【映画感想】『aftersun/アフターサン』 ★★★☆☆ 3.8点

 11歳の娘・ソフィーと、普段は分かれて暮らしている31歳の父・カラムのひと夏のバカンスを描いた作品。古びたハンディカメラの断片的な映像の間を補完するような形で物語が進行していき、時折、それらのどちらでもない謎めいた映像が挟まることにより、この物語の視点が20年後、当時の父と同じ年齢になった娘・ソフィによるものだということが徐々に示唆されていく。

 ほんの一部のシーンを除いて、全編に渡って父娘のバカンスの様子のみに描写が留められており、しかも、このバカンス自体では特に大きな事件も起こらない。しかし、時折、前後の褄の合わない場面であったり、非現実的な描写であったりが挿入されるため、ビデオカメラ映像以外のシーンは全てが事実ではないことが徐々に示されていく。これにより、明示的には示されないものの、バカンスの後の比較的早い段階で父が亡くなったであろうこと、おそらくは自死なのではないかということがうっすらと浮かび上がってくる。



 前述の通り、全編を通して、スクリーンに映っているのは父と娘のなんということはないバカンスであり、大きな縦軸のストーリーというものはほとんどない。

 そこではダイビングをしてみたり、泥風呂に浸かってみたりというようなちょっとしたイベントもあるにはあるものの、どちらかと言うと、何日もプールサイドでダラッと寝そべっていたり、何度も安っぽいアーケードゲームで遊んだりと、楽しいけれど退屈で単調、だけれど、それが楽しいというありきたりな夏休みが続いていく。

 ただ、そんな日々の中で、父親が見せる何気ない仕草や表情から、彼の心にある深い闇がちらちらと顔をのぞかせ始める。子供の視点から見ると楽しくありきたりな夏休みなのであるが、このひと夏のきらめきが眩ければ眩いほど、その根底に流れる破滅の予感の不穏さがどんどんと増していくという二層の味わいのある作品となっている。



 本作は父のカラムと娘のソフィーでほぼ話が進んでいくのだが、とにかくこの主演二人の演技が秀逸だ。ポール・メスカル演じる不器用ながらも良い親であろうと努める父親の演技の解像度が高く、娘への一時の怒りや困惑もぐっと堪える演技や、時折見せる心が崩れていくのを抑えられない不安定な様子の表現が素晴らしい。

 一方、娘役のフランキー・コリオの、大人には程遠く、しかし、幼い子供でもない微妙な年齢の雰囲気の演技も実に素晴らしく、ビデオカメラを持って子供らしくはしゃぐ姿と、父親に対して妙に冷めた冷静な言葉を投げつける子供らしからぬ姿を、非常にシームレスに一人の人物としてつなげて見せている。

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