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遅刻をくり返したあとの世界 another side

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『遅刻をくり返した後の世界』は1990年代から2000年代にかけて 「猫キャット」が撮りだめたすでに無くなってしまった場所のガイドブック。 世界一身近なゴミの中で宝探しを続けてき…
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#古い建物

夕凪の甲板を疾走する影は、軍手で作った海賊の指人形を握りしめる

氷川丸神奈川県横浜市中区山下町山下公園地先 2004年〜2006年  1970年代の終わる、小学校低学年の夏休み。昨年101歳で亡くなった祖母が私と3歳下の妹を、横浜の山下公園に停泊する氷川丸に連れて行ってくれました。でも、ほとんど記憶がありません。妹と祖母と3人で、広い甲板のベンチに座ってクレヨンでスケッチした、向かいに停泊する大きなフェリー「さんふらわあ号」の方が印象にあります。祖母が真剣に絵を描くのを初めて見た私は、思いがけずうまいことに驚くのですが、すると薬剤師だ

ゴミを部屋に置いたまま忘れてしまうと土に還ってしまい、何を拾ったのかわからなくなってしまいます④

 冬休み明けのがらんとした放課後。樹々がモノクロの線画のようです。ピラミッド屋根の「鷹の台ホール」、奥のサークルボックスからはときおり鈍い管楽器の音が響いてきます。1991年が明けたばかりの、東京のはずれにある美術大学。Uちゃんと私はぬるいタンメンを食べ終えたところで、彼女のレンガ色のムートンジャケットとデニムのパンタロンが冬空に映えてよく似合っていました。  前日の夜アメリカがイラクを空爆し、戦争が始まったのです。Uちゃんは「ミサイル撃つときのコンピューター映像見た?」と

横浜ドリームランド②

神奈川県横浜市戸塚区俣野町字沖原700番地 2002.2.17  私たち猫キャットは、どこか無自覚に狂気のようなものを漂わせている夢の国に到着し、長蛇の列にうんざりしながら小雨の降りしきる園内を徘徊していました。横浜ドリームランド最終日。パレードの音や子供たちの叫び声が絶え間なしに聞こえてきます。  ひと気のない場所を二人で渡り歩くようにして、その最期の姿をカメラに収めていったのでした。 トップスピン 巨大なうす紫いろの重機のような乗物に ラズベリー色のライトが幻想

ゴミを部屋に置いたまま忘れてしまうと土に還ってしまい、何を拾ったのかわからなくなってしまいます ①

 2001年9月のある日の午後、K子と私はお互いの家の中間地点にある二子玉川で待ち合わせをしました。当時は数ヶ月に一度は会っていたのです。  私たちはその5年前に美大を卒業しています。事故や病気、いわゆる破談、家族の介護に追われながら、やりたくもない仕事をしながら、21世紀の30歳になったばかりの私たち。  2001年9月のあの日、私たちは途方に暮れていました。  二子玉川はかつて「ふたこたまがわえん」という駅名で、日本で2番目か3番目に古い遊園地があり、亡き母からも「す

はじめまして、猫キャットです。

 私たちふたりは遅刻常習者です。1991年から活動しています。同じ美術大学の彫刻科とデザイン科を卒業しました。  私たちはいつも遅刻をするのですが、遅刻の理由はたいてい探しものをしているからです。寄り道やまわり道をしていると目に止まる、世の中から忘れられて消えてしまいそうな場所やもの。それに気がつくと、やはり時間に埋もれてしまいそうな服を着て写真を撮りたくなってしまう。それは私たちが、完全に世の中から忘れられ、置き去りにされる一歩手前の状態から立ち昇ってくる、高揚感と孤独感