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それでは、ドビュッシーの月の光とともに、お別れです。

テールランプの赤い光も消え、
水気のある道を走る車と、
カタカタとビンが回収されていく音がする。
まだ囁きのような雫が窓をたたき、
ダウンライトのような光で仄かに照らされた部屋の中で、思い出すのは昨夜の晩餐。

白い制服、しっとり輝くランプ、絨毯の上。
老若男女が楽しむホールは、
食事を楽しむ時間を思い出させてくれた。
宿泊先でのディナーのような体験が、
スープのように胸を通る。

あのマリリンモンローも食べた
オニオングラタンスープの
夏の果実のようにしゅんだ玉ねぎと、
ふわふわなのに香ばしい布団のようなパン。
何故だかこれを島だと感じた。

「お分けになりますか」とカトラリーを持って颯爽と現れる制服の紳士。

肉汁を包んだハンバーグ。
バターを纏う分厚いステーキ。

南国を集めて濾したようなトロピカルティー。

藤井隆が歌にしたあの店、
平野紗希子が愛したレストラン。

初めて行ったロイヤルのことを
好きになるには十分な時間だった。

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「閉店アナウンス」を待っていた私は、
何故だか緊張していた。
いつ流れるのか、本当にながれるのだろうか、

22時57分
店内BGMと被りながら流れ出したそれは
あまりにフェードインで
想像とは違う昭和をまとった声で発せられる

気づいたときには満足気な顔でドビュッシーの月の光を聴いていた。

あぜ道を両手両足あげてスキップしたいくらいに

楽しい時間をありがとうロイヤルさん。

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