Message No.1:ネメシスQとダイヤルQ

今回は、秘密結社サイレンの使者とされた「怪人ネメシスQ」の名前について考える。

おさらいすると、この存在は、未来のグリゴリ07号が自身の時を遡る能力「Nemesis」に意志を持たせたプログラム「NemesisQ」だ(47話。単行本6巻収録)。

どういうわけか、アゲハ達の時代でも同じ名称が流布しているが、オカ研の奥村君によればある時を境にネットで急速に広まったという。それも07号の仕業だったのだろうか?(見落としがあったら指摘してほしい)でも1話初登場時に自ら「…Q…!!」って言っているし、実は初対面ではいつも律儀に名乗ってて、出くわした人のなかにはうまいこと聞き取れた人がいたのかもしれない。

閑話休題。ネメシスは、ギリシャ神話の義憤の擬人化である女神の名前だ。驕った人間に対し罰を与える(なお、時を遡る能力を持つという記述は一通りネット事典で調べた限り見当たらなかったので、PSYREN独自の設定かもしれない)。PSYRENでの驕った人間とは、弥勒をはじめW.I.S.E.を思い浮かべるが、07号との関係性を考えるとグリゴリ計画の関係者達ともとれる。

都市伝説では、ネメシスQが人々を楽園に連れていくという設定だったが、名前のモチーフを考えるといささかイメージが矛盾する。作中のオカルト掲示板ではもちろん指摘されていただろう。「楽園というウマい話に騙された人を、裏社会など恐ろしい場所に誘い込むことを暗に示しているとすれば納得がいく。」とかなんとか、陰謀論が囁かれていたに違いない。

では、残った”Q”とは何か。

ここで、PSYRENに欠かせない要素を思い出したい。それはもちろん"電話"だ。サイレンドリフトは赤いテレカを入手し、電話の鳴る幻聴を聴いて、電話を取ることをトリガーにサイレン世界と現代を行き来する。

かつて、NTTの「ダイヤルQ」という有料電話サービスがあった。(Qの右上に二乗のように2が付くことから通称は「ダイヤルキューツー」だったが、正式には「ダイヤルキュー」)

インターネット普及前の時代の、いわばニュースリリース・プラットフォーム(PRTIMESなど)のような用途を想定し開発されたが、成人向けサービスに多く利用された。また、複数人で通話できるパーティーラインは中高生同士がこぞって使い、子供ではとても払えないような電話代を請求される問題が頻発したとも言われる。

ネメシスQとダイヤルQ――人々を魅惑的な世界へ誘う、日常と非日常の”世界を繋げる”というイメージに重なると思うのはこじつけだろうか。

ダイヤルQは奇しくも、PSYRENの完結から丸1年後の2011年11月にサービス終了を発表し、翌月に新規受付を締め切った。2014年にサービス終了している。インターネットという、世界を繋げる新たなツールの普及によって存在意義を無くし、引退したのだ。


余談だが、ダイヤルQのパーティーラインを取り上げたオカルト系マンガ作品に『東京BABYLON』(CLAMP・著)(エピソード「CALL.A」「CALL.B」。単行本版第3巻、文庫版第2巻収録)がある。下記リンクでは該当話だけが収録された電子版が購入できる。

PSYRENから20年近く前の作品で時代感の差はあるが、電話という文明の利器が霊界を繋げる点、陰陽師である主人公が怪異を調伏する点などオカルトファンは楽しめるはず。

東京BABYLONは1990年~93年連載。現代日本を舞台とし連載開始当時のバブル景気の空気を色濃く反映している一方、翌年に始まったバブル崩壊とそれに伴い加速する世紀末思想を予見していたのか、バベルの塔で知られるバビロンをタイトルに据える。

人間の繁栄に神罰をもたらす女神ネメシスの名を借りたサイレンの都市伝説と、時を超えた奇妙な共通点を感じる。

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