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便座の温もりは

(※一部センシティブな内容が含まれます)

★sumi amane様がイラスト化して下さいました


※自己紹介という程のものではありませんが、こちらを読んで頂けるとネオばたの大凡の生態がお分かりになるかと存じます。


猛暑の中、突然我が家のウォシュレットがお亡くなりになった。
もう10年どころか20年選手なので、修理よりいっそ買い換える事になった。

クーラーと違い特に急いで無かったのだが、業者の方は意外にも迅速にやって来てくれた。
作業は1時間程度で終了した。
仕事の早いお兄さんである。

さぞ暑かろうと冷たい麦茶を用意していると、

『ちょっと便座に座ってみてくれますか?』


⋯?????


座る?便座に??

今この場で実際に使用してみろと言うのだろうか?
突然の申し出に頭は混乱した。
お兄さんの目はやや充血し、息遣いは荒く顔中汗ばんでいる。
このシチュエーションは一体なんなのであろうか?

推定20代中頃の男性が、40過ぎのオバサンにウォシュレットプレイを要求している⋯!
しかもあんなに上気した表情で⋯!!

しかし今は用を足す気分ではない⋯真似事だけで勘弁して頂こうと、とりあえず便座に腰を下ろした。

『え~と⋯この後はどうすれば良いでしょうか?』

精一杯の勇気を出して尋ねた所、お兄さんは精一杯目線を逸らしながら

『いえ⋯あの⋯便座を手で触って、温度を確かめて欲しかったんですけど⋯』

その瞬間完熟トマトばりに真っ赤に熟していた私の顔は、一気に収穫前の真っ青なトマトになった。

そう、役立たずのこの耳は『さわって』を、『すわって』と聞き間違えてしまったのである。

1人でありもしない妄想を頭に巡らせ、常識人としての道を踏み外していた。
トイレ周辺は推定35℃前後。
汗もかけば目も充血しているのも当然である。

私はソロりソロりと腰を上げ便座に手を置き、

『けへぇ⋯結構なお点前です⋯』

噛んだ上におよそ言葉の使い方を間違えているトマト人間に、お兄さんは肩を震わせ、一刻も早くここから逃げ出したいという表情をしていた。

作業確認書にサインと判子を終えると、

『あの⋯麦茶とお菓子でもどうぞ⋯』

そう言うと、急ぐので麦茶だけを所望された。
何故かドアを開け放したトイレの前で麦茶を飲むお兄さん。

私は改めてそっと便座に手を置くと、お兄さんはベスビオス火山の如く激しい地鳴りの後、大噴火を起こした。

この光景は先日電車内で繰り広げられた悪夢の再来である。
こんなにも早くリバイバルされるとは⋯!とりあえず街を壊滅させるには十分過ぎる火砕流が流れている。

お兄さんは床を汚してしまった事に酷く恐縮しているが、そもそもの原因はこちらにあるので、大丈夫!という意味で親指を上にグッ!と立てたつもりが、その指は下を向いてしまったようだ。

お兄さんはサッと顔色を変え、ほうほうのていで去って(逃げて)いってしまった⋯

彼にしてみれば、散々な1日だったであろう。初老のトマトにおかしなプレイを要求され、大噴火を起こした挙げ句地獄に落ちろと呪いをかけられたのだ。

お兄さんのメンタル面が心配だが、彼は今後便座の温度確認の説明は必ずジェスチャー付きで行うであろう⋯そう願わずには居られない。




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