失われた純潔
知り合いから竹炭パウダーなるものを頂いた。
何でも古来より毒出しの効果があるらしく、不純物100%で出来ている貴女にはピッタリだから、との事で多少のモヤモヤ感を覚えたが有り難く頂戴した。
確かにデトックスという言葉とは無縁の人生を送って来たので、ここいらで新しい私・デビュ〜♪しようかと思い、いざ開封!
想像の遥か上を行く微粒子が、目と鼻を直撃した。
既にこの時点で竹炭の洗礼を受けているのだが、頭の回転が鈍いので気が付かない。
さて、このまま口に入れるんだよな?
説明書きを読めば良いものを、龍角散は確かそのまま口に入れたはず・・🤔
これは龍角散ではないのだが、口に入れようとしたその時
「Jアラートです、北朝鮮よりミサイルが・・」
TVからの報道に驚き、
「ブッフオォォォォォ😵😵」
忽ち辺りは焼け野原と化してしまった。
天使の羽の如く軽いパウダーは部屋中を舞い、暫く呆然と立ち尽くしていた。
しかしこんな事をしていても埒が明かないので、拭き掃除をする事になった。
砂漠の民は一年中拭き掃除をしているのかなぁ・・と、会った事も無いキャラバンに思いを馳せていた。
その後行きつけのスーパーで買い物をしていると、気のせいか周囲の人が時折此方をチラチラ見る。
マスクはしている筈だが・・?
少々痛い視線をやり過ごしていると、突然後ろから肩を叩かれた。
「ねえ、ちゃんとお風呂に入ってる?顔汚いわよ〜」
何ですと!?
思わず耳を疑った。
声を掛けてきた御婦人は、確かに私より相当人生経験がありそうなお方だが、それにしてもいきなりご挨拶である。
某猫型ロボットのアニメのしZかちゃんの様に、四六時中風呂に浸かっている訳では無いが、一応毎日入浴はしている。
もしや加齢臭?
いや・・最近お気に入りのリンゴのオーデコロンを付けているのだが、付け過ぎか?
手首を鼻に近づけてクンクンしていると、
「鏡見てみなさいよ〜、ほら」
その御婦人は私に手鏡を渡して下さったので、確認してみた。
思わず三度見をしたのは、家を出る前に全く鏡を見なかったせいなのか。
マスクをしても尚隠せない漆黒の面構え。
およそ地球人の顔色のそれではない。
竹炭である。
しかも黄砂で目が痒く、家を出る前に思い切り黒い手で両目を擦っていたのだ。
数十年生きてきて、穴の空いたTシャツや毛玉だらけのセーターで出掛ける事はあっても(そもそもこれもどうかとは思うが)、ここまで衝撃的な姿で外出したのは初の試みだ。
床は綺麗に磨いて来たくせに、顔を磨く手間は惜しんだバチが当たったのか・・
その時、脳髄にまで竹炭が回ったのか、御婦人に鏡を返しながら
「汚れちゃった・・うふふふフフフ」
と、何処かで聞いた様な台詞を吐きながら買い物を続けた。
普通ならここで顔を覆い駆け出すのであろうが、その様な事をしてもちっとも絵にならない。
例の御婦人は尚も
「ちゃんとお風呂に入りなさいよ〜」
と、畳み掛けて来る。
どうあっても1ヶ月ほど風呂に入らない輩認定をしたいらしい。
訳を話すのも面倒だったので、
「今何ヶ月お風呂に入らずにいられるか記録更新中なんです、うふふ」
と、我が口から出した台詞に悍ましさを覚えながら、あんぐり口を開けている御婦人に会釈して店を後にした。
竹炭のデトックス効果はある意味絶大であった。
ほんの僅か残っていた羞恥心と、人間としての尊厳が綺麗サッパリ消えてしまったのだから・・😇
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