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誰でも使える交渉術! 『コンフリクトに対処する』

交渉にコンフリクト(衝突・葛藤)は付きものです。
しかし、コンフリクトの原因が、交渉相手ではなく、自分の中にある、と言われたらどうでしょうか?

「自分はできるだけコンフリクトが生じないように、誠実な交渉を常に心がけている。もし起こるとすれば、相手側の対応によるものだ。」

.. はい、この時点でアウトです。

実は自分の中にあるコンフリクトの原因とは、『相手に対する過剰な期待』だからです。

”過剰な”期待などしていない、と考えるのではないでしょうか?
しかし、交渉内容はこうあるべき、態度はこうあるべき、というのは実は人それぞれです。誠実な人もいますが、そうでない人も「自分は間違っていない」と考え、人から見れば不誠実な態度をとっています。その態度にNOと反応することが『過剰な期待』にとらわれていること、なのです。

このように”流動的な”「過剰な期待」は、意図せずしてコンフリクトをエスカレートさせる大きな要因となることがあります。この現象の、いくつかの心理的なメカニズムについて見ていきましょう。

1. 期待と現実のギャップ

交渉に臨む際、相手に対して「自分が提示した条件を理解してくれるはず」「この提案は合理的だから、当然同意してくれるだろう」といった期待を抱くことがあります。特に、自分の提案が慎重に準備されていたり、自分自身が強い信念を持っていたりすると、期待も大きくなります。

しかし、交渉相手にも相手の立場や事情があり、必ずしもこちらの期待通りに反応するとは限りません。こうした期待と現実のギャップが生じたとき、私たちは「なぜ理解してくれないのか」「どうしてそんな反論をするのか」といった感情を抱き、失望や苛立ちに変わることがあります。

2. 感情的反応と攻撃的態度

期待が裏切られたと感じると、私たちは感情的な反応を示すことが多くなります。「期待していたのに、裏切られた」という気持ちが、相手への攻撃的な態度や防衛的な姿勢に変わりやすくなります。これにより、相手も防御反応を示し、結果としてコンフリクトがエスカレートします。

『部下が上司に「もっと改善提案を受け入れてくれるだろう」と期待していた場合、実際に拒否されると、「この上司は全く理解がない」と感情的になり、攻撃的な言動が出やすくなります。』

3. 「期待するべきでない」というパラドックス

交渉の現場でよく言われるのが、「相手に期待を抱きすぎないこと」が重要だということです。しかし、実際には難しいことでもあります。特に、相手が信頼関係にあるパートナーや取引先の場合、「相手は自分の立場を理解してくれているはずだ」という期待が無意識に高まります。

このように、期待を抱くこと自体が自然な反応である一方で、交渉の場面では「期待をコントロールする」ことが重要なスキルとなります。

4. 現実的な期待値設定と柔軟性の必要性

期待そのものをなくすことは難しいですが、現実的な期待値を設定することで、エスカレーションを防ぐことができます。交渉では基本の概念ですが、客観的な指標を決めておくことです。

  • BATNA(Best Alternative to a Negotiated Agreement) を事前に明確にしておくことで、交渉がうまくいかなかった場合の代替案を持つことができ、心理的な安定感が得られます。

  • ZOPA(Zone of Possible Agreement) を意識して、可能性のある範囲で合意を目指すことで、期待値を過剰に設定せず、柔軟に対応できます。

5. 自己認識の重要性

交渉において、自分自身の期待を認識することが重要です。「私はこの提案を受け入れてほしいと強く期待している」ということに気づくことで、交渉中に感情的になったときに「これは自分の期待が原因かもしれない」と冷静に考えるきっかけになります。


コンフリクトのエスカレーションは、必ずしも相手の態度や行動によって引き起こされるわけではありません。私たち自身が抱く「過剰な期待」が、感情的な反応や防御的な態度を生み出し、結果として対立が激化する要因となります。これを防ぐためには、自分自身の期待に対する認識と、それをコントロールするためのスキルが重要です。

すなわち、交渉の成功は、相手の立場や考えを尊重しながらも、自分の期待を現実的に設定し、柔軟に対応できるかどうかにかかっています。

とはいえ、相手が大幅にこちらの期待値を下回ってくることもあります。
例えばこんなことはどうでしょう?

  • こちらの主張を無視して進めようとする。

  • 明らかに自分の責任であるにもかかわらず、言い訳ばかりしている

  • 「検討する」と言いながら、実際には何の行動も起こさない

  • 約束した内容を守らずに、合意事項を無視する

  • 批判ばかりで、前向きな解決策を提示しようとしない

  • 過去の発言を覆し、「そんなことは言っていない」と言い逃れをする

  • 同じ話題を繰り返し蒸し返して、進展を妨げる

相手が著しく非協力的な態度や不誠実な行動を取る場合、ほとんどの人はその相手を非難したくなるでしょうし、実際に非難されるべき行為でもあります。しかし、交渉の最終目的は感情的な勝ち負けではなく、建設的な合意や問題解決であることを考えると、たとえ相手の態度が不満足であっても、それを効率的に乗り越える方法を模索することが求められます。

このような状況では、どう対処すればよいか?
我慢したり、逆に、論破したりすることではなく、『準備する』ことが、何より優れた解決法です。

<相手の態度に対する期待値を下げる>

まず、相手がこれまでに「言い訳をする」「約束を守らない」「蒸し返す」などの態度を示している場合、それを前提として交渉を進める心構えが必要です。「今回も約束は守られないかもしれない」「今回も言い訳があるかもしれない」と、期待値を下げておくことで、自分自身の感情的な反応を抑えることができます。これは、自分の心理的な安定を保つための準備といえます。

データと証拠を活用する>

相手が「そんなことは言っていない」などと話を蒸し返す場合に備えて、交渉の記録や書面での確認を徹底することが重要です。例えば、ミーティング後に議事録を作成し、合意事項をメールで確認するなどして、相手が後から覆しにくい環境を整えます。書面で確認した内容は、相手が後から反論する際にも冷静に対処できます。

<批判や非難を避け、具体的な提案を続ける>

相手が非建設的な批判や非難ばかりしてくる場合、それに乗じて感情的に応酬するのは逆効果です。ここでは、批判には応じず、具体的な解決策や代替案を粘り強く提示し続けることがポイントです。「批判はわかりましたが、次にどう進めるかを一緒に考えましょう」といった形で、話を前に進めるように誘導します。

<ネガティブな反応を予測し、それに対応するBATNAを準備する>

相手が不誠実な態度を取る可能性がある場合は、事前に代替案(BATNA)を用意しておくとよいでしょう。たとえば、相手が約束を守らなかった場合の具体的な次のステップをあらかじめ設定しておくことで、交渉が行き詰まった際にも冷静に次の行動に移ることができます。

  • 「事実関係を精査した上で、次の段階に移りましょう。」

  • 「今後は、お互いの約束事項についてのアクションと期限、責任者を具体的に書面で取り交わしましょう。」

<感情のコントロールと、適切なフィードバック>
相手の言動に腹が立つのは当然ですが、感情的な反応は交渉を悪化させるリスクがあります。どんな理不尽な態度をされても、それは相手に対する自分の『過剰な期待』であると考えれば少しは冷静になれると思います。そして、自分が冷静でいることで、相手にプレッシャーを与え、態度を改めさせる可能性もあります。

また、相手が不誠実な態度を取る場合でも、直接的に非難するのではなく、フィードバックの形で相手に伝えることが有効です。例えば:

  • 「先ほどお話しされた内容ですが、これまでに確認したこととは異なります。この点について整理したいと思います。」

  • 「以前、こちらの提案に対して同意いただけたかと思いますが、その後の行動に矛盾があるように感じます。この点を明確にするために再度確認したいです。」


このような厄介な相手との交渉では、『期待値を下げる』ことが重要な戦術となります。ただし、これは「何も期待しない」という意味ではなく、相手が不誠実である可能性を見越して準備することを指します。その上で、記録を残し、冷静さを保ち、具体的な代替案を準備することで、効率的かつ効果的に交渉を進めることが可能となります。

結果的に、相手がどのような態度を取っても、自分の準備と対応次第で、交渉の成果を最大限に引き出すことができます。

交渉の全てのプロセスにおいて共通することは『準備』です。
ドラマのイメージにあるような、その場で論破するようなことは、「交渉を大袈裟に表現したもの」、ですらありません。それどころか、本来の交渉とは全く関係がありません。交渉とは全て、いかに『準備』をするか、なのです。






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