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「無意識ー空の章ー」

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地方の町に突如現れた謎の建物。そこに集まる小さな奇跡(?)の連続で、ある「歌」が出来上がっていく物語です。全12話完結済。この後BGMやちょっと変わったインタビュー記事などを追加…
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#ピアノ

小説の目次は、アルバムの曲名リスト

作りたいものは沢山あるのに 作品としてきちんと仕上げるのがめちゃくちゃ遅い私。 その中で唯一、ひと通り作り終えた作品が 小説「無意識ー空の章ー」です。  去年の春頃「カクヨム」に連載して 全12話が現在も掲載されていますが noteを見てくださる皆さまにも改めて紹介したいと思い この小説のマガジンを作ってみることにしました。 小説の本編はもちろん、合間に解説や裏エピソード等も 挟んで「小説+ガイドブック」のような感じに出来たら いいなあと、イメージしているところです。

「無意識ー空の章ー」 #1 キセキの種

俺は、今の今まで忘れていた。 この店の一階に、ピアノがあったことを。 誰も手を触れようとしない、飾り物のピアノ。 俺たちは一斉に手すりに駆け寄った。 そのまま螺旋階段の横を見下ろすと そこには招き猫が、いや北里泉が あまりにも自然に鍵盤に向かっている。 何年も前からの日課のような顔で。 「コイツ寝てたんじゃなかったんだ…」 俺のつぶやきなんて、たぶん誰も聞いちゃいないだろう。 はじめのうち右手で拾っていたメロディに 少しずつ左手が添えられていく。 時々途切れた

「無意識ー空の章ー」#3 チカチカ

⬇️前回の話はこちら 春になって、関東よりもワンテンポ遅れて桜が満開になった町で、俺の生活はあまりにも予想通りに展開している。 4月から通い始めた専門学校では早くも遅刻常習組に定着。 口の悪いクラスメイトからは「重役」などと勝手に呼ばれ、授業は頭に入らず、家に帰ってもつまらないのでナケナシのお金でゲームセンターかカラオケに行ってもそれほど気は晴れず、遅くに帰って母親に叱られ、フテ寝して、寝坊して、また遅刻。 一方、俺との決別宣言をして人生の立て直しを図っている大地君はと

「無意識ー空の章ー」#9 招き猫

⬇️前回の話はこちら フレンドシップが急に混みだした。 無駄口を叩く余裕がないぐらい、俺も夏井さんも、もちろん未智さんも黙々と働く日々。閉店する頃にはいつもみんなクタクタ。今日は、早番の雪さんも夜まで居残って手伝ってくれている。 最近、何かあったっけ。 冬休み?クリスマス?ああ、クリスマスソングか。 そう言えば店のBGMも稲垣潤一とマライアキャリーと山下達郎とマッキーの繰り返し。 たまに未智さんが角松敏生をかけて、俺が「誰これ?」って言うと、ノールックでぶっ叩かれたりす

「無意識ー空の章ー」#11 記憶

⬇️前回の話はこちら 何気に大学4年の冬を迎えていた夏井さんの 就職がやっと決まった。 実は年内に決まるかどうかの瀬戸際で、本人は相当焦っていたらしい。 そんな状態で、初雪の日の帰りにハリネズミの話を出した俺は、かなり間の悪い奴だったということになる。 4つも年下の幼馴染が早々に内定をもらって羽を伸ばしているのはずっとプレッシャーだったんだろう。 どうりでいつものツッコミもなかったわけだ。 「あとは卒業出来るかどうかだね」 と言っている割には、にやけ顔の夏井さん。余裕が