『LILIUM 少女純潔歌劇』に対する激重感情をお焚き上げしたい

 観る劇薬、ことTRUMPシリーズの中でも屈指の殺傷能力を誇る(と私が勝手に思っている)『LILIUM 少女純潔歌劇』。阿鼻叫喚のクライマックスだとか、主人公が背負うことになる壮絶な因果だとか、10代の少女アイドル達にこの残酷悲劇を演じさせたことによる化学反応の凄まじさだとか……『LILIUM』のここに打ちのめされた!というポイントをあげていくとキリがない。さらにシリーズ他作品とのつながりについて思いを馳せ始めたりするともうダメ。脳内麻薬分泌されまくり。真夜中に目冴えまくり。翌日職場でぐったり。
 というわけで(どんなわけで?)『LILIUM』に対する激重感情を『黑世界』(1回だけチケットご用意されました!)を拝む前にどうにか昇華させるべく、特に刺さったポイントについてまとめてみます。当然ネタバレだらけです。

プロローグのシルベチカによる♪forget me not 独唱
 初見時、もうド頭から心を掴まれました。シルベチカの儚い佇まい、ここではないどこか遠くをみているような眼差し、切なる祈りがこめられた物哀しい旋律と歌詞。あ、最初から喪失が約束されてる……と思って。
 初見時は『SPECTER』未見だったので、歌詞の中の永遠に枯れない花を作ろうとした「ひとりぼっちの庭師」ってソフィのこと?と思っていたんだけど、クラナッハがいわば初代庭師であり、息子のソフィがそうとは知らずに同じ試み(過ち、とも言う……)をより悪辣な形で繰り返していると考えると鳩尾のあたりがぐっと重くなってきますね……。

♪Eli,Eli,Lema Sabachthani? の振付
 シルベチカを探して雨の森を彷徨うリリーと連れ戻しに来た紫蘭&竜胆のしっとりした場面から一転、気分を一気に高揚させるキャストパレード曲の中でも特に好きなのがシルベチカとマリーゴールドががっつり互いの両の手を組み合って廻る振付。みんなの記憶の中から消えてしまったシルベチカとみんなから疎外されているマリーゴールドがここで対になっているのがしんどくて、尊くて……。
 この二人、「(自分の名前)の花言葉を知ってる?」って問いかけてくるところも共通しているんですよね……。シルベチカは後半の♪或る庭師の物語 の場面で。マリーゴールドはタイトルロール作品のラストで。
 この曲の歌詞がまた、偽りの花園で咲き続けることを強制された少女たちから偽りの神ファルス (=ソフィ)に対する血を吐くような叫びのようで、北十字星にしろ南十字星にしろどんなに夢見ても彼女たちは何も得られないままいたずらに時だけが流れていくんだな……繭期を乗り越えて立派な大人のヴァンプになってここを出て行く日なんて永久に来ないんだな……と思うと涼しい顔で百合一輪を手にしたファルスにうおぉぉぉおお!!と掴みかかりたくなるんだけど、彼もまた望まない不死を押し付けられ孤独の旅の果てにこうなってしまったわけで、繰り返される絶望の連鎖に呻くことしかできません……

ひとりぼっちのスノウ
 仲間たちの誰とも共有できない思い出がスノウの中には静かに降り積もっている。みんなは定期的に記憶を操作され共に過ごした筈の時間を忘れていく。自分だけが憶えている。それはどんなに哀しいことか。それでも死への恐怖からファルスの支配を諦念とともに受け入れていた彼女が、最後には親友だったリリーの言葉に感化されたように反旗を翻した。それが他人への攻撃という形ではなくああいう形になってしまったのもまた優しい彼女らしい……。長い長い孤独に苛まれたスノウが口にする
 「誰かと関わると余計な思い出が増えてしまう。
  思い出なんて所詮いつかは消える幻だもの。
  どうせ失うのなら最初から手にしない方がいいのよ」
という悲痛な言葉。
 いつの日かリリーが長い旅を終える時(=『雪月花』(仮題)エピソード?)には、「失うのなら最初から手にしない方がいい」なんてことはないと、喪失の痛み以上にあの時あの場所で出会って共に過ごせて良かったと思うと、優しく否定してくれるといいなと心から願っています。

姫ねえさまマーガレットの繭期症状
 可愛らしさと無邪気な残酷さという少女性のかたまりのようなマーガレット。はちゃめちゃにキュートなコメディ調の♪プリンセス・マーガレット によって、卑しい庶民のひとりとしては当然のごとくその魅力にメロメロになってしまったわけですが、それはそれとして彼女の繭期症状って一見ギャグ要素だけど考えてみればみるほど興味深いものだな、と。
 脳内妄想を現実として認識する症状。自分で思い込むのみならず親しい相手にもその妄想を共有させてしまうという恐るべき力。マーガレットだけじゃなく『SPECTER』のバルトロメも同じように重度の私はプリンセス妄想にとりつかれていたわけだけど、これが典型的な繭期症状のひとつだとすると今後もシリーズの中でこの症例が出てくる可能性がある。お姫様妄想に限らずもっと厄介な思い込みが生じることだってありえるよね。たとえば、語り部となるキャラクターにこの設定を付けると、ミステリーで言うところの「信用できない語り手」となり、叙述トリックが成立する。そんなの絶対に面白いに決まってるし、確実に凄惨な展開になるでしょ……。などと観ている側の妄想まで際限なく膨らんでしまうからこのシリーズは恐ろしいですね。

監督生ツインズ紫蘭&竜胆の謎
 ♪Eli,Eli,Lema Sabachthani? で彼女たちが担当するパートの歌詞「愛してくれますか?死が別つその日まで」の重みたるや……。偽りの神ファルスに対してこんな宿命を自分たちに課したのだから終わりの時まで責任をもって愛して!と訴えているようでもあるし、互いに対する誓い(あるいは呪い)でもあるのかなという気もします。尊い。そしてしんどい。
 そもそも、この姉妹がなぜファルスの計画に賛同し積極的な協力者となったのかが知りたいです。『マリーゴールド』で描かれたように基本的にはソフィの暗黒青田買いツアーによって一人ずつ吟味の上で選ばれクランに連れて来られた(と思われる)他の子たちとは違って、やっぱり二人は常に一緒というのが大きい要因だとは思うんだけど。
 『COCOON』パンフレットにのっている年表によると、この姉妹の遍歴は以下の通り。
繭期偏愛家ホフマン(2700年ちょっと年代がずれてるので同一人物ってことはないにせよドナテルロと瓜二つだったりしたらどうしよう……)のクランに収容されていたが、脱走。マーガレットも同じクランにいた。
  ↓
【※COCOON上演時点で『黑世界』(仮題)とされていたエピソード】
クラン脱走後、人間のサーカスへ。TRUMP世界の吸血種って不老不死ではないけど人間種より身体能力はずっと上という設定なので、おそらくその特性を活かして見世物になっていたんだと思うけど、文章のニュアンスからすると、とっ捕まって強制労働というより居場所を得る代価として自主的に団員になった感じかな……?仮初めとはいえ意外と楽しく過ごしてた可能性もあるかもしれない。
  ↓
密告によりハンターがやってきて大ピンチになったところでソフィに青田買いされ偽りの花園へ。(←どうせ密告したのもソフィでマッチポンプ作戦なのでは……?という疑いの目)マーガレットと再会。
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50年ほど経った頃にソフィの共同幻想ユートピア計画を知り、協力することに。

 何勝手に人の記憶と体改造してくれちゃってんの!と怒り狂うのではなく、二人(+みんな)で永遠の繭期に閉じこもっていられるなんて素敵~!と思えるような彼女たちの人生、どれだけハードモードだったのでしょう……。
 上演日が迫りつつある『黑世界』の日和の章にどうしたって紫蘭&竜胆を彷彿とさせるヴィジュアルの少女キャラクターがいることもあって、気になってたまらないポイントです。『黑世界』は時系列的には『LILIUM』後のリリーの旅の過程のお話ということだけど、回想場面がないとも限らないし。

昔取った杵柄ダンス
 「結構うまいだろう?昔習ったことがあるんだ」と強引にスノウをエスコートして踊るファルス。ダンスはいけません……。『TRUMP』のあれやこれやが脳裏をよぎってしまうではありませんか……。
 ダンスの腕前を披露したり、不老薬をウルと命名したり……望まない永遠に囚われてしまったためにだいぶ歪んでしまったけれど、やっぱりファルスはあのクランで文武両道教育を受けて一人の親友を得て、そして喪ったソフィなんだ……と思い知らされてしまい、たまらない気持ちにさせられます……。その挙句に自業自得とはいえ、「僕は…僕は……さみしいんだ……」だもの……。

夢の中で夢を見てはいけない
 炎と血の海の中に倒れ伏す白い少女たち。美しい地獄絵図から一転、♪永遠の繭期の終わり の中の大好きな一節です。リリーの強さがこのひと言に集約されていると思うから。ファルスにみんなの命をおもちゃにする権利なんてない!!という正義感にもとづくものとはいえ、彼女がとった行動もたいがい独善的には違いないんですよね。あなたは死と引き換えにこの呪いから解放されたいですか?ってみんなの意思を確認してからイニシアチブ発動させたわけではないし。紫蘭と竜胆なんてからくりを知った上で偽りの花園の存続に協力していたわけだし。問答無用すぎです、リリーさん。
 結果、リリーは皮肉にもソフィと同じ「永遠の孤独の中」に取り残されるという「現実」を受け入れなくてはいけなくなった。でも彼女の強さをもってすればいつか自分に課せられた不死の呪いも打ち破れるんじゃないかと思うのです。


 初めて生観劇できるTRUMPシリーズの1ページ『黑世界 ~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~』、楽しみなのと同じくらい恐ろしいです。永い時の中でリリーも変質してしまっていたらどうしよう……。宣伝ビジュアルを見る限りでは衣装はだいぶダークに染まっている……。胸元のブローチが服喪用ジュエリーに見えるので、クランの仲間たちのことを悼んでの装いともとれるけれど、それはそれで痛ましいな……。

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