あまり知られてない国産メタバース「バーチャルキャスト君」を語る

概要

去年の10月にFacebookの社名がMetaになってからというもの…「メタバース」というバズワードが独り歩きして、つい昨日までVRやゲームやアプリだったはずのものまで、とにかく「メタバース」という事になってしまっている。
そこにNFTやWeb3の話が盛り上がってきて「バーチャル経済圏」だの「仮想空間での市場」だのの話が出てる。

そんな中、バーチャルキャストはFacebookがメタバースを謳う前(2018年頃)からアバターの共通規格であるVRMを作っていたり、(現在は)VRのSNSを作っていたり(今風に言うならメタバース)、最終的にはプラットホームの横断を可能とする事を"目標"としたアイテムの概念であるVCIを作っていたり、アバターやアイテムを売買・共有するサービスのTHE SEED ONLINEを開発していたり、バーチャルキャストはMetaQuest単体でも遊べたりする…

つまり、アバターとモノそのもの・モノを使う場所・モノを流通させるプラットホームの3つを自社で統合的に開発しており、実際にユーザーも居て今も稼働している…。
所謂、空中戦で行われてる「バーチャル経済圏」が既にあるという具合だ。

しかし…知られてないのである…!
全く、知られてないのである…!!!!
だから、解説をする…!!!

最初に断っておくが、PR案件ではない。
PR案件ではないが、自分が好きなものに肩入れしたい記事にはなっている。バチクソにバイアスは乗っかってるので、それを踏まえた上で読んでほしい。

メタバースの定義を振り返る

画像引用:メタバースとそれを一緒に構築する方法-2021を接続する

何故かメタバースを語る時に無視されがちな、メタバースを牽引してゆく張本人であるMeta社が予算と時間と社運をかけて作られたであろうプレゼンテーションの内容を参考にすると、メタバースとは「没入感があり実際に体験できる」という事を繰り返し強く強調している。
(キーワードは体験、その場、没入感)

つまり、既存のモニターで視聴するのがメインのコンテンツとメタバースは明確に区別されている。
所謂「スマホやアプリからアクセスできる視聴型の3Dコンテンツ」はMeta社の言うメタバースに含まれてると解釈する方が難しい内容になっている。

「どうぶつの森やフォートナイトがメタバース」の元ネタはNFTの教科書という本なのだが、おそらくMeta社のプレゼンテーションが出る前に執筆されていたのだろう。Meta社の定義に沿うならこれらはメタバースではないし、ニンテンドーさんが「どう森はメタバースです」と言った事は1度もない。

しかし、インフルエンサーやビジネスマンがメタバースを解説するコンテンツを出すにあたり、体系的にまとめられた情報媒体が最近までなかった為、やたらめった「どうぶつの森やフォートナイトがメタバース」という説明がなされている。

何故、マックザッカーバーグの発言は無視されるのか。
よくわからないインフルエンサーやビジネスマンの話を聞く前に、Meta社のプレゼン見たほうが100億倍有意義である。

そもそも、この"メタバースブームの文脈"というのは、VRヘッドセットの開発をしていたOculusをFacebookが買収した事からはじまっている。
個人でも所有可能なVRのデバイスができる→VRを構築するのに必要なライブラリが揃い始める(Unity等)→足回りができてきたので、PCとスマートフォンの先にあるVRSNSに行く という流れだ。
なので「VRで実際に体験する」というのは必要要件の1つにある。
(少なくとも、Meta社の言わんとするメタバースにおいては)

本記事では、メタバースの定義は「Meta社の提唱するメタバースの定義と同じ」とする。何故ならメタバースをバズらせた張本人だし資産も世界トップクラスだし、これを無視する方が無理あると思うので。

バーチャルキャストの生い立ち

バーチャルキャストは2018年の4月にサービス開始。
バーチャルYouTuberの流行に乗っかり、気軽に3Dモデルとプレイヤーをトラッキングして配信ができるツールとして押し出していった。
実際、現在も個人Vtuberが3Dを運用するにあたって強い味方となっている。
その後、バーチャルYouTuberの流行が一段落したり、バーチャルYouTuber=Live2Dという図式が強くなってくと共に、VRのSNSにピポットしはじめて現在はSNS色が強くなっている。

バーチャルキャストに対する誤解

生い立ちもあってか、現VRCユーザーでも未だに「配信用ツール」として認識されがちで、VRSNS化しているという情報は伝わってない事もある。
(むしろ、VRに見識があるからこそ配信用ツールという情報をキャッチしている)
よくある誤解が下記の通りだ。

  • 配信しないといけない → (世に出た当初から)配信しなくても使えるし、むしろバーチャルキャスト単体で配信をする機能はついていない(OBSが必要)

  • VRChatみたいなプライベートインスタンスが立てれない → ルームという機能でできる

  • フレンド登録の概念がない → 目的があって対応してこなかったが、 2021年8月19日に実装される

  • VRChatに比べてアバターの自由度が低い → これは半分間違っているとも思っていて…VCIを使う事で解決できる。

アバター(VRM)やアイテム(VCI)の相互運用性

画像引用:VRM-VCIが広げるVR世界間ポータビリティ

バーチャルキャストは2018年にサービスインするにあたって、サービスの核となるアバターの共通規格であるVRMの発表も行っている。
これらはMITライセンスというライセンスで提供されており、VRMを利用するにあたって月額料金だとかライセンス購入費用はかかる事無く、自由に使う事ができる。

こういった技術は共益性が非常に高いが、直接的には金にならない。
誰かが「アバターの規格は共通化された方が良いよね」と思っていても、実際に開発・保守・運用するのはめちゃくちゃにコストもかかるし、エンジニアリングの能力もかなり必要
実際的にはゲームの改造MODのように「このアプリケーションにアバターを導入するには、独自の規格のファイルを作成してください」とするのが現実的な落とし所になるだろう。(VRChatはそうなってる)

画像引用:VRoidHubより連携アプリ一覧

しかし、国産の3Dアバターが使えるプロダクトの大半はVRMに対応している。なので、VRM形式でアバターを持っていれば、上記に上がってるプラットホームは全て横断可能だ。
IT後進国と言われがちな日本から出てきた割に、結構イケてる。

この基盤技術なくしてはVtuber業界はめちゃくちゃ苦労するだろうし、国内のアバターを利用したプロダクトもここまで流行らなかったと思う。

VRMがMITライセンスで提供されてるから、アプリケーションの開発者は労する事なくアバターの共益財産の恩恵を受ける事ができる。
VRMの前提があるからこそ、市場が広がり続けクリエーターにとっても作品を売り出す選択肢が増えるわけで、これこそ「メタバースの経済圏」と言えよう。

ちなみに、VRMコンソーシアムのオブザーバーにはどうぶつの森というメタバースを開発している任天堂さんが参加している。

アイテムの共通規格を目指してるのがVCI
画像引用:VRM-VCIが広げるVR世界間ポータビリティ

そして、VRMがアバターなのに対して、VCIはアイテムの概念である。
ただし、アイテムに関しては一筋縄ではいかない。

例えば、ファイルの読み込みが対応できたとしても、対応先にVCIを正しく表現できる機能があるのか?という問題がある。
例えば、VCIは「バーチャルキャストの機能を呼び出す事」ができるが、当然、他のプラットホームではバーチャルキャストの機能はないのである。
Photoshopのファイル形式であるpsdも、読み込むアプリによっては存在しない機能で表現されたデータは表示できないのと同じ問題が発生する。
(Maya産のFBXと他ツール産のFBXが違う。とかと同じ問題)

しかし、かといって空想をこねくり回してもモノはできない。
今できる範囲で作って運用してく中で落とし所を見つけるのが「実際にできる事」だろう。
こうした途方もない取り組みがあるというだけでもだいぶ気持ちとしては違う。

画像引用:メタバースとそれを一緒に構築する方法-2021を接続する

ちなみに、マックザッカーバーグもメタバースはインターオペラビリティ(相互運用性)が必要だよ!とは言ってる。
この相互運用性を可能にするのがVRMのような共通規格で、実際そうなっているわけだ。

余談、NFTでメタバースの経済圏

最近、よく言われてるのが「メタバースでNFTが経済圏をWeb3」みたいな話だ。

NFTの言わんとする事は「ウォレットにNFTが紐付けられる事で、NFTに応じたサービスや資産の獲得ができる」という事で、一部のプロダクトに関しては実際にそうなってるのだが…。
これはNFTとNFTに紐づいたサービスの両方を開発する事を意味している。

「メタバースでNFTが経済圏」の説明において、ユーザー感覚で本来的に想像するのは「NFT化された服を買うと着れる」的な事だろうが、そんなものはない(AA略)
正確には、そういうNFTを実現したいならば、服を着れるプラットホームの存在が前提となる。

すごい乱暴な事を言ってしまうと、服を着れるプラットホームを作ってる人がNFTによる提供を開始すれば、服が着れるNFTになるし、クレジットカード決済に対応すればNFTを使わなくても成立させられる。
超究極的には提供方法の違いでしかなく、現状は総合的にクレジットカードが便利という事になるだろう。
(NFTはガス代の問題を抱えていたり、ウォレットで取引するのにユーザーの教育が必要)

現状、サービス開発ができないユーザーでも発行可能なコレクタブルNFTが流行っているが、それらのNFTは何か機能やサービスを提供しているわけではないので、持っていても機能的恩恵を受ける事はできない。
(二次取引可能な機能と、コミュニティへの権威性を示す実質的役割はある、また、NFTの投資というよりクリエーターへの投げ銭としての役割は大きい)

結局のところ、NFTは取引のバリエーションにしかすぎず、ホンモノの経済圏を成立させるにはちゃんと稼働しているプラットホームや利用してるユーザーや、VRMやVCIのような基盤技術の開発が必要で、それらがメタバースの本丸ということになる。

ホントの所、コレクタブルNFTではなくNFTを持ってる人だけが入れるメタバースの部屋、とかNFTを持ってる人だけが受けれるサービスとか、そういうのをユーザーが自分で開発する事なく提供できるサービスだろう。
(現状、ユーザーがDiscordの運用で頑張る!とかはできる。人力Web2…)

結局の所、Web2的な思想で「プラットホーム上のコンテンツとそれに紐づくNFTをUGCで作成できる」という形に落ち着くだろうナァ…と思ってる。
実際、大半の人は独自のトークンではなくOpenseaでmintしてるしね…

VR(メタバース)を活用した教育

ちなみに、バーチャルキャストはS高にも採用されていて、生徒にOculusQuest2(VRHMD)を配っていたり、VRを活用した教材の提供をもう既に行っている。
このメタバース入学式は配信としても面白いので、見ておくのをおすすめ。
つまり、バーチャルキャストは独自の経済圏を構築しながら、教育の場にも既に実践投入されてるプロダクトなのである。

この記事の言いたい事

ただ…知って欲しかったんだ…

VR機材を持っていてVRChatを遊んでるような人も「バーチャルキャストは配信ツール」という認識のまま止まっている事はままあり、現状のVR内決済とか、フレンドとルームの機能とか、VRSNSを成立させるための開発が着々と完了している事が知られてなかったりする。
国産のVRSNS(メタバース)もすごいんだぞ!って所を見て欲しい…!

ユーザーにとってプラットホームが国産であるか?とかは本質的には関係ない。
ただ、忘れないでほしいのはOculus Riftの製品版が発売する際に日本には正式代理店が置かれない可能性があった事や(関係者の頑張りによって回避された。日本のエンジニアがパルマーラッキーに直談判した話とかある)AppStoreやGoogleStoreなどにコンテンツの生殺与奪の権が握られている事。VRChatのドキュメントは英語のみで日本語にはローカライズされてない事。
日本が経済大国から脱落してから、日本がおま国扱いされるケースは珍しくなくなった。

そして、VRSNSやメタバースの分野でも、よくわからない協会とか団体とかできたり、インフルエンサーやビジネスマンが「VRはメンドウだからやらなくていいよね…スマホからやれるのがカンタン!」とか言ってたり。
そうしてグダグダやって焼け野原になったあと、何も残らなかった野原の片隅で「デモサァ…いてもVRMって日本発祥のライブラリなんだけどね…」「Meta社が発表する3年以上前からやってたし、国内のアバター文化もめちゃ盛り上がってたんだけどね…こんな国は他になかったのにね…」と言いながら、MetaQuestでレンダリングされてる河原の隅で体育座りするのはなんとも言えない悲しさがある。

また、Metaはプラットホーム上での手数料を最大で47.5%にしよっかナァ…とも言ってる。

「クリエイターが1ドルでアイテムを販売する場合、Meta Quest Storeの手数料は0.30ドル、Horizon Platformの手数料は0.17ドル(残金の25%)で、クリエイターに0.53ドルが残る」と広報担当者は述べた。

Meta、メタバースでの販売に47.5%の手数料を設定…バーチャル商品販売ツールのテストを開始

「みんながみんなMetaの経済圏に乗らなきゃならない!」とかなったら、円で決済する場合は、ドル円の為替レートも乗るので大変な事になりそうだよね…めっちゃ円安だし

でも、そんな日本にもまだ希望はある。
TwitchやTiktokで人気になっている3Dのキャラクターが面白い事をしている動画や配信では、大半が日本のクリエーターが作成したアバターが使用されている。
キャラクターIPの分野ではまだまだ日本は世界に向けて戦えるポテンシャルがある。

だからこう。おれは私利私欲の為に国産VRSNSであるバーチャルキャストを推したい。
おそらく、決済にドル円の為替レートが絡まない方が楽だろうし、今時のサービスで手数料も47.5%も取るなんて話にもならないだろう。
PS2の時代に日本のゲームが強かったのもクソでかマニュアルが日本語で書かれていたからという要因もある。ので、日本語ベースというのは重要。
ソニーのハードが世界を席巻してたと思うと胸熱である。

少なくとも、Meta社のHorizon Worldsが世界的プラットホームかつメインストリームである脇で、バーチャルキャストのような国産プラットホームが持続可能なぐらいの市場はできていて、ユーザーはどちらか選択できるぐらいの感じになっていてほしい。

そして「各ユーザーが眼前でできる事」というのは、正しい認識と知識を広めてゆくという所にある。
ポジショントークバチバチなビジネスマンの説明とか、よくわからない本を鵜呑みにしてるインフルエンサーの発信とか、そういうものは(懐疑的だな~)ぐらいに思えるだけでだいぶ違う。
口だけがうまいビジネスマンに丸め込まれてワケ分かんない事にはならないようにしたい。

まぁ、この記事も真っ当なVRSNS作ってるプラットホームが評価されてほしいというポジショントークありきで書かれている。

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