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遅刻をくり返したあとの世界 another side

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『遅刻をくり返した後の世界』は1990年代から2000年代にかけて 「猫キャット」が撮りだめたすでに無くなってしまった場所のガイドブック。 世界一身近なゴミの中で宝探しを続けてき…
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2021年1月の記事一覧

ゴミを部屋に置いたまま忘れてしまうと土に還ってしまい、何を拾ったのかわからなくなってしまいます ②

 新宿の雑居ビルにある美術予備校が、ライブハウスと似ていたのは、どちらにも同じような人たちが出入りしていたからでしょう。みんなして底の厚いドタ靴を履いているので、誰かがパネルを持って部屋から出たり、のり弁や練り消しゴムを買いに階段をのぼり降りするたびに大きな音がしていました。浪人生がいるおかげでどの階にも灰皿があり、やたらと蹴飛ばすからか、いつも吸い殻の匂いがしました。  擦り切れたジャンパーに大きな裂け目の入ったジーンズを履き、くわえタバコで絵を見つめる男、油絵の具とシミ

ゴミを部屋に置いたまま忘れてしまうと土に還ってしまい、何を拾ったのかわからなくなってしまいます ①

 2001年9月のある日の午後、K子と私はお互いの家の中間地点にある二子玉川で待ち合わせをしました。当時は数ヶ月に一度は会っていたのです。  私たちはその5年前に美大を卒業しています。事故や病気、いわゆる破談、家族の介護に追われながら、やりたくもない仕事をしながら、21世紀の30歳になったばかりの私たち。  2001年9月のあの日、私たちは途方に暮れていました。  二子玉川はかつて「ふたこたまがわえん」という駅名で、日本で2番目か3番目に古い遊園地があり、亡き母からも「す

はじめまして、猫キャットです。

 私たちふたりは遅刻常習者です。1991年から活動しています。同じ美術大学の彫刻科とデザイン科を卒業しました。  私たちはいつも遅刻をするのですが、遅刻の理由はたいてい探しものをしているからです。寄り道やまわり道をしていると目に止まる、世の中から忘れられて消えてしまいそうな場所やもの。それに気がつくと、やはり時間に埋もれてしまいそうな服を着て写真を撮りたくなってしまう。それは私たちが、完全に世の中から忘れられ、置き去りにされる一歩手前の状態から立ち昇ってくる、高揚感と孤独感