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第十首-夕凪の渚でしりとり「ささ」「さかさ」「さみしさ」なんて笑いとばせよ

十首目。いよいよ二桁! いつも読んでくださっている方、ありがとうございます。はじめましての方、怖くないからこっちにおいで。

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たぶん、お互いなんとなくわかってる。
もう駄目なんだろうなってこと。

怒りだったり哀しみだったり好意だったり敵意だったり。
ふたりはそういう空気をつかむのが上手だった。

しゃべらなくても相手の考えていることがわかって、伝えなくても相手の気持ちを感じることができる。

だからふたりはもうわかっているのだ。
もう終わってしまったんだろうということを。

そしてまだわからないのだ。
どうやって終わらせたらいいのかということを。

覚悟を決めたようにふっと息をはいてから、彼は小さくふるえた。ふるえて、それまできゅっと結ばれていたくちびるを初めてゆっくりと開いた。

「あのさ、」

それはまるで夏の夜空に打ち上げられた花火のようにぱっと開いて、あたり一面に広がっていった。

彼女は少しだけ驚いたような顔をして、でもすぐに先程の彼と同じような動作で口を開く。

「ささ」

「ささ?」

彼女は無言でうなずいて、彼はそれを見てあいまいに笑う。

「さかさ」

「さみしさ」

ささやかれる冗談みたいなことばたちを輪のようにつなげて、彼らは声をあげて笑った。その響きは、生まれたばかりの赤ん坊の泣き声にどこか似ていた。

夕凪の渚でしりとり「ささ」「さかさ」「さみしさ」なんて笑いとばせよ(千葉聡)

スピッツ「渚」

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さて、今回は十首目ということであとがきもつけてみます。
(あれです、CDのボーナストラック的なイメージです)

ここでは短歌にあわせるのは1バンド1曲、というルールを自分に課しているのですが、今回は悩みに悩んだ結果スピッツの「渚」にしました。

おや? と思った方、ありがとうございます。いい読者様です。
そうです。つまり九首目のバンドと早速被っちゃってるんです。

ルールを守って他の候補曲にしようかなとも思ったのですが、やっぱり何度聴いてもこの曲が一番しっくりきたので禁を破って二日連続のスピッツ祭りと相成りました。
(余談ですがスピッツ大好きなんですよ…。「アパート」とかちょー名曲ですよね…)

しかし掟破りを決めたのにはもうひとつ理由があります。

ヒント:九首目が「インディゴ地平線」、十首目が「渚」。

そうそう、正解です。あなたスピッツファンですね!愛してるの響きだけで強くなれちゃうタイプですね!

ということで、まぁなんてことはないんですが、上記二曲が収録されている『インディゴ地平線』というアルバムでも「インディゴ地平線」の後にくるのは「渚」なんです。

十年以上前、擦り切れるくらい聴いたアルバムのその先の地平に瞬間、立ったようなそんな気持ちになって、これしかないなと、そう思ったのでした。

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