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【後編】『呪怨:呪いの家』三宅唱監督インタビュー

7月3日から全世界独占配信が始まったドラマ『呪怨:呪いの家』。本作で初のホラー作品を手がけた三宅唱監督とは一体どんな人物なのでしょう? 質問への回答から導き出された56作品とコメントを前編・後編に分けてご紹介します。(写真:岩澤高雄)

三宅唱(みやけ・しょう) 1984年札幌生まれ。映画監督。一橋大学社会学部卒業。映画美学校フィクションコース初等科修了。主な監督作に映画『THE COCKPIT』(2014)『きみの鳥はうたえる』(2018)、『ワイルドツアー』(2018)など。MVでは星野源「折り合い」なども手がける。
呪怨:呪いの家
Jホラー界を牽引してきた高橋洋氏と一瀬隆重氏が脚本を担当。これまで『呪怨』シリーズで描かれてきた"呪い"の基となった一軒の家で起こる忌まわしい事件と恐怖の連鎖、この家に関わる人々の人間ドラマを描く。

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*ネットフリックスで鑑賞できる作品には★をつけています。
*★のついた作品はタイトルに作品ページがリンクされています。
*シリーズであげている場合はネットフリックスで配信されている作品の中で最も公開年が早い作品をリンクしています。


世間では評価をされていない、埋もれた名作は?

★『最後の追跡

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冒頭のカットから、映画を分かっている人が撮っているなあとうっとりした作品。ド頭の銀行強盗シーンは、カメラワークはとても静かなのに、めちゃくちゃスリリングということが達成されています。地味で汗臭い話ではありますが、とにかくセンスがいい。日本では劇場公開されなかったので埋もれているように思いますが、ネットフリックスで観れるのでぜひ。


劇場よりも自宅で観るのに適していると感じる作品は?

★『ラブ

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ドラマシリーズは途中で挫折しまうことが多々あるんですが、この作品は珍しく最後のシーズンまで観終えて、完全にロス状態に。登場人物が全く成長しないのが好き。少し成長したと思ったら、次でまたバカに戻っている。映画の尺だと何かが達成されたり変化せざるをえないところ、連続ドラマのグダグダと語れるフォーマットと主人公たちが合っていて、面白かったです。シーズン1ではあまりヒロインに惹かれなかったんですが、最後にはもう、全部のシーンが魅力的に見えて、悶絶していました。これは恋ですね。


最もバケモノの怖さを感じた作品は?

『グレムリン』

★グレムリン、ブルーレイ2500

グレムリン

小さい頃に観て、すごく怖かったです。増えたりするなんて、意味が分からない(笑)。ネチョネチョのサナギみたいになるのも気持ち悪い! と思った記憶があります。うっかり水をかけちゃうとか、夜にピザはダメなのに食べちゃうとか、そういうシーンにいちいち、うわぁ、ダメ~! って、ハラハラしました。


今注目している気鋭監督のイチオシ作品は?

『宝島』

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宝島

ギヨーム・ブラック監督の映画。どうやって撮ったのかわからない場面だらけ。技術的なことではなく、出ている人たちとの信頼関係が途轍もないです。こんなふうにカメラの前に人が存在するためには、カメラを回す前に一体どんなコミュニケーション(=演出)があるのだろう。ぶっ飛びました。


ー 夜が明けるまで語り合いたい作品は?

『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』

ビフォア・サンライズ

ビフォアサンライズ

「夜が明けるまで」なので、そのまま……(笑)。イーサン・ホークとジュリー・デルピーが、1995年のこの作品から、2013年までの全3作のシリーズを演じています。映画をつくることと、歳をとることがイコールになっているのはすごく幸せなこと。学生の頃はピンと来ませんでしたが、歳を重ねてこの仕事をするうちにその良さに気がつきました。


これには敵わないなと思った作品は?

『ラブ ゴーゴー』

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ラブゴーゴー

台湾のラブコメ映画ですが、信じがたいほどの純愛が映っていて、驚きました。劇中で主人公がラブレターを出すんです。それだけでもピュアですが、そこには好きだとか、付き合いたいとかいう直接的な言葉は一切ない。ぜんぜん違うことが書かれたその文面に、涙腺が崩壊しました。あまりにも素敵な映画。


ー 映画の基本が学べる、教科書的な作品は?

『アポロ13』

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アポロ

小学校5年生の時に観て、宇宙すげえな、NASA入りたいなと思った。自分の目で実際に見るのはなかなか難しいことでも、映画を観れば体験できる。映画が、新しい世界を教えてくれる窓であることに立ち戻らせてくれる作品です。自分がいろいろなジャンルを撮りたいのも、映画づくりを言い訳に、知らない世界に触れられるからだと思います。新発見してみんなに報告する、みたいな、宇宙飛行士の気分で映画をつくりたいです。「ここに幽霊いた!」みたいな。

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三宅監督的ミューズが登場する作品は?

『ハスラーズ』

ハスラーズ(DVDジャケット画像)

ハスラーズ

ストリッパーを演じるジェニファー・ロペスの堂々たる様が最高でした。ジェイローここにあり! って感じで。いろんなタイプの女性に元気をもらいますが、今日の気分で。ちなみにミューズは毎日変わります。


ー この作品が好きと言われると、シンパシーを感じる作品は?

『ヤンヤン 夏の思い出』

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ヤンヤン

エドワード・ヤン監督が、ある家族を描いた遺作。この作品が好きと言われると、無言で「うん」と頷いてしまう感じ。台湾の街もすごくいい。ヤンヤン少年の愛らしさたるや! 言葉にすると野暮になってしまうからあまり説明したくないし、これが好きな人とは喋らなくても伝わるような感覚があります。


ー 自分で続編を作ってみたい作品は?

★『ミッション:インポッシブル』シリーズ

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トム・クルーズが歳をとって、本当に最後失敗するっていう……冗談です(笑)。
ネットフリックス配信作品リンク:『ミッション:インポッシブル』『ミッション:インポッシブル2』『ミッション:インポッシブル3』『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』『ミッション : インポッシブル/ ローグネイション』(*7月18日時点)


ー 『呪怨:呪いの家』を手がけるにあたって参考にした作品は?

『死霊館 エンフィールド事件』

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死霊館

実在の心霊研究家を題材にしており、「実話の怖さ」がベースにあるんですが、コメディの要素もあってエンタメとしても面白い。ジェームズ・ワン監督作は、恐怖表現の引き出しが多く刺激になりました。ホラーってすげえなあと心底唸った1本。

★『インシディアス

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同じく、ジェームズ・ワン監督作。古い屋敷に越してきた家族に、次々と不可思議な現象が起こる。日本のホラー映画に刺激を受けた作り手が、さらに面白いものを撮ってやろうと、Jホラーの優れたエッセンスをハリウッド流に解釈した、ひとつの成功例だと聞いています。何度繰り返し観ても怖いシーンがいくつかあって、謎です。ビビりの僕が言っても信頼されないと思いますが、この映画の恐怖はすごい。


呪怨』シリーズ

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これまでのJホラーでは、幽霊が遠くにいたり、心霊写真のようにぼやけたものだったのが、『呪怨』ではリアルに存在し、モンスターのように寄ってきたりもする。シリーズに特徴的な“見せる怖さ”を『呪怨:呪いの家』でも引き継ぎました。特に、最初に撮られた『呪怨(ビデオオリジナル版)』は、禍々しくて怖かったです。
ネットフリックス配信作品リンク:『呪怨 劇場版』『呪怨2 劇場版』『呪怨 白い老女』『呪怨 黒い少女』『呪怨 終わりの始まり』『呪怨 ザ・ファイナル』(* 7月18日時点)

『たたり』

『たたり』JK写真

たたり

1963年作のホラーの古典。亡霊のような存在は最後まで画面には登場しませんが、光と影を使った演出、そして音の表現がとにかく怖い。最初コツコツ叩かれていたドアが、次第にとんでもない音になってガンガン揺れたりして、ドアの向こう側の存在の恐ろしさがどんどん膨れ上がります。想像力を駆使させる、音の大切さに改めて気付かされました。

『家』

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家

これも1973年の古典。舞台となる田舎町の貸別荘を訪れる人々を、置いてある家具や家そのものがじいっと見ているような、そんな「モノ目線」が怖いです。鏡や彫刻や写真など、ごく普通のモノがどんどん異様に見えてくる。『呪怨:呪いの家』でも、何気ない生活感のあるモノが怖さをまとうように撮れればと考えていました。

『ゾディアック』

ゾディアック、ブルーレイ2500

ゾディアック

『呪怨:呪いの家』が実事件に基づいていることから、実録犯罪モノも参考にしました。例えば、公開当時に面白く観た、デビッド・フィンチャー監督のこの作品。新聞社に勤める風刺漫画家が事件に魅入られていく様子が、心霊研究家の小田島が心霊現象に興味をひかれていく様子と重なりました。

『冷血』

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冷血

実在の事件を書いたノンフィクションが原作。冷徹にじわ~っとしつこく人間を追ううちに、どんどん気が重くなってくる。ちなみに、この映画と下記の映画などは、脚本の高橋洋さんに教えてもらいました。

デビルズ・ノット

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デビルズ・ノット

少年犯罪を元にしたサスペンス。事件を通して、残された被害者や加害者、その家族らの人間性、一筋縄ではいかない倫理の“たが”が外れた人間の怖さが描かれている。ギョッとして目を覆いたくなりますが、それを無視せずきちんと見つめようという人が作った、一周まわってすごく倫理的な映画だなと思いました。

10番街の殺人

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10番街の殺人

信じられないことに、実際に殺人事件が起こった部屋で撮影された作品。それを知ると、さらに怖くなるのが面白いなと。今回の『呪怨:呪いの家』も、とある事件の現場にものすごく近い場所で撮りました。バブル経済の華やかさの一方で、どす黒いものが流れながら世紀末へと向かう、その濁った空気感みたいなものが出せたらと思っていました。

悪魔のような女

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悪魔のような女

フランスのホラー映画。出てくる女性がタイトル通り怖い。そしてさらに、人間よりも怖いものがあることまでを表現している。「結局、人間が一番怖いよね」という意見もわかりますが、人間よりもっとヤバいものは存在している、というのが高橋さんから教わったことです。人間の怖さを遥かに凌ぐ、理解できない度を超えた現象がある。『呪怨:呪いの家』もその両方を撮らなければならない作品だと感じていました。

〈後編のご紹介作品一覧〉


26. 最後の追跡 27. ラブ 28. グレムリン 29. 宝島 30. ビフォア・サンライズ 恋人までの距離 31. ラブゴーゴー 32. アポロ13 33. ハスラーズ 34. ヤンヤン 夏の思い出 35. ミッション:インポッシブル 36. ミッション:インポッシブル2 37. ミッション:インポッシブル3 38. ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル 39. ミッション : インポッシブル/ ローグネイション 40. 死霊館 エンフィールド事件 41. インシディアス 42. 呪怨(ビデオオリジナル版)43. 呪怨 劇場版 44. 呪怨2 劇場版 45. 呪怨 白い老女 46. 呪怨 黒い少女 47. 呪怨 終わりの始まり 48. 呪怨 ザ・ファイナル 49. たたり 50. 家 51. ゾディアック 52. 冷血 53. デビルズ・ノット 54. 10番街の殺人 55. 悪魔のような女 56. 呪怨:呪いの家


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