しかったし、今も苦しい。おかしいのは世界ではなく私のほうだ。

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