熱血!メタバース回顧録 第一話:熱血!四畳半のメタバースの巻!!


この物語は、あらかたフィクションである。


2022年1月中旬

「オノッチ突撃―!!」

なにやらマツコ・デラックスがテレビの中で楽しそうに叫んでいる。ロボコップみてーな格好をして新技術を体験している真っ最中だ。

このロボコップみてーな何かはVRヘッドセットと言うらしい。

テレビの画面は、マツコデラックスの視点を写す。超デカいカラフルな街にて、人だの妖精だの果てはロボットだの色んなやつらが集まっている。

なんだかエネルギッシュで面白そうだ。

趣味でblenderに齧りついてた俺が、久しぶりにテレビに釘付けになった。

番組は、体験VTRが終わり「メタバース」の説明をしていた。

VRで楽しめる3D空間。特にオンラインで人とコミュニケーションを取れるものは、「メタバース」と言われるらしい。

なるほど、YoutubeとかInstagramとかはこれから全部3Dになるんだな。と突飛な考えが浮かんでしまう。

それもそのはず、何を隠そう俺はblender星からやって来たblender星人。なんでもかんでも3Dにこじつけてしまうのが悪い癖でね…。

冗談はともかく世界のどこかにはこんなに面白い事を考える人がいるんだな。そう思い、寝る準備を始めた。

それにしても「メタバース」なんだかかっこいい言葉だ。俺も明日から使ってみよう。

昨日までblenderの事でいっぱいだった俺の頭の中は、メタバース一色だった。


次の日、朝起きてからテレビの事を思い出し、家を出るときにはマツコの豪快な笑い声が頭の中で響いていた。

それからメタバースについて調べるのは速かった。新しい概念だとは思っていたが色んな記事が沢山転がっていた。インターネット恐るべしだ。

なんとなくYoutubeでもメタバースを調べてみる。「ハロークラスター」という動画を発見し、視聴開始。clusterというメタバースの情報番組らしい。司会進行は鳥人間と紫色のロボットの二人。

ハロークラスターの配信アーカイブを見進めると、コンテストを開催している事を知った。その名も「四畳半のメタバース」

どうやら賞がもらえるらしい。俺も地位と名誉が欲しい年頃だ。前向きに検討しよう。

この四畳半のメタバースコンテスト、簡単に言うと、「4.5m四方の四畳半の空間と、周りの27m四方の空間を最強にデコったワールドを作ってね!」というお祭りだ。

これくらいのサイズなら俺でも作れそうじゃないか?そんな安易な考えが浮かび、コンテストのネット記事を探す。

記事を見つけて最後まで読み終えると、締め切りは1月23日、2週間もない事が分かった。
それまでに
①     世界観を考え、
②     メタバースを作るのに必要な知識を覚えて、
③     実際に作業をする。

なるほどね。これをあと10日くらいでやるわけだ。

大きな挫折を味わった。

clusterの上空に漂っていたblender星人は、「俺にメタバースは合わなかったんだ。」そう言い残すと、大人しく母星に帰る事にした。


失意のうちにblenderでシェーダーノード遊びをする日常に戻ったある日、気分転換に「ガメラ2レギオン襲来」を見ていた。

地球の守護者ガメラが、二酸化ケイ素を主食とする宇宙怪獣レギオンと戦うという内容で、カルト的人気を誇る特撮史に残る名作だ。

小難しい話はさておき、怪獣がビルや電線などをぶっ壊しながら、人が作った街を我が物顔で練り歩く姿は見ていて気持ちがいい。

最高のエンターテイメントだ。怪獣映画を見るだけで鬱屈とした気分はすぐに晴れていく。

・・・。

気が付いたら俺は、「ガメラ3邪神覚醒」のDVDはそのままツタヤに返し、blenderで壊れた町と暴れる怪獣を作ると、4.5m四方の空間に配置した。

しかしここで手が止まってしまう。4.5m四方が埋められたはいいものの、残りの27m四方の部分が空っぽだった。

このままそういう作品です!と言って提出したくはないが、いいアイデアなど思い浮かぶはずもなく、妥協することにした。

ワールドのサムネを取ろうと、blenderのシーンの中にカメラを追加する。

カメラを移動させアングルを決める。なんだか、特撮スタジオのカメラマンみてーだ。

特撮スタジオという言葉が頭の中で反響する。F12キーを押す手が止まる。

撮影機材を作る事にした1月20日、時間との戦いが始まった。


きたる1月23日、unityと歴史的和解。アセットという便利なものがある事を知り絶望し、なんとかclusterにワールドをアップロード出来た。

20時も過ぎ、特撮スタジオ風ワールド完成だ。

ワールドに入ってみる。ローポリのロボット君を操作し、特撮スタジオを歩き回る。

ちょっとシュールな光景だったが、自分で思い描いた空間の中を、自由に歩き回れたのがとても嬉しかった。blenderだけでは到底味わえない体験に感動する。

四畳半のメタバースのレギュレーションにのっとり、Twitterのアカウントを作り、ハッシュタグを付けてツイートをする。

1月25日にコンテストの結果発表だ。それまでclusterを思う存分楽しむことにした。

二日間で本当に沢山の事を知った。別にワールドを作らなくてもclusterは遊べる事、ハロークラスターの鳥人間と紫のロボットは運営の方々である事。百聞百見は一験にしかずというやつだ。

四畳半のメタバースに応募されたワールドを中心に旅をし、それぞれのワールドの完成度に驚いた。音楽が鳴ったり、オブジェクトがアニメーションしたりだとかギミック満載だ。

ただ作っただけで「ワンチャン賞取れるかな?」と浮かれていた自分が恥ずかしくなった。

そして2日間の旅は終わり、結果発表の時がやってくる。イベントの入り方が良く分からなかったのと若干恥ずかしかったので、俺はYoutubeで見ていた。21時になり、番組が始まった。

進捗どうですか?今週の人気ワールドといったどうやらおなじみのコーナーが進み、番組も中盤、いよいよ四畳半のメタバースの賞の発表だ。

44個ものワールドが作られ、5個賞が用意されているらしい。どうやら熾烈なバトルになりそうだ。と考えていると、出展作品一覧のスライドに変わる。

こうやって見ると壮観だ。だが、すぐに一つの異変に気付く。

特撮スタジオ風ワールドの写真がない。

汗が頬を伝る。何かレギュレーション違反したか?確かにあんまり募集要項ちゃんとチェックしていなかったかも…。というかそもそもちゃんとアップロードできたっけ?

初めてやるにしては行き当たりばったり過ぎて、心当たりがいくつもあった。

そして一覧の中に特撮スタジオ風ワールドを見つけられず、そのまま賞の発表に入った。

応募すらまともにできなかった事に、過去一番のふがいなさを感じてはいたが、ここは祝いの席だ。ぐっとこらえよう。

スワンマン賞、とみね賞、s.TAHARA賞、が発表。どれも他にない発想で、完成度も高く気が付いたら拍手をしていた。あとでまた遊びに行こう。

最優秀賞の発表の前に、今回新設された新しい賞「こな賞」の発表がされる。

「こな賞こちらです!特撮スタジオ風ワールド!熱血プータローさんの作品です!」

イスから転げ落ちた。

冗談はさておき、めちゃくちゃ驚いた。どうやらblenderで全部作ったのが評価されたようだ。趣味でやっといてblender良かったな。

電車の乗り方が分からないから戦闘機に乗ってきましたと評されたが、俺からしたら他のワールドの方が戦闘機に見えた。

所謂カルチャーショックというやつだろう。

最優秀賞のワールドは凄すぎて何が何だかよく分からなかったり、クリアファイルがもらえる事を知ったり、そんなこんなで四畳半のメタバースは幕を閉じた。

どうやらclusterは、blender星人を暖かく迎え入れてくれたようだ。



その後、沢山の人が特撮スタジオ風ワールドになだれ込むようになった。

直接感想をもらえたり、中には本当に細かいところまで見て下さる人もいてこっちが驚いた。

8人くらいの人が遊びに来て、ワールドを案内をした時、みんなはしゃぎながら狭いワールドを往ったり来たりしていた。とても嬉しかった。

そこで俺はふと思った。これってもしかしてニコニコ動画2じゃないか?

動画は3DCG空間になり、流れるコメントは移動できるアバターになった。

動画の中でコメントを通じてコミュニケーションを取るというのがニコニコ動画の楽しみ方だったが、それが3DCG空間の中でアバターを通じてコミュニケーションを取るのに変わったような気がする。

clusterでの全ての体験は新しかったがどこか懐かしような気もした。空耳ミュージカル、ドナルドVSカーネルサンダース、ガチムチパンツレスリング、なんというかあの不思議な一体感を思い出す。

俺は郷愁に浸りながら、未来が広がるモニターを見つめていた。


続く・・・。



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