見出し画像

2023年(漫画)

読みたい/読める漫画が増えたことを実感する1年だった。月イチのペースで読みたい作品が増えて、なんならなんとなく立ち寄った本屋に読みたいような漫画が並んでるのを認めて、買う、ようなこともしばしばあった。

10年前だって本屋の漫画コーナーに目を通していたはずで、それで手に入れることになった今日マチ子作品だってあるわけなのに、それにしても好きな系統の作品が増えたな、と思ってしまう。
当時別にそう嫌わずに目に入る漫画を読んでいて、面白がっていた自分もたしかにいる、けど、どう考えても今のほうが読みたいものに出会えていると思う。

選択肢が増えること、手に取りやすい場所にあることって素晴らしい。おかげで何も考えられない平日の夜の駅ナカでもこの手を伸ばせている。


考えてみればこれは漫画に限った話ではなく、お笑いにしろバンドにしろ、アイドルだって、当たり前に状況は10年前から大きく変わっている。
その変化が今の生きやすさというか、見たいものがいつでも積極性無く見られることに繋がっている、のと同時に、こんな状況が一過性のものであることを分かってもいる。

自分の好きなものが溢れる時期が20代半ばにあたっているという事実について、年齢によるものなのか、それとも時代側との擦り合わせによるものなのか、人生は自分の1回分しか無いので検証しようも無い。
ただ、どうしたって学生時分に比べてより一層個人戦になってしまわざるを得ないこの時期に、助けになるようなものが多いというのは素直にありがたい。存分に享受させてもらうほかないな、と思う。


2023年に触れてよかったものを考えていたところ、似たようなテーマを取り扱っている漫画に集約された。
スルーロマンス、いやはや熱海くん、インターネット・ラヴ!、煙たい話、おとなになっても。

そういうテーマが好きなら全部好きだよなという並びで、個性もなにも、と思うところもある(実際このなかのいくつかが列挙された年間ベストを複数見た)。
けれど、だって偶然にも全部今年出てたんだから仕方ないでしょう、とも思う。

スルーロマンス/冬野梅子

友達とスルーロマンスの話をする時間、スルーロマンスを読んでいて感想を言うような友達とだからこそする話がたくさんある。きっかけが発生するものを生み出していることに感謝したり、作中に登場する 東京に存在する人間 のニュアンスにざわざわしてしまうよね…と溜息をついたり、ただ面白いとか考えさせられるとかだけじゃない刺さり方をし続けている。

あとは作者のSNSで知った作品を見に行ったりとか、読んだりとか、そういう面で影響を受けることも多い。
直近では作者の感想投稿を見たのもきっかけのひとつとして、王国(あるいはその家について)を観に行った。家族や結婚などの切り口について心構えして観に行ったら、めちゃくちゃ映画としての構造が特徴的な映画で、ちょっとびっくりした。
(ただ結局その構造ゆえに時間いっぱい家族や結婚などの価値観について考え込まされることになったので、要らない心構えでも無かったりもした。)

いやはや熱海くん/田沼朝

いやはや熱海くんは読んでいるだけで癒される。癒されるな、と感じるということは、自分にもなんらかの後悔や痛みがあった、ということでもある。
自分はなにも言語化したり共有しなかったから分からなかっただけで、たしかに感情はそこにあったのだな、と振り返るようなシーンがたくさんあった。むしろそのシーンを分かるなよ、というようなシーンでばかり共感してしまった。
とにかく存在してくれていて嬉しい作品で、逆に2023年になるまで存在しなかったことが驚きなぐらい普遍的な話でもあると思った。
2013年の自分に渡してあげたい。とはいえ、あなたはずっと開き直っているので、大丈夫でもあります。

インターネット・ラヴ!/売野機子

インターネット・ラヴ!、これもSNS爆読み表象に張り倒されるような瞬間があって大焦りするのだけど、見ていてくれる人がいた、と安心する描写にどうしたって夢を見てしまう。そうやって夢を見せて、一瞬でも救ってくれるのが創作なのかもしれない。そしてだからといって罪悪感が一掃されるわけでもないのがいい。

とにかく、知らないところで勝手に影響を受ける、という描写に滅法弱い。これってみんなそうなのかもしれないけれど、確かめるのにはだいぶ勇気がいる。
勝手に影響を受けているな…。という自覚はとっても邪魔で、これのせいで人に伝えずにいる感想がどれだけあることか!
だから言えることなんて年を重ねるほど相対的に少なくなってしまって、今自分は誰になんの配慮をしているんだろう、と思う瞬間さえある。その人はとっくに目の前にいないというのに。

気の許し、みたいなものって、どれだけ/どのように相手から影響を受けたか、を隠さず言えるかどうかでも測れるんだろうな。許されたい、と思わないでいる時間が無かったから分からないけど、そうじゃない人ももしかしていたりするんだろうか。気になるところではある。

煙たい話/林史也

煙たい話。理想に見える関係が、めちゃくちゃ折り合いと努力で成り立っていることを目の当たりにする。お互いに課してしまうということ、そうなってしまうような周りの視線。

好きなシーンを挙げ始めたらもちろんキリが無いけれど、今読んだばかりの第19話の流れもめちゃくちゃ好きだった。今まで単行本派で連載で追っていなかったのにこの機会に読み進めてしまった。2024年からは連載で追うようにします。

話題が連綿と繋がっていった、そのさきのひと言、何かが劇的に変わるとかじゃないこういうエピソードに救われる。そして自分にもこういう理想のシチュエーションがまだまだあるんだろうな、と新鮮にわくわくできた。

おとなになっても/志村貴子

おとなになってもでは描かれている境遇のリアルさ、生々しさゆえにちょっとしんどくなってしまったりもした。
学生たちのエピソードをいま真正面から受けたときのダメージの大きさといったら、省みるべき過去が思い浮かんでは全部もう一度閉じ込めるしかないほどだった。

またそれとは別に、今まで自分はやっていきづらい職種があることを意識してこなかったけれど、自分のやりたい仕事がそういったやっていきづらい職種だったらどうしただろうか、と考えてしまった(これは煙たい話にも通じる部分でもある)。

女子校も機械科もサークルも、やっていきづらくならない道を無意識に選んだ結果でもあったような気がしなくもない。
もちろんそれ以外の選択肢がすべてやっていきづらい場所だったとは決して思わないけれど、比較的消費エネルギーが少なく対処できるエリアではあったんじゃないか?とか。
そういう進路の決まり方もある、ということ、こんなの振り返ってみなきゃ分からないじゃんねという話でもありますが……。


音楽の感想とか映画の感想は話したり投稿する機会が今までもあったけど、そういえば漫画の話って本当にしてこなかったな、と思ったのでこの機会にまとめた。
今年もふと買った漫画が面白かったら嬉しい、できれば読みたいような漫画が駅ナカに置いてあったらなお助かる。

もし話を聞いてもらえることがあるなら、また誰かに聞いてもらいたい。
年末に友達の部屋でA子さんの恋人の話をしてお互いに項垂れる瞬間、めちゃくちゃ楽しかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?