EDMシーンに暴動を。-Pendulum、帰還-

 今年も数多くのバンドやユニットが再結成/再始動を果たしている。その多くが歓迎を持って迎えられていて、米国を代表する音楽フェスティバルのコーチェラに至っては、3日間のうち2日間は再結成アクトがヘッドライナー(Gun's N' Roses、LCD Soundsystem)である。もちろんどちらも大好きとはいえ、個人的にはあまりそういう動きを歓迎したくはない。やっぱり「今」を反映したミュージシャンが主役であるべきだと思う。解散や活動休止の知らせを聞いても「いつか戻ってくるだろう」と考えるようにもなってしまった。

 とはいえ、「歓迎すべき再結成」もある。それは、今の音楽シーンに決定的に足りない唯一無二の存在。「懐メロ」なんて言葉からは程遠い、今でも十分通用するような音をぶちかましてくれるミュージシャンの再始動には大いに意味がある。例えば、一昨年、14年ぶりに本格的に動き出したD'Angeloは「ファンクっぽい音」が蔓延する音楽シーンに「本気の濃密なファンク」を注ぎ込み、模倣する連中に格の違いを見せつけていた。

 さて、間もなく開催される、世界最大規模のEDMフェスティバルことULTRA MUSIC FESTIVAL。今年の大トリを務めるのは、2011年以来5年ぶりに復活を遂げるPendulumだ。彼らの公式ホームページでは、復活までのカウントダウンが進行している。

 彼らの復活がアナウンスされたのは昨年の年末。豪華な出演陣のロゴが並ぶ中、突如出現した「Pendulum Returns」の文字。その事実に気づいた時、世界中のダンスミュージックファンが歓喜した。なぜなら、EDMが蔓延する現在のダンスミュージックシーンに最も必要な存在こそ、Pendulumだからである。

 Pendulumは、2002年にオーストラリアで結成された6人組のロックバンドだ。彼らの最大の特徴は、ドラムンベースやブレイクビーツを人力で打ち鳴らすという強靭な肉体性である。彼らが放出する、ダンスミュージックの享楽性とバンド演奏による暴力性を兼ね備えたハイブリッドなサウンドは、世界中のダンスフロアをモッシュピットへと変貌させた。

 彼らは日本でも厚いファンベースを築いており、2008年と2010年にSUMMER SONICのSONIC STAGEでヘッドライナー/準ヘッドライナーとして出演している。2010年、今では語り草となっているパフォーマンスの映像がこれだ。観客の盛り上がりに注目してほしい。

今でこそ、Pendulumの意思を継いだ、ModestepThe Qemists、あるいはEnter ShikariCrossfaithといったバンドがダンスミュージックとロックの融合に挑んでおり、それぞれが成功している。しかし、やはりPendulumは圧倒的である。彼らが他のアクトと比べて優れているのは、ダンスミュージックとバンドサウンドのバランス感覚だ。前述したバンドはどれもバンドサウンドの凶暴性に重きを置いているが、Pendulumはその2つを最も次元の高いレベルで両立している。ダンスミュージックリスナーにとっても、ロックリスナーにとっても等しく受け入れられる存在なのである。更に、フィーチャリングとしても起用されるほどの美声を持つメインボーカル、Rob Swireが歌い上げるメロディの素晴らしさもポイントだ。

 そして彼らの音楽性は現在のEDMシーンに直結していると言っても過言ではない。Pendulumの十八番でもある、躍動するリズムパターンが印象的なドラムンベースは今でも古びることなく、SigmaRudimentalといった新たな才能も生まれ続けている。もう一つの特徴である力強いメロディは言わずもがな、EDMの一つの特徴といって良いだろう。

 そんなPendulumのドラムンベースサイドの名曲、そしてメロディサイドの名曲をそれぞれ並べておこう。どちらも2000万回以上の再生回数を誇る大ヒット曲である。特に、"The Island"はカウントダウンのBGMとしても流れており、今回の復活のテーマソングのような存在だ。前者は10年前、後者は5年前の楽曲だが、移り変わりが異常に早いダンスミュージックシーンでも、今なお色褪せる事はない。


 さて、Pendulumの魅力は何よりもライブである。音源に閉じ込められた凄まじい密度のエネルギーが、生演奏によって何倍にも増幅し、フロアへと放出され、オーディエンスの身体へとブッ刺さる。このエネルギーは、ただ曲を流すだけでは絶対に生み出す事が出来ないだろう。だからこそ、オーディエンスは我を忘れて熱狂するのだ。印象的なのは、彼らのベストパフォーマンスとも言われる2009年のグラストンベリー。今まで沢山の同フェスの映像を見てきたけれど、ここまでオーディエンスが沸騰している映像はなかなか見る事が出来ない。だからこそ、2011年の出演が彼らの活動休止のきっかけとなってしまったのは悲しかった。詳しくは調べてみてほしい。

 さて、活動休止したPendulumが2011年以降全く姿を見せなかったのかというと、そんな事はない。活動休止以降、中心メンバーだった2人がKnife Partyと名乗り、EDMの第一線でダンスミュージックプロデューサーとして活動を開始したのだ。この展開にはファンも大いに驚かされた。Knife Partyのサウンドは多岐にわたるが、やはり特徴的なのはPendulum時代から受け継がれてきた超凶暴なベースミュージックだろう。人気曲"Bonfire"では、ドロップでSkrillexとタメを張るレベルの凶暴なブロステップを味わう事ができる。

 Pendulumファンにとっては割と複雑ではあったのだが、Knife PartyはPendulum以上に成功した。EDMフェスティバルではメインステージ常連、昨年のElectric Zoo Tokyoでも準ヘッドライナーとして来日を果たしている。Pendulum時代よりもずっとずっと巨大なステージでプレイしてきたのである。僕も、Pendulumが恋しいとはいえ、Knife Partyも超カッコ良いからまぁいいのかなという気分になっていた。

 しかし、加速していくEDMの商業化/テンプレ化。ミックス済みのセットリストをUSBに突っ込んで、ただボタンを押して再生するだけで数億単位のギャラを稼ぐDJ。テンプレのメロディ部分だけを変えたような、量産型の楽曲。開き直ってほとんどDJ卓に触れる事なく、その代わりにケーキを投げまくるSteve Aokiといった具合に、ダンスミュージックが本来持っていた肉体性がどんどん失われていくシーン。そして、日常を忘れるための音楽だったはずのダンスミュージックが、今やパリピのBGMとしてコミュニケーションのツールとなった状況。そんな商業主義の動きを破壊するような存在が必要だ。それも半端じゃないパワーを持った存在が。

 そんな現状を意識したのかどうかは分からない。ただ単に、また始めたくなったのかもしれない。しかし、やはりそこに何か意味を見出してしまいたくなるのがリスナーの性である。だから言い切るが、今のEDMを象徴する存在であるULTRA MUSIC FESTIVALの大トリとして、ダンスミュージックに肉体性を取り戻すべくPendulumが復活する。果たして彼らは、ダンスミュージックに再び革命を起こすのか?それとも巨大化したEDMに飲み込まれてしまうのか?その答えはもうすぐ分かるが、これが一つのターニングポイントになるのは間違いない。

 3月21日(月)午前10時40分から、ULTRAの公式ホームページ上でPendulumのステージが中継される。是非見届けてほしい。

[3/25追記]

 この記事を書いてすぐに、本当にPendulumは復活した。何はともあれ、実際の映像を見るのが一番早い。是非、なるべく大きな画面で、なるべく大きな音で聴いて欲しい。

(0:00~37:10:Knife Party、37:10~:Pendulum)

 ハハハ、超カッケェ。前半のKnife Partyパートは勿論攻撃的でアガりっぱなしだし、その後のまさかのRage Against The Machineのトム・モレロ投入で人力"Bonfire"という衝撃展開も痛快だ。Pendulumパートに入ってからは、もう言うことないだろうこれは。観客もULTRAのノリとはいえ、どんどん頭のネジが外れていってるのが良く分かる。後は早くこのステージを日本で見れれば・・・、

 いや、寝るなよ。頼むよ。

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