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「無意識ー空の章ー」

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地方の町に突如現れた謎の建物。そこに集まる小さな奇跡(?)の連続で、ある「歌」が出来上がっていく物語です。全12話完結済。この後BGMやちょっと変わったインタビュー記事などを追加…
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#日向猫

小説の目次は、アルバムの曲名リスト

作りたいものは沢山あるのに 作品としてきちんと仕上げるのがめちゃくちゃ遅い私。 その中で唯一、ひと通り作り終えた作品が 小説「無意識ー空の章ー」です。  去年の春頃「カクヨム」に連載して 全12話が現在も掲載されていますが noteを見てくださる皆さまにも改めて紹介したいと思い この小説のマガジンを作ってみることにしました。 小説の本編はもちろん、合間に解説や裏エピソード等も 挟んで「小説+ガイドブック」のような感じに出来たら いいなあと、イメージしているところです。

「無意識ー空の章ー」#12(最終話) 未来の歌

⬇️前回の話はこちら  夏井さんの癖は「余裕を感じると謙遜する」の他にもうひとつ。 「動揺すると必要以上に敬語になる」というのがある。 以下は、歌詞の続きを書いてもらおうと夏井さんがハリネズミの家に電話をかけた時の受け答え。 (ちなみに詞を書いたのがハリネズミと分かった時点で夏井さんが「なら、僕が電話番号知ってる」とかけてくれたので、お店のシステムは覗かずに済んだ)。 「…はい。あーそうなんですか。大変なんですね。いや~知らなかったとは言え失礼しました。こんな夜遅くにど

「無意識ー空の章ー」#2 看板

⬇️前回の話はこちら 枠だけの新しい看板と、でっかい建物を交互に見ながら自転車を漕いでいるうち、気が付いたらその看板が目の前に迫って、もう少しでぶつかるところだった。 「空くーん、なに衝突事故起こしてんのー」 やべ。大地だ。 「ぶつかってないんですけど」 「あれ、そうだった?」 ちょっと薄笑いを浮かべながら俺に絡み始めるのはいつものこと。もう慣れてる。何せ小学校からの付き合いなんで。 「気を付けてね。この町じゃ自転車と看板の事故でも大ニュースだから。 ‘高3男子、

「無意識ー空の章ー」#3 チカチカ

⬇️前回の話はこちら 春になって、関東よりもワンテンポ遅れて桜が満開になった町で、俺の生活はあまりにも予想通りに展開している。 4月から通い始めた専門学校では早くも遅刻常習組に定着。 口の悪いクラスメイトからは「重役」などと勝手に呼ばれ、授業は頭に入らず、家に帰ってもつまらないのでナケナシのお金でゲームセンターかカラオケに行ってもそれほど気は晴れず、遅くに帰って母親に叱られ、フテ寝して、寝坊して、また遅刻。 一方、俺との決別宣言をして人生の立て直しを図っている大地君はと

「無意識ー空の章ー」#4 コーヒーの味

⬇️前回の話はこちら 大地が「フレンドシップ」をやめることになった。 夏休みが終わる直前に本人から電話が来て、その衝撃事実を知らされた。 いや、どこかで予想はしていたような気もする。大地のような現実主義者があの安い時給でいつまでも続けるとは思えなかったから。 「なんでやめるの?」 「時給安いから」 ほらね。 (ダテに10年も友達やってないわ) (でももう友達じゃないんだっけ?) 「もったいないんじゃないの。せっかく楽しそうだったのに」 「まあ、でも楽しいだけじゃ」

「無意識ー空の章ー」#5 女子高生

⬇️前回の話はこちら 突然ですが、俺はよく財布を失くします。 極端な言い方をすると、使うたびにその場に置き忘れて、次に使う時に気付くって感じ。 お金を払った安心感から、その後のことを気にしなくなるみたいです。 19才にして老人並みの大らかさ。 でも、何度失くしてもヤなもんですね。慣れませんね。 気づいた瞬間のあのショック。何度味わってもホントに嫌。 「何度味わっても嫌」とか言える程ほど失くしている自分も嫌です。 そんなことを話題にするということは、さては現在(いま)も

「無意識ー空の章ー」#7 気配

⬇️前回の話はこちら 何もない空き地にコンクリートの建物が姿を現してから1年が過ぎた。 違和感だらけだった存在も、慣れる時は必ず来る。 はじめの4カ月は、外から口を開けて見上げていたけど 春からの4ヵ月は、チカチカの看板に吸い寄せられてついつい立ち寄る場所になり 夏以降の4カ月は そこに通うこと自体が完全に日常になった。 17:50  自動ドアを抜けて、派手っちい螺旋階段を当たり前のように上る。 二階まで上りきると、カウンターの前を横切りながら今いるメンバーをチェック

「無意識ー空の章ー」#8 足音

⬇️前回の話はこちら 例えば、こんなことに気が付いた。 「そしたら、ネズミが猫を飼ってることになるんだよなぁ」 ハリネズミが猫にエサをやるために大急ぎで帰って行った夜から何週間か過ぎているのに、何で今頃気付くんだろう。 しかも気付いた場所が電車の中だもんね。ひとりで薄ら笑いをしてしまった言い訳を誰にすればいいかも分からない。 せっかく気付いても誰にも伝わらない可笑しさ、これ、どうすればいいの? 木曜日はなるべく学校に行くようにしている。 俺のことを唯一かわいがってくれ

「無意識ー空の章ー」#9 招き猫

⬇️前回の話はこちら フレンドシップが急に混みだした。 無駄口を叩く余裕がないぐらい、俺も夏井さんも、もちろん未智さんも黙々と働く日々。閉店する頃にはいつもみんなクタクタ。今日は、早番の雪さんも夜まで居残って手伝ってくれている。 最近、何かあったっけ。 冬休み?クリスマス?ああ、クリスマスソングか。 そう言えば店のBGMも稲垣潤一とマライアキャリーと山下達郎とマッキーの繰り返し。 たまに未智さんが角松敏生をかけて、俺が「誰これ?」って言うと、ノールックでぶっ叩かれたりす

「無意識ー空の章ー」#10 雪の朝

⬇️前回の話はこちら それから5分後。 北里泉は最後に一つ残っていたコーヒーを一口飲んで 「熱い!」 と顔をしかめた。 もう淹れてから15分は過ぎてるのに。 「もう冷めたんじゃないの」 と言うと 「まだ熱いの。でも、おいしいの!」 と、こっちを見ずにもう一口飲んだ。 その周りで雪さんたちは興奮気味に話し続ける。 「今度さ、泉ちゃんのピアノ店内に流したら?時間決めて生演奏とか」 「お客さん、集まるかもね」 「そうじゃなくても“招き猫”だし」 「あ、そうか。招き猫がピ

「無意識ー空の章ー」#11 記憶

⬇️前回の話はこちら 何気に大学4年の冬を迎えていた夏井さんの 就職がやっと決まった。 実は年内に決まるかどうかの瀬戸際で、本人は相当焦っていたらしい。 そんな状態で、初雪の日の帰りにハリネズミの話を出した俺は、かなり間の悪い奴だったということになる。 4つも年下の幼馴染が早々に内定をもらって羽を伸ばしているのはずっとプレッシャーだったんだろう。 どうりでいつものツッコミもなかったわけだ。 「あとは卒業出来るかどうかだね」 と言っている割には、にやけ顔の夏井さん。余裕が