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1-7 罰

1-7 罰

「寮に入ろうか」

入社当初は約一時間半かけて通勤して早番の勤務をしていたが

大入りになるには遅番の仕事も把握してないといけないとの事で入店して3ヶ月後に急遽寮に入ることになった。

書いてる過程で記憶が蘇り
時系列が少しわかりづらくて申し訳ないのだが

俺がこの店を辞めるタイミングを逃した一つの要因として寮に入ってしまったのは大きいと思う。。。

寮に入るメリットとして睡眠時間が増える事だと思っていたが、寮に入ったことで逆に飲みの付き合いが増え睡眠時間は減った気がした

寝てる時にNAさんからの電話が鳴ってビックリして取ったら
「近くで飲んでるから今から来い」なんて話は珍しくなかった

ただ、前よりもみんなとの距離は縮まったのかなと思った

大入り試験に合格する前の段階から

業務の①フロントと②受付③ホール④キャスト待機の方は
教わる側から教える側になりつつあった

当時は確か幹部が4人いて
一人はあまり顔を合わせることがなかったが面接してくれたBOSSと
NAさん、それと自分の3つぐらい歳上のNK井さんと7つ下の店舗最年少でありながらキャリア1年以内で幹部に昇格したO木さんの4人だったと思う

俺は特に3つ上のNK井さんが人の挙足を一切取らない人で
性格的にはクズと呼ばれる部類の人種だが仕事はちゃんとしていて
教え方もうまくてお店の中でも優しい方だったので一番好きだった

逆にO木さんは元ホストで若くてイケイケな感じだったので正直あまり波長が合わなかったが仕事中話かけやすい人だったので嫌いではなかった

業務の中で一番の難関だった⑤のレジ(キャッシャー)は寮に入ってからは幹部のNK井さんに教わることが多かった
横で見てて、めちゃくちゃ混んでても一切慌てずお客さんを捌き切るNK井さんの姿は格好よかった。
仕事における心技体があるなら「技」の部分では本当に皆から信頼されていた。

唯一NAさんには全く刃向かえなかったが、俺を含めて部下たちは思ったことをな何でも言えて受け止めてくれる兄貴みたいな人で俺が理不尽に怒られてるのを見るといつも後からフォローしてくれた。NK井さんは俺の、いや皆の精神安定剤でもあったと思う。

罵声の飛び交う職場にも少し慣れ
社員は入ってはいなくなり、入ってはいなくなりの戦場にも何とか生き残り、下馬評化の低かった俺を見る周りの目は少しだけ変わった頃

ある事件が起きる。

NK井さんはダチョウ倶楽部の故上島竜兵さんに似ていてギャンブルが好きな人だった
今でもギャンブルに興味のない俺は当時は尚更ギャンブルの怖さを知らなかった。


ある日
店の雰囲気が明らかにおかしかった。
ピリピリした空気
でも、何故なのかわからなかった

平日でも暇な日は殆ど無く
夜は毎日忙しい店だった

「あれ、そういえばNK井さんずっとみないですけどどこいったんですか?」

当時の俺に
「嫌な予感」を感じるにはまだ経験が足りなかった

誰に聞いても知らないという返答しか返って来ない

イレギュラーなことは日時茶飯事

とりあえず今の俺にはこの忙しい状況をこなすのにいっぱいいっぱいだった。

営業が終わり
女の子達も送りの車で全員帰り
掃除も終わったタイミングで

BOSSとNAさんが店に来た。
いつもこんな時間までいない二人が揃って
しかも酒も飲んでいない
そしてその後ろに疲れた顔をした
NK井さんと、HP先輩がいた。

何かおかしい

このタイミングでやっと 「嫌な予感」がした

緊迫した空気

これは明らかに「何か」があった。

後に

この様々な「何か」を経験し

自分で対処する日も来るのだが

当時の俺にはその未来を想像することができないくらい余裕は無かった

結論から言うと

NK井さんはHP先輩に多額のお金を借りていたということが判明したのだ。

この業界には決して犯してはいけない事がある

それは【風紀】だ。

風紀にも大きく分けて2つあり
1つがキャスト風紀
もう1つが金銭風紀

入社して一ヶ月位経ったある日NAさんが
他店で男子社員がキャスト風紀発覚したからちょっと対処してくるといい、帰ってくると俺に原型がわからないくらいに腫れ上がった顔をした男子社員の写真をニコニコしながら俺に見せてきた事があった。

今回はお店のお金には手を付けたわけではないが
幹部であるNK井さんが部下のHP先輩に数十万円借りていたというのだ。

当時のNK井さんは予想だが少なく見積もっても50万〜60万は月に貰ってたはずなのに、パチンコ等のギャンブルでお金が回らなくなったらしい

うちの店では社員同士の金銭の貸し借りはNGだった。しかも額も大きく、上司が部下に借りるという形も良くなかった。

この件でBOSS達が下したのは
役職の降格があったのかわからないが(多分あった)一ヶ月OPEN〜LAST勤務(11:00-26:00)とお店で寝泊まりしろという指示だった。

NK井さんは罰を受けるのだ

俺はとても困惑した

とても世話になってる上司がこんな惨めな姿で晒されて、俺の知ってるNK井さんの顔ではなかった

殴られたからではない

覇気が全く無かったからだ

上島竜兵さんみたいな陽気なオーラもキラキラした目も、もうそこには無かったからだ



俺は一言も何も言えず
今起きた事を受け止められないまま
皆と一緒に帰路を歩いた

最後に交わした言葉は今も思い出せない

NK井さんを最後に見たのはこの夜が最後だった


NK井さんは次の日にはもう姿が無かった
何とも言えない、行き場のない感情
好きだった上司が一瞬で
何もなかったかのように消えた

ちょっとは何も言わずにいなくなった事後悔してくれてますか?

あの皆に怒られたばかりの俺が
なんだかんだ一番続いちゃいましたよ笑

余談ではあるが
この日から一年後くらいにお店の女の子がNK井さんを見かけたと耳にした
引っ越し業者さんとして荷物を運んでいたところを見たそうだ。

元気ならそれでいい。
















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