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クトゥルフ神話TRPGシナリオ『笑う亡霊』

■ シナリオ概要

 ある冬の休日のこと、探索者たちはとある山中の温泉地へ旅行に向かうことになりました。ちなみに鱒料理が有名な秘湯です。
 さてさて、どんな旅行になることでしょうか

戦闘あり。
推奨技能は野外系技能、日本語、戦闘技能です。

※季節は冬となっていますが、プレイする時期に合わせて内容を変更してください。

※KPは最初に、この旅行に自動車を利用して向かうか、それとも電車を利用して近隣の駅からマイクロバスで向かうか尋ねます。自動車の場合はPCの共通の友人として運転手役のNPCが同伴することになります。また、探索者同士が顔見知りでない場合、移動手段は強制的にマイクロバスとなります。

KPの手引き
このシナリオは一部ジャパニーズホラーテイストのシナリオになっています。
神話生物の正体や名前を安易に明かさないよう注意を払い、探索者が神話生物を見たとしても怪談のような間接的な恐怖描写を行うとそれらしく楽しめるのではないでしょうか。

■ 事件の真相

 太平洋戦争時代、舞台となるトンネルがある山に旧日本軍の本土決戦用の地下壕が築かれました。
 この地下壕建設および管理を任された部隊長の加東は神道による世界支配を標榜する軍閥に属しており、米兵から御国を守るための戦力として日本書紀に記された悪しき星神アマツミカボシの軍勢を召喚しようと地下壕内に社まで建設させて招来の儀式を行いました。
 また加東は地下壕を上部の命令どおりに守るため暗闇に立てこもっているうちにさらなる狂気に支配されてしまい、自らも含め部隊の隊員たちにヨモツヘグイと呼ばれる儀式を施します。この忌わしき行為により地下壕の生き残り全員が食屍鬼となり、地下壕はこの世ならぬものの棲家となり果ててしまいます。正気も記憶も失い、地下世界の住人となり果てた彼らを満たすのは食欲だけです。
 時が過ぎ、トンネルが作られたことで彼らの食料確保は断然はかどるようになりました。なによりかつて儀式によって呼ばれた星の精は、いまだに社を巣として活動しており、主である加東の願いに従って行動しています。
星の精は人々を殺し攫っては、食屍鬼たちに食料として与えているのです!
(肝心の加東は儀式のことなどすっかり忘れてしまい、星の精の存在におびえていますが)

 以上の事実が「日本軍の軍人を見た」「女の笑い声を聞いた」「幽霊を見た」「肝試しで人が消えた」など心霊スポットとしてこのトンネルを有名にしたのです。

■ シーン1.導入

 山中の目的地に向かう車内、通常であれば有料道路を使用すれば早いのですがこの日は落盤事故で通行止めとなっており、運転手は下道を使うことをPCたちに伝えインターチェンジを降ります。
 すでに時間は夜半過ぎとなっており、車は対向車も民家の明かりも見えない、オレンジ色の道路灯だけが照らす山中の道路を走っていきます。
 このとき車内で何をしているかKPは尋ねて下さい。窓の外を眺めるといったPCがいた場合、目星判定を行わせます。

ライトに照らされ、一瞬もやのような奇妙な赤い影が見えた。
車はあっという間に通り過ぎ、後ろを向いて目を凝らしても、
もはや闇しか見えない--。

※ SANチェックはしてもしなくても構いません。(行う場合は0/1程度)
 やがて車は旧道に入り、やがて道路灯すらなくなった真っ暗な旧道を進んでいきます。
 そして、山肌にぽっかりと口を開けたとあるトンネルに差し掛かります。
二車線ですが道幅は車同士がぎりぎりすれ違える幅といった程度、全長2kmほどのトンネルです。
 ここで〈知識〉または〈オカルト〉で判定を行います。この判定に成功した探索者は、このトンネルが有名な心霊スポットであることを思い出します。女の幽霊が出るとか旧日本軍の軍人が行進していたとか、そのようなありがちな内容です。

※ 具体的な例として「ハンドアウト/トンネルの怪談」をPLに提示して下さい。
 さて、トンネルのちょうど中ほどまで進んだところで、車が突然停車してしまいます。
 運転手が率先して降りて調べますが、原因はわかりません。
 探索者が調べるのを手伝った場合、外観に異常はないため電子部品のトラブルかもしれないといったことがわかります。
 また部品をチェックしている最中、パーツについていたねっとりとした何か粘液状のものが指に触れます。

 山中奥深く、しかもトンネル内ということもあり携帯電話の電波は一切届きません。
 そのため運転手は

「トンネルの外なら携帯も通じると思うので、そこで迎えを呼びます。いったん歩いて出ましょう」

と全員に呼びかけます。
 車外に出た場合、任意の探索者(もしくは全員)の頭にぽたぽたと何か雨のようなものが降りかかります。が、触れば、ただの水であることがわかります。天井を見ると、コンクリートがひび割れてそこから結構な量の水が漏れ出しています。

 ここで天井を見上げた探索者全員に対して〈アイデア〉判定を行わせて下さい。
 成功した場合次のことに気がつきます。

天井からたれ落ちる雨のような水が、空中の一部を避けるように降っているように見える。
まるで、そこになにかがいるかのように

 失敗した場合でも、なにかとても嫌な予感がします。

 運転手は異常にはまったく気がつかないようで、離れたところから探索者たちに声をかけてきます

「どうしたんですかみなさん、早く行きましょう――」

 次の瞬間、運転手の首がころりと道路の上に落ちます。

※ なお同行を拒否した場合、運転手の最期を車内で目撃することになります。 その直後、窓が派手に割れる、車体が見えない力で叩かれて揺れるといった恐怖描写でPCたちを車外へ追い出しましょう。

■ シーン2.見えない襲撃者

 いともたやすく首が転げ落ちたあと、立ち尽くしたままの運転手の身体から、噴水のように血が吹き上がります。

 この信じがたく凄惨な光景を目撃してしまった探索者は、1/1d4の正気度判定を行って下さい。

また目星判定を行います。成功した場合、以下のようなものを目撃します。

噴き出した血しぶきの向こう側、探索者にはかすかに見えた――血まみれの女の顔か口のような、なにかが。

再び0/1d5の正気度判定を行ってください。

 このとき運転手の下へ近寄ったりした場合、見えない襲撃者の正体である「星の精」の攻撃を受けます。
星の精はこの場では吸血は絶対に行わず、かぎづめで邪魔者を振り払うように攻撃してきます。

※ 吸血を行わないのは最後まで星の精の正体を明かさないための措置です。(おそらく獲物を巣に持ち帰って楽しむタイプなのでしょう)(おそらく獲物を巣に持ち帰って楽しむタイプなのでしょう

※ かぎづめの一撃でも探索者が死ぬ可能性は十分高いため、〈アイデア〉成功で回避のチャンスを与える、dbを乗せないなどの調整を行ってください。

 クスクスという女のような笑い声がトンネル内に響きます。
この段階になれば、さすがに逃げるはずです。
入口側、出口側、どちらに逃げるとしても100mほど先に非常口の明かりと頑丈な鉄扉を発見します。

 非常口に逃げ込まずにトンネルの外に向かおうとした場合はここで星の精に追いつかれ、戦闘が発生します。(その場合、戦闘中でも非常口に逃げ込めるようにすることをお勧めします)

■ シーン3.非常口→退避坑

 非常口の内側は通路が続いています。
コンクリート打ちっぱなしで、すこしカビ臭いです。残念なことに明かりはありません。(備え付けの非常用懐中電灯程度は探せば見つかるかもしれません。)
 また、ここは外に通じているであろう退避坑になっており、人ひとり通れる程度の広さの通路になっています。
 ここは一本道で、方向的にはさきほどのトンネルに沿って出口側に向かっているようです。
 通路を300mほど進むと、足元にコンクリートの塊がいくつか転がっています。周囲を照らして確認すれば人が一人通れるほどの穴が山側の壁にぽっかりと開いています。通路にある残骸から、壁が山側から向かって崩されていることがわかります。

 ここで聞き耳判定を行ってください。
成功した場合はシーシーと耳障りな何者かの息遣いが聞こえます。
さらにそのあと、ブツブツとつぶやく声が聞こえます。
「……シシ……あたらし……ニ……だよ……」

 通り過ぎたり、無視したりしようとした場合、今度ははっきりと、穴の中からしゃがれたような声で呼びかけられます。
「こっちだ……こっちだよ……旦那方……」

 穴をのぞいた場合、暗闇にぎらぎらと光る二つの瞳が見えます。その瞳の主が、声をかけているのです。

さらに無視して(もしくは逃げようと)先に進んだ場合、後ろから声が聞こえます。
「そっち危ない……オバケの餌食よ……シシシ」

 忠告を無視して先に進んだ場合、トンネルの出口が見えた時点で、不気味なほど生暖かい風とともに濃厚な血の匂いが出口の方向からただよってきます。出口には星の精が待ち構えており、進んだ場合戦闘が発生します。ここを犠牲なしに通り抜けることは不可能でしょう。

■ シーン4.坑道

 穴の中は狭く乱雑に掘られた岩肌あらわな坑道のようになっています。大柄な人物であれば、屈まなければならないほどです。

 声の主がすぐそこにいます。照らせばわかりますが、ぼろ布をマントのようにして頭と顔を隠したせむしの男です
 よく観察するなら目星判定を行わせて下さい。

 目星に成功した場合、せむし男がぼろぼろの作業服のような服装で、さらに裸足であることに気づきます。さらに、手の先はかぎづめのように鋭く尖り、足は異常に膨れてひづめのように割れています。

 明らかに人ではないことが一目でわかるでしょう。このことに気づいてしまった探索者は、0/1d3の正気度判定を行ってください。また、このせむし男が玉石の首飾りのようなものをしていることに気づきます。

 さて、このせむし男はすでに正気を失っており、自分がなぜここにいるのか、いったい自分が何者なのかはまったく理解していません。名を尋ねれば「わし……? なまえ……? なまえはカトよ」と答えます。

彼の忠告を聞いた探索者たちに出口を教えてくれるといい、先導してぴょんぴょんと歩き始めます。

「シシシ……わし、しみつの出口知ってるね……」
「しみつ? ひみつ? わしらだけのでぐちね」

■ シーン5.分かれ道

 粗雑に掘られた横穴を進んでいくと、もう少し広い坑道に出ます。

 そこからさらにしばらく進むと、行く手の道が左右に分かれています。右の道は整備されたかのように広く、左の道は先ほどの横穴のように細く狭くなっています。

「なぞなぞだよ、旦那方はどっちが出口だと思うね?」

 探索者たちの答えはともかく、せむし男は右が出口だといい、早く進むよう急かします。
 左に何があるか問われた場合は、以下のように答えます。
「わしらのおうちがあるね。きたなくてくさい、いやなところよ」

 ここで心理学判定を行い、成功した場合、彼が嘘は言っていないが隠し事をしていることがわかります。

 急かしても探索者たちが進まなかったり、左に進むと言った場合、「旦那たちはバカね!もう置いていくよ!」と悪態をつきながらぴょんぴょん跳ねながら暗闇に消えていきます。
 右ルートに進む場合は 「シーン6.右ルートに進む」~「シーン8.右ルートの出口」を、左ルートに進む場合は「シーン9.左ルートに進む」~「シーン11.食屍鬼たちとの対決」を参照して下さい。

■ シーン6.右ルートに進む

(1) 軍施設
右の道を進むと、一部がコンクリートで補強された通路に出ます。
年代を調べた場合、半世紀以上前に作られたものだとわかります。
数台のサビついた戦車もおかれています。
(時間をかけて機械修理を行えば、一台くらいなら動かすことは可能かもしれません
その場合戦車砲の威力は4d6+3として下さい)

また、いくつかの部屋が見つかり木箱が置かれています。
そのうち士官の部屋だったらしき部屋もあります。
部屋数と以下のアイテムが見つかる可能性があります。
状況に応じて任意で配置(もしくは一括で見つけられるなど)KPが自由に決めて構いません。


アイテム名/数/解説
士官の手記/1冊/内容は「ハンドアウト/士官の手記」を参照
つるはし/1d6本/	データは「手斧」
シャベル/1d6本/	データは「大きい棍棒」
拳銃/1d3個/	データは「32口径オートマチック」
99式小銃/※KP任意/データは「30-06口径ボルトアクションライフル」
信号ピストル(フレアガン)/1丁/ルルブ掲載
ダイナマイト/※KP任意/ルルブ掲載
テントの切れ端/※KP任意/装甲1 ※マントとして重ね着可能
旧日本軍の軍服/2d4着/装甲1
ガスマスク/1個/臭気によるペナルティ無効化
ザイル/1セット/登攀ボーナス
ロープ/100mぶん/登攀ボーナス
地図/1枚/地下壕の地図。出口が記されている。	×1
オイルランタン/1d6個/ただの照明。	
携行型紫外線照射灯/1個/透明な状態の星の精の輪郭をわずかに捉えることが出来る。
            星の精が透明時のペナルティを命中率2/3に変更

(2) 朽ちた社
軍施設からさらに先を進むと、やがて月明かりと思われる光に照らされたホールのような部屋が見えてきます。
このことは探索者たちに希望を与えるかもしれませんがそれよりも吐き気を催すほどのひどい臭気が部屋の中から漂ってきています。
口を布で覆えばかろうじて我慢できますが、0/1D3の正気度チェックを行います。

以後、このエリアでの行動時に両手が塞がって口元を覆えない場合は、あらゆる判定に-10%のペナルティを受けます。

すりばち状の岩肌は苔むし、まるで体液のように水が染み出して足元に流れ込んでいるため地面は20センチほどの高さまで水がたまっており、半ば池のようになっています。
天井はなく大きく口をあけ、天蓋のように生い茂った木々の合間から月光が降り注いでいます。
中央には丸太の鳥居と、朽ち果てて今にも崩れおちそうな社があります。

周りをよくみれば、朽ちたものから真新しいものまで多くの動物や人間のねじれた死体が無造作に積まれています。

この光景を目撃した探索者は0/1d6の正気度判定を行って下さい。

また、地図にはここが出口とありますがそれらしき場所は落石に覆われ、
いまでは折れた丸太の杭が埋もれているだけです。
目星判定に成功すれば、この出口が内部から爆破されたようにも見えます。
ただしそれは数十年前のことだろうとも推測できます。

社を調査した場合、以下のものが見つかります。

アイテム名/解説
古文書/
タイトル不明。
今にも崩れそうなほどぼろぼろの巻物で外装は完全に痛んでいる。
見た目のとおり保存状態は非常に悪く
地獄絵図のごとき冒涜的な戯画や儀式に関する項目がかろうじて読み取れる程度である。
その他は、おそらく日本古来の神について書かれているものであろうということはわかる。
日本語技能に成功で以下の呪文を解読可能。
儀式に必要な品物はこの場所に揃っており、月が頭上に見えるときに読み上げるだけで使用が可能である。
 ・アマツミカホシの軍勢の招来/従属
  ※ 星の精の招来/従属と同一。
 ・アマツミカホシの招来
  ※ アマツミカホシの正体は特に定めていない。
  ※ なんらかの神格に相当する存在が現れるのは間違いない。
  ※ (正気度判定1d20/1d100)
  ※ 見た目は天を覆うほど巨大な星の精かもしれない。
この古文書は魔道書として扱う。1/1D4の正気度判定を行うこと。
社から持ち出そうとした時点で崩れ去る。

大太刀/
反りのない大太刀と呼ばれる品物である。
〈博物学〉〈歴史〉〈芸術〉などの判定で、鎌倉~室町期の品であることが鑑定できる。
飾りのない鞘に収められた刀身は不思議なことに錆びひとつない。
古文書に記された儀式に必要なアイテムである。

銅鏡/
同じく儀式に必要なアイテム。
星の精に反応し鏡面が光るなどのギミックがあってもよい。

神酒/
白磁の壷に入った酒。飲めば見えざるものが見えるようになる酒。
吐き気を催すような味のため、飲んだ場合1/1D2の正気度チェックを行うこと。
すぐにめまいのような症状が現れ、その後視界のすべてが常に醜くゆがんで見えるようになる。
ただの幽霊から星の精や空鬼などといった不可視の存在までが見えるようになる。
ただし神話生物のヴェールに隠された真の姿が見えるようになるため、以後の正気度喪失は二倍となる。
なお、この効果は永続的なもので失われることはない。

■ シーン7.星の精との対決

「オバケ! オバケ! ここオバケの巣! シシシ、おまえらオバケの餌食よ! そのあとはわしらのニクね!」
調査が終わるか、出口がないことを問い詰めるかするとグールは崖を跳ね上がり姿を消します。
その際、せむし男の口元を覆っていたマントが外れ、獣じみた面貌があらわになります。

0/1d6の正気度チェックを行って下さい。

その直後、凄まじい悪寒とともに透明な何かが落下してきたように水しぶきが激しく跳ね上がり、見えない襲撃者(星の精)が訪れたことを伝え戦闘開始となります。

※ このエリアでは星の精に吸血を行わせて構いません。 また、星の精は銃撃ダメージ半減という特徴を持っているため、 信号銃やダイナマイトなどの爆発物による撃破が必須と思われます。(あまり武器を出しすぎて瞬殺されないように気をつけて下さい)

また、戦闘中たびたび小さな地震のような揺れを感じます。

■ 8.右ルートの出口

星の精を倒すことができれば「登攀で壁を上って脱出する」「出口をダイナマイトで爆破する」
といった方法で脱出可能です。
救済措置としてSize10の抵抗ロール成功で通り抜けることが出来る「狭い穴」が幸運判定成功で見つかるなどでも構いません。

■ シーン9.左ルートに進む

(1)険しい道のり
ほとんど狭い隙間といった感じの穴を横になったり縦になったりしながら進んでいくことになります。
状況に応じて以下の判定を行って下さい。(省略しても構いません)

・地底湖 闇が溶け込んだような真っ暗な水面が行く手をさえぎる。
     渡るには水泳判定を成功させなければならない。失敗した場合は窒息が発生する。
・崖下り 高さは5m。DEX×5倍の判定を行う。失敗した場合は落下する。(跳躍判定成功でダメージ減少)
・壁登り 高さは5m。登攀判定を一回行う。
     跳躍判定を行い、成功した場合はうまく途中の突起をつかめたということで登攀ボーナスを与えてもよい。
・蟻の巣穴 複数の横穴がいくつも空いている。(これは食屍鬼たちが掘ったもの)
     ナビゲート判定に成功するまで抜けることが出来ない。
     ここでは食屍鬼に襲われるかもしれない。

(2) 軍施設
狭い穴を抜けると一部がコンクリートで補強された通路に出ます。
年代を調べた場合、半世紀以上前に作られたものだとわかります。
また、ほら穴といった感じの部屋がいくつかあります。

部屋にも通路にもごみの山がそこらじゅうにあり、ぼろきれや草が積まれた粗末な寝床も複数見つかります。
以上のことから、ここにせむし男とその仲間が暮らしているだろうことが推測できます。
※ 食屍鬼たちの住処になっています。

ごみの山は有用なアイテムが手に入るかもしれませんし、食屍鬼たちの食べ残しの人体が見つかるかもしれません。

また、いくつかの部屋が見つかります。

・木箱の部屋
 1.5mほどの大きさの木箱が乱雑に詰まれています。
 木箱には旧日本軍の軍服や99式小銃が詰められていますが状態が悪く、殆ど使い物になりません。
 (KPが望むならば、使用可能なものが手に入ることにしても構いません)
 木箱の底には下士官の手記が隠されています。
 内容は「ハンドアウト/下士官の手記」を参照
・工具部屋
 大半がごみの山に覆われていますが、一部折りたたまれたテントや工具といったものが見られます。
 どれも相当古そうです。
 ここではシャベルやつるはし、テントの切れ端、その他のちょっとした工具などが見つかります。
・その他の部屋
 せむし男の仲間が入り口に背を向けて眠っています。
 不用意に行動すれば、この食屍鬼を起こしてしまうかもしれません。

■ シーン10.左ルートの出口

出口を発見した時点で、聞き耳×2の判定を行います。
成功した場合、シーシーと耳障りな何者かの息遣いが複数聞こえます。
それと、穴を這いずり回るようなかすかな足音も。
これはせむし男の仲間――食屍鬼たちがこちらに向かっている音です。
探索者たちの匂いを嗅ぎ付けてやってきたのでしょう。
姿を現すまではほんの猶予しかないことを探索者たちに伝えて下さい。

失敗した場合は食屍鬼たちの奇襲を受けることになります。
食屍鬼たちはKPが必要と考える数だけ現れます。

その男が口の覆いを取ると耳元まで裂けた異様な口が見えた。
そいつがいやらしい笑みを浮かべると涎にまみれた乱杭歯がむきだしになり
獣を思わせる面貌が明らかになる――それはすでに人間のものではなかった!

遭遇時に0/1d6の正気度判定が発生します。

※ 十分に戦闘できる探索者が揃っているのであれば、探索者たちと同数か、1.5倍くらいの数でもあっさりと片付くでしょう。
※ 難易度を上げたい場合はさらに数を増やすか、武装やデータを強化した個体を数体用意することをお勧めします。

戦闘中に出口から逃げようとする場合、Size10の抵抗ロールに成功する必要があります。
失敗した場合は体がつかえてしまい、次のラウンドに再度抵抗ロールに成功するか、ほかの人から押してもらう(STR10の抵抗ロール)に成功するまで
身動きをとることが出来ません。

また、戦闘中たびたび小さな地震のような揺れを感じます。

■ 結末

探索者たちが坑道を脱出しようとしたとき、さらに大きな地震が起こります。
危機感を煽るため、落石を起こして回避や幸運での判定をさせてもよいでしょう。

(1) 脱出
探索者が無事脱出したあと、激しい揺れとともに坑道に繋がる穴が崩れ落ちます。
こうして坑道は謎に包まれたまま、世間に暴かれることなく埋もれてしまいます。

その後、探索者たちは近くを通りがかった車に助けられます。
運転手の死体は見つからず、探索者たちの証言にも関わらず失踪として扱われます。

(2) 脱出できなかった場合
携帯の電池も切れ、暗闇に閉ざされます。
やがて暗闇の四方から、あのシーシーという薄気味悪い息遣いが近づいてきます。
探索者が食屍鬼の仲間と成り果てて生きるのか、それともただの食料となるかは……定かではありません。

■ ハンドアウト/トンネルの怪談

―ある男の体験談―

ある男Aが仲のよい友人の男B、Bの彼女のC子とで肝試しに行こうという話になり、心霊スポットと噂のあるトンネルに車で向かった。

トンネルに入って中ほどのところで車のエンジンがかからなくなってしまう。

仕方ないのでトンネルの外まで男二人が車を後ろから押すことになり
C子は運転席に残り、ハンドルを握っていることになった。
それから一時間ほどかけて、やっとの思いでトンネルの外に車を運び出すことができた。

しかしおかしなことに男らが車を押している間じゅうずっと、運転席のC子は独りでクスクスと笑っていた。

真っ暗な車内でなにがそんなにおかしいのか。

「おい、何がそんなにおかしいんだよ」

馬鹿にされていると思ったAはつい声を荒げる。

待ってみてもC子の返事はない。
それどころか、今度は馬鹿みたいな高笑いをはじめた。

ケタケタ、ケタケタ。

ケタケタ、ケタケタ、ケタケタケタ。

Aはいつまでも笑いをやめないC子に心底むかついて、彼女を引きずりおろしてやろうと運転席に行こうとするが真っ青な顔をしたBに腕をつかまれ、止められた。

「ギャハハハッハハハッハハハ ギャハハッハハッハハハハハハ」

その間も、C子の笑い声はますます酷く、すでに哄笑のようになっており、
車外どころかトンネルにまで響いていた。

このときになってやっとAは事態の異常さが理解できた。

なぜかって?

そのときちょうど、Aの位置から車内のミラーが見えたのだ。鏡には、運転席のC子の顔が映っていた。

Aが笑っていると思っていたC子の口は、ぴくりとも動いていなかった。
C子はまるで死人みたいな真っ白い顔をして、ただ俯いているだけだったのだ。

じゃあいったい、この笑い声は誰のものなんだ?

「うわぁぁぁぁぁっ」

AとBは示し合わせたように叫び声をあげ、その場から逃げ出した。

とにかく道路脇の林道をめくらめっぽうに走って、やっと落ち着いたあと二人は重い口を開いた。
「……なあ、見たか」
「ああ。C子のやつ――」
「違う、そっちじゃない」
笑ってなんてなかったとAが言おうとしたとき、Bが声を荒げて怒鳴った。

……Aからはミラーには運転席しか見えなかったが、彼の位置からは運転席だけでなく、助手席も映って見えたという。

Bがいうには、助手席に座っていたんだそうだ。

髪も肌もなにもかも、血まみれの真っ赤な女が。

■ ハンドアウト/士官の日記

旧日本軍の士官が残した手記のようです。
表には「帝国陸軍中尉 加東」と書かれています。

×月×日 
地下壕建設に着任す。
鬼畜米英を撃破し、神道による世界支配を進めんがため
我らが軍閥の首魁より秘密の任務ありきや。
貴重な古文書、祭器の類を幾多も拝領す。

×月×日
儀式のための社完成す。
吾がアマツミカボシの軍勢を現世に顕現せしめ、地下壕にて無敵の軍団を結成せねばこの戦争には勝利出来ぬであろう。

×月×日
古文書の通り儀式を執り行う。
3体のアマツミカボシの軍勢を呼び出すことに成功す。
しかし2体が暴れ回り、制圧するも犠牲者多数。
古文書に記されていた通り、透明で幽霊のごとき存在であったため梃子摺るが、最新の紫外線照射機でその影をわずかに捉えることが出来た。
結果、吾の望み通り操ることができたのは一体のみであった。
軍勢と呼ぶには程遠い。さらなる量産のため、研究を重ねねばなるまい。
以後、星の精と呼ぶこととす。

×月×日
星の精は血を啜ることでその姿を現す。
部下の一人が恐慌に駆られたため、実験のための人柱となってもらった。

×月×日 
戦況不明。

×月×日 
補給が届かず。米兵による進入を防ぐため、主要入り口を爆破する。

×月×日 
いよいよ決心せねばなるまい。
我護国の鬼と成らん為、我が部隊の同胞らを屈強なる無敵の兵士をせしめんがため
ヨモツヘグイの儀式を行うこととす。
餓鬼のごとき存在と成り果てたとしても、我が国を守らねばならない。

×月×日 肉がくいたい。

日記はここで途絶えている。

■ ハンドアウト/下士官の日記

×月×日 
本土決戦に備え、上層部の命令で地下壕を建設する。
また、同時に地下壕防衛のための待機命令を受ける。
我々は皇国を守るために選ばれたのだ。

×月×日 
戦況不明。

×月×日 
補給が届かなくなる。

×月×日 
食料が尽きる。外はどうなっているのだ?
すでにわが国は米兵の手に落ちているのではないだろうか。

×月×日 
ついに倒れるものが出る。かくなる上は外へ打って出るべきだと訴えたが却下される。

×月×日 
どこから手に入れたのか部隊長殿より奇妙な果物が全員に下賜される。
胞子状の菌類のような奇天烈な外見だが、味は肉のようでうまい。


×月×日 肉だ。うまいうまい。

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