近況

ふと思い立って、近況を書こうかなと。やる気は大事。あと、文章を書かないと頭の回転が露骨に遅くなる。頭の体操しよう。



最近読んだ・見たもの

サラ・ビンスカー 市田泉(訳) いづれすべては海の中に

 以前にX(旧Twitter)でTLに流れてきてから気になっていたSF短編集を、ちょこちょこ読んでいます。「そしてわれらは暗闇の中」「時間流民のためのシュウェル・ホーム」「孤独な船乗りはだれ一人」「イッカク」を読了していて、これから表題作である「いずれすべては海の中に」を読む予定です。ゆらめくような美しき奇想短編集と謳われるように、SFの中でも幻想文学に近くて掴みどころのない小説群だと思います。私は普段、日本の現代小説の中でも女性作者の作品を主に読むので、こうした海外文学の文体は馴染みがなく、結構読むのには苦労しています。村上春樹が苦手なのも、こうした理由ではあります.......。とはいえ、小説を書くようになってからというもの自分の文章力や文体への悩みが尽きないので、自分と大きく異なるスタイルの文章や作品を読むのはとても勉強になりますし、良い刺激になります。盗めるところは盗んで、いつかこんな風に文章を操りたいと思いながら読むことにします。お気に入りは、「そしてわれらは暗闇の中」です。

化野夕陽 春の魚

https://virtualgorillaplus.com/stories/harunosakana/

 化野夕陽さんは文章の上手な方として認識していたのですが、実際に読んでみると、想像の何倍か上手でした。気候変動によりサワラが取れなくなりつつあるというのを基本設定にした身近なSF短編です。SF初心者かつ文系の私としては、こうした少し不思議なSFの方が読みやすくて助かります。中盤で主人公の遭遇する不思議な出来事が、終盤でひとつの答えを提示しつつもふわりと投げ出されて終幕する感じとか、全体的な淡い雰囲気が素敵だなあと思います。この幻想的な感覚はまさに、私たちが地球温暖化を考える際の現実感のなさと重ねることができて、他人事ではいられないなと思ってみたり。

間宮改衣 ここはすべての夜明けまえ

 twitterのTLでみんなして話題にしていたのでさすがに気になりました。主人公によりひらがなで綴られる家族史でして、前評判のとおりアルジャーノンのような話です。こういうのってありそうでない話で、新鮮だなと思いつつ、これを書ききるの大変だっただろうなと思いつつ読んでました。この作品は純文学として再読したいと思うのですが、これを読み返すのはまあ大変だと思います。とはいえ、隙間時間で急いで読んだのでまったく読み込めておらず、いつか再読します。いつかっていつだよ。でもこういうのは、忘れた頃に読み返すと良いって知ってる。

楊 逸 時が滲む朝

 中国の民主化に傾倒する二人の大学生を描いた、芥川賞受賞作です。短編ですのであまりボリュームはなく、また全体的に平易に描かれているのが特徴です。図書館で何気なく手に取って借りた作品で、読み終わった後で芥川賞受賞作だと知りました。正直なところ、こうしたリアルな作品よりも技巧的で作者の意図を何重にも織って紡がれた作品の方が好きだったりします。それはともかく、三幕構成としてはシンプルです。文章が平易で作品の盛り上がりが抑えられてる分、素直な三幕構成にすることでバランスを取ってるんだろうなと思います。この作品では民主化運動という理想と、暮らしという現実の対立を描いているのですが、中でも主人公が中国から日本に来た後の運動の描き方が魅力的だと思いました。ここは是非とも読んでほしいです。まあ、私がBFC6に応募した作品と通づるところがあったからそう思うというのもあります。

坂崎かおる 海岸通り

 私が以前より勝手に推している坂崎かおるさんの芥川賞候補作です。坂崎さんは小説がお上手だと思っていたので、芥川賞候補になったと聞いてもあまり驚きませんでした。この作品は私の読み方と相性が良いというのもあってかなり好きな作品です。欠点が無いのも良いけど、欠点を超える魅力がある方がもっと良い、というのは私の信条の一つでして、やっぱり私は、丸い作品よりも尖った作品の方が好きなんです。ですので、作為的と言われようと、こじんまりしていると言われようと、こういう方向性の作品を読みたいし書きたいです。別に、本作に欠点があると言いたいわけではなくて、魅力があるということは何にも勝るということです。ホンモノとニセモノをテーマにした作品ですが、個人的には記号論で読んだ方が分かりやすいかなと思ったりはしています。最後の、男の子が覚えのある匂いを嗅ぐ下りは、多分こういうことなんだろうなと思いつつも、答えを出せてないので、もう少し悩んでみることにします。そうやって考えるのが、小説の楽しい読み方の一つだと思うのですがどうなんでしょうか。

池澤春菜 君住む世界で

 池澤春菜さんの作品を読むのは「わたしは孤独な雲のように」以来です。あのときも思いましたが、池澤さんの作品には優しさと温かさがあると思います。人間の暗いところや悲しみを包み込んだ上での優しさというか、前向きなのが印象的です。2作しか読んでいないのでこう言うのもあれですが...…。自分の書く文章は淡白になりがちなので、こういうの書けるようになりたいです。

川上弘美 センセイの鞄

 40代手前の主人公とその高校時代の先生であった60後半のセンセイの、上品な恋愛小説です。こういう静かな作品が好きです。映画化もされていますが、みる予定はないかなぁ。実は、最近の作品に多く見られる気がする、若さをエモさとして消費する作品とかがあんまり好きじゃないので、それに対するアンチ行為としてこの小説を読むに至ったという経緯があったりします。どこまでも自分勝手な主観なので悪しからず。飾らない、人間の魂の触れ合いと言うんでしょうか、そういうのがこの小説にはあるような気がします。若さが全てじゃないだろうと思いました。知らんけど。

平庫ワカ マイ・ブロークン・マリコ

 以前から気になっていて、ようやく読めました。良いですね、これ。やはり私は、こういった、恋愛のようで恋愛じゃない微妙な距離感が好きです。今でもアッシュ・リンクスと奥村英二が好きなので。マイ・ブロークン・マリコは光の庭と違って、ストレートでストロングな物語です。その分、やるせなさもすごいです。重いテーマを隠さずに、けれど暴力的ではなく繊細に描く手つきがすごいです。勧善懲悪のような分かりやすい話ではなく、繊細で複雑な話です。ちなみに、暴力的ではなく、の意味は乱雑・理不尽・カオスではなくという意味です。本作では、暴力を描きつつも、それに物語が振り回されない腰の強さがあって、それがこの物語を主人公・シイノの物語として成り立たせているのだなあと。ストレートでストロングなスタイルとはまさにシイノ自身なのだなあ、とわかっている風に語ったりしてみます。この作品を読んで最初に思ったのは作者の力量の高さで、ここまで上手くまとめるなんてすごいなあと感心しました。一緒に収録されているYISKAーイーサカーという話も面白かったです。マイ・ブロークン・マリコが有名ですが、こちらも負けず劣らずの出来だと思います。

ウォン・カーウァイ 恋する惑星

 ちょっと前に期間限定公開されているのを見に行きました。金城武がイケメンでしたね。特に、ホテルでテレビを見てるシーンと、雨の中でグラウンドを走るシーン。バーで出会う場面もオシャレです。この映画は二つの短編をつなげているのですが、私は前半の話の方が好みでした。というか、ほとんどの人はそうだと思います。後半は色々ぶっ飛んでいるので......。前半の話は、煩雑としていて混沌という言葉の似合うあの頃の香港と、金城武演じる刑事・モウの静かな恋愛の対比が見事でした。私は幼少期を香港で過ごしたので、篠原烏童さんの「週末に会いましょう」だとか、香港ノワールだとか、こういうのとかはとても好きです。まあ、私が住んでいたのは都会ではないし、時期もずれているのですが。とはいえ、縁はあるのでね。

 他にも色々読みました。古賀コン6の作品とか過去のBFCの作品とか六枚道場の作品とか、掌編・短編小説とか漫画とかその他諸々。本読むのって大変ですから、読めるうちに読んでおきたいですね。


最近書いたもの

一時間小説「古本」

 一時間で書いた小説です。友人がそういうのを書いていまして、影響されて書き始めました。元々、小説は書こうと思ってその度に挫折してすっかり諦めていたのですが、一時間なら、2000字弱なら書けるだろうと思って挑戦してたのです。この作品は坂崎かおるさんの「母の散歩」(後に「いぬ」に改題)と永井荷風の「寝顔」と佐田稲子「水」を下敷きにして本文を一時間で書きました。分かりにくいし淡白だしと、欠ける部分は多けれどかなり気に入ってる作品です。これが思うように書けたから最近頑張れていると言う意味でも、私の中で大事な作品です。


檸檬哀渦

 古賀コン6に非正規エントリーした作品です。古賀コン6は以下↓

 先述の「古本」を書いて、次はどうしようと悩んでいた時に古賀コンの存在を知って描き始めましたのですが、古賀コンに気づいた時にはもう〆切を過ぎていたので、非正規エントリーという形になってしまいました。自分では上手くいかなくて反省点の多い作品だと思っています。深夜3時に執筆したので、頭回らなすぎててそうなっちゃいました。反省。また、プロットと全く違う着地の仕方をした作品であり、その結果として私自身の投影になった作品でもあります。この点は気に入っています。この作品のおかげで「読みかけのディケンズ」は成功したので色々ひっくるめてまあよし。noteのいいねの他に、Twitterやnoteで感想や短評をいただき、とても嬉しかったですね。いつか同じテーマで再挑戦したいとは思っています。

読みかけのディケンズ

 六枚道場に影響されて、同じ題で書いた作品です。読みかけのディケンズ→なんで読みかけなんだろう→読みかけじゃなきゃならない理由は?という風に考えてこの作品を書きました。檸檬哀渦の反省を活かして、後半を分かりやすく丁寧に書きました。おかげでかなり上手くいった作品だとは思っています。やはり日の出ている間に時間をかけて書くと良い出来になりますね。裏話としては、川上未映子さんの「愛の夢とか」に収録されている「日曜日はどこへ」という短編が下敷きになっています。また、菅原道真の飛梅伝説を踏まえた終盤の描写がお気に入りです。

BFC6と第一回京都やおよろず文学賞に応募したよ

 BFC6の方は自分の書きたいものを書けました。自分の書きたいテーマを書くために、いくつかの作品を下敷きにしつつオリジナリティを盛り込みました。そもそも原稿用紙六枚に収まる作品じゃなかったのを無理やり収めたために情緒が省かれて説明的になったこと、それでもテーマを読みとるには説明が不十分なことが反省点です。下敷きにした作品を知っている上でちゃんと読めばっていう感じなので。一応、下読みしてくれた友人はかなり読み取ってくれましたが、やはり本テーマにたどり着くのは難しそうでしたね。本来なら最低でも3000字くらいは必要だと思います。こんな分かりにくいの読ませてごめんね。それでも、BFC6の本戦に残れるといいな......。決勝作品はプロットしか用意してないので、もし決勝に残ったらそこから急いで書き始めることになります。間に合わないだろうな。予選作品が減量して必死に絞った力石徹で、決勝は矢吹丈のようなノーガード戦法です。笑ってください。
 実は、BFC6用の作品を執筆する上で参考にするため、坂崎かおるさんの「フラミン国」だったり宮月中さんの「袖をひく石」だったり、草野理恵子さんの「言ったり思ったり詰まったり」だとか、その他もろもろを読んで顔面ボコボコにされながら頑張って書いていました。この傷をバネにして成長したいという思いはあります。形になるかは分からないけど。
 第一回京都やおよろず文学賞の方は、かなり難しかったです。800字の小説って、何を書けばいいのか分からないのが辛かったですね。何を求められているかが分からず、とりあえず出すだけ出したけど......。4つあるテーマの中では応募数の少ないらしい「京都と雅」で書けたのは褒めてほしい。雅をテーマにした小説になったかどうか、はたして。

個人的な話

 ①香水を買いました。J-SCENTの花見酒という香水です。トップノートはりんごや日本酒の香りがするので人を選ぶと思います。時間が経つと、万人受けしそうな、落ち着いていて淡い桜っぽい匂いになります。この香水を知ったのは「上伊那ぼたん、酔える姿は百合の花」という漫画に登場していたのがきっかけです。上伊那ぼたん、とても可愛くて、面白くて、おすすめですよ。私は4巻で致命傷を負い、5巻で空の高みへ吹っ飛ばされました。jigsawのsky highのように。もどかしくて、切ないのです。郡上先輩と景嵐ちゃんの、ゴッホの手紙やその周辺のエピソードが好きです。
 ②江國香織「落下する夕方」と稲垣足穂「一千一秒物語」を購入しました。「落下する夕方」は読んでからというもの、事あるごとに思い出していた作品で、これは買うしかないと思って買いました。「一千一秒物語」は最近になって名前を知りました。昔からWUNDERKAMMERさんの投稿する140字小説の大ファンでして、そのWUNDERKAMMERさんが稲垣足穂を敬愛しているとのことで購入に至りました。蟲師、アタゴオル、一千一秒物語。これ三種の神器。知らんけど。
 ➂まだプロットのまままの作品や没にした作品があったりします。火の鳥に着想を得たループ物と、アタゴオルに着想を得た、主人公が木になる話がどちらもプロットのままです。いつか書きます。近いうちに。それから、一時間小説を一つ没にしました。やりたいことはやれたもののあんまり納得がいかない出来だったので。小説に限らず何でもそうですが、やりたいことをやるためにはその前段階が大事だと思います。それを実感したのが学びですね。また、サロメと夢十夜を組み合わせた話もいつか書きたいです。ループ物を物語として考えていく際にプロットから外した要素なのですが、結構気に入ってるモチーフなので形にしたいです。

そんなかんじ。文章が上手くなりたい。心を豊かにしたい。あと、めっちゃ寝たい。

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