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アルバム「DayDreaming」制作日記#3 (終)


私のいる場所には、古びたノートが一冊、机の上に置いてある。
もう何年も書き込まれていないノートが、机の上に置いてある。

いつしか、一人で作り続けることに飽きてしまったのか。
それとも、もう自分には作るものなんて無くなってしまったのか。

夢中になって音を作り、言葉を乗せて遊んでいた時間は
今の私からすると、ただのおままごとにしか思えなかった。
おもちゃ箱をひっくり返して、適当に繋ぎ合わせて。

「誰に聴かせるわけでもないのに」

「ただの趣味だし、自分で満足すればいいだけだから」

世界を救うような愛の物語や、希望を胸に歩き出す勇気があふれ出る調べだって。

ここには私しかいないから。

全部私のいる場所で始まり、

終わった。


自分で納得して、
ノートを何度も何度も見返して、諦める日々。

今はもう、存在さえ忘れてしまっていた、私のノート。


窓の向こうの声を聴けば聴くほど、

そのノートを開きたくなる。



どうしてかは分からない。
でも、なんとなく自分だって気づいている。


「本当に、聴いてるだけでいいの?」


心に響く声が、どんどん強くなっていったちょうど、その時。


突然、窓から最後の春風が吹く。


風は私のいる場所を無邪気な子どものように駆け巡り、

それに呼び起こされるように机に置いてあるノートのページがぱらぱらと開いていく。

まるで窓の向こう側の世界が、私のノートの中身を見たがっているように見えた。

やがて風はおさまり、しんと静かになる。

朝日は既に少し昇っていて、真上で照らすちょっと前の時間。

柔らかな光が私のほっぺに触れ、不健康で真っ白な肌を照らす。

私は、無意識に机に向かいノートに手を伸ばしていた。


今まで私が作ったものぜんぶ、おままごとだったとしても
終わったものだったとしても
作り続けてきたことは変わらないから。

外の世界にとって、白昼夢なんかで終わらせないために、


わたしは、また、作りたい。


この場所に居続けてもしょうがないから、
私は久しぶりに外を出ることにする。

あの子がいる、窓の向こう側の世界へ。


私はノートを小さいリュックに押し込み、
捨てられたように散らばっている靴を揃え、履いた。


ずっとずっと、閉めたままの心の扉を開く。

長い旅を終えて、この場所に帰ってきたころには、私はどんな私になっているのかな?


この世界の人達と沢山出会って、話して、笑って。
それをノートに書いて、いつかみんなで。

みんなで作ったんだよって、笑ってるかな?




今の私は、まだ
長い長い、夜の海を出たばかり。


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