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格ゲー挫折おじから捧ぐ

「なんでこれ避けられないの?」
「なんでこのコンボできないの?」
「今日始めた俺のほうが上手いじゃんw」

10余年前、ゲーセンでレバーを握りしめていた私は、仲が良かった友人にそんな言葉を浴びせられながら、筐体の向こうの見知らぬ相手と、あるいは友人(だったはずの何か)と、必死に戦っていた。

はじめに

この話は、今の時代に格闘ゲーム、ひいてはGGSTに初めて触れる方々に向けた、
ある一人のゲーマーおじの回顧録である。

この企画の趣旨上、「初心者にはこれがオススメ!」とすっぱり言ってしまえればいいのだが、残念ながら私はそんなことを言えるほどの実力もなければ、自分の考えを正しいと信じ疑わないある種の純粋さもない。
退屈かもしれないが、少しだけお時間をいただきたい。

格ゲーとの出会い

人生で初めて「格闘ゲーム」というものを知ったのは、中学生の頃、高田馬場のBIG BOXに並んでいた数えきれない筐体を見たときだった。
「このゲームの機体はなんだ」「家以外の場所で、こんな色々なゲームがあるのか」「でも、この棒とボタンでどう遊ぶのだろう」
中学1年生にして立派なコミュ障となっていた私でも、ゲームに対する好奇心は人一倍だった。

手近にあった一つの筐体を選び、おっかなびっくり100円玉を投入すると、たくさんのキャラクターの選択画面が出てきた。どうやらこの中から一人選ぶらしい。
一人ひとり見た末、選んだのは青と白の服を纏った、金髪の髪の長い女性キャラだった。
理由は単純で、「一番綺麗だな」と、そう思ったからだ。

触ってみて厨二病心に火をつけたのは、どうやらこのキャラクターは髪を武器にして戦うということらしい、と知った瞬間である。その設定と美貌に心奪われた私は、気付けば学校帰りや、あるいは家族と出掛けた先で見かけたゲームセンターにそのゲームを見つけたとき、ちょこちょこ触るようになっていた。

と言っても、そのゲームはそう長くは続かなかった。理由は単純で、「技の出し方が終ぞ分からなかった」からだ。
筐体についている簡単なコマンド解説の意味が分からず、ボタンを連打すると髪で刺しまくる技が出ることしか理解できなかった私は、コンピューター相手に敗れ、100円が吸い込まれ続けることを受け止めきれなかった。

そのゲームが「Guilty Gear XX」という名前であったこと、そして動かしていたキャラクターが「ミリア=レイジ」という名前であったことは、離れたあとに知ったことである。

MELTY BLOODとの出会い、挫折

それから年月が経ち、私は中学3年生となった。当時中高一貫の男子校に通っていた私にとって、中学3年生とは「放課後のすべてを遊びに費やせる時期」にほかならない。

陰キャにくわえ立派な二次元オタクと化していた私は、同じくオタクの友人と一緒に放課後の時間のすべてを使い遊び回る日々を送っていた。
その中で皆が目をつけたのが、当時稼働していた「MELTY BLOOD」である。
友人の兄のツテを使ってTYPE-MOONの作品を一通り履修していた私たちは、そのキャラたちが登場するメルブラにのめり込むことになる。
(色々と年齢に矛盾は生じるが、まぁお許しいただきたい)

ところが、ここで思わぬことが起きる。
私だけ、ちっともうまくならないのである。

当時、私は「ネロ・カオス」というキャラを使っていた。様々な設置技を駆使し、セットプレイで相手を型に嵌めていく「わからん殺し」系キャラだ。
上手い人が使えば正しく要塞と化すが、その大きな図体のせいで攻め込まれると弱く、切り返し手段にも乏しいため、中級者帯以上では一転してハメられがちになるという、玄人向けのキャラでもある。

初めて触った格ゲーでミリアを選んだ私が、中田譲治ボイスのゴリゴリのおじキャラを選んだ理由は今でも思い出せないが、とにかく友人たちの上手くなるスピードについていけなかった。

今思えば、ろくにネットもない環境だったからこそ、目の前の筐体から自発的に学ぼうという意志がある者が上手くなり、そうでない者はガチャプレイで終わってしまう。残念ながら私は後者の人間だった。

そうなると何が起こるか。
悲しいかな、かつて友人だったはずのグループが、私を煽り、見下しはじめるのである。
冒頭のように言われることもあれば、「ネロ簡単じゃんw」と今日初めて触ったはずの友人が私よりうまくネロを扱い、同キャラで私を完膚無きまでに叩きのめすということまで起きた。

楽しく始めたはずの格ゲーが、いつしかグループの中での優劣を決める、息苦しいものになっていった。
当然私の地位は、格ゲーの弱さと同様、最底辺に貶められた。

このとき、私は格ゲーに心を折られ、そこからレバーを触ることはなかった。格ゲーは私の負の思い出の象徴であり、不甲斐ない自分を映す鏡のようなものとなったのだった。

GGSTを始めるに至るまで

およそ15年の年月が流れた。
ゲームこそずっとやってはいたものの、格ゲーからは全く遠ざかり、触れることもなくなっていた。「ギルティギアの新作が出た」と聞いたときも、ほぅ、と思いこそすれ、「到底自分に触れるものではない」と諦めの感情が99%を占めていた。

しかし2022年8月、衝撃的なニュースが日本を、いや世界を駆け巡った。
「ブリジット参戦」である。
いわゆる「男の娘」ジャンルの金字塔かつ立役者である彼(いや、今は彼女か)が、20年の時を経てギルティギアに復活を遂げるとのニュースに、私はしこたま驚いた。
20年前、ブリジットが初参戦したギルティギアを、私は人生で初めてプレイしたのだから。

俄然興味が出てきたが、それでも自分にとっての根深い傷が、まるで膿のように格ゲーをやらない言い訳をじくじくと染み出させていた。

「アケコンを買わなければいけない。そんな手持ちはないし置く場所はない」
「ネット環境が無線なので、とてもできない」
そして何より
「どうせ強くなんてなれない」「またバカにされるに決まっている」「やらなくなったら、すべての投資が無駄になるし、もう今度こそ立ち直れない」

しかし、私は結局、ギルティギアをアケコンもセットにして、有線LANケーブルも一緒に買うことになる。
それは妻の熱い励ましと、PVのブリジットが向けてくれた「もうよそ見しちゃダメですよ」という言葉が理由だったと思う。
それにより私の中にあった、残り1%の「もう一度楽しく格ゲーをしたい」という気持ちが呼び起こされた。我ながら現金な人間である。
2022年8月17日。私が再びアーケードのレバーを握った日であった。
ちなみに最初に選び、ずっと使い続けてるのはジオヴァーナである。なんでブリジットじゃないんだよ。

現況と、初心者の方に伝えたいこと

さて、ここまで大仰なことをつらつら書いてきたが、現実はなろう系小説ではないので、ここから劇的に上手くなって天上階を支配したりはしないし、超陽キャになってギルティ界隈を席巻したりもしない。
1月17日現在9階〜10階をうろうろしている、初心者に5本くらい毛が生えたプレイヤーである。
相変わらず雰囲気でゲームをやる癖は治っておらず、上達への道はなかなか遠そうだ。
初心者の方に「どうやったら上手くなれますか」「おすすめのコンボは何ですか」と聞かれても、「圧かけて端に追い詰めて投げてわからせろ」としか言えない。

ただ、ここまで格ゲーで失敗を繰り返してきた生粋の雑草プレイヤーだからこそ、確信を持って言えることがある。

「褒めてくれる仲間を作れ」

それだけである。

格ゲーは、兎角メンタルケアが大事になるジャンルである。協力ゲームであれば、味方のせいにできる。装備のせいにできる。運のせいにもできる。
しかし格ゲーは違う。
勝敗に絡む運の要素が他のゲームと比べ小さく、人間との一対一の勝負である故、負けたとき常に「自分が相手より弱かった」という現実と向き合う必要があるためだ。

上級者、あるいは常に高みを目指す修行僧のような人物であれば、教えを請い、叱咤激励されながら成長していくことができるだろう。
ただ、初めて格ゲーを触った人間がそれをやられるとどうなるか。
「なぜ分からないことでここまで言われなければならないんだろう」「どうしてこんなにできないんだろう」「ゲームで怒られるのなんて楽しくない」と、マッハで心が折れることは想像に難くない。自分がそうだったから、余計に気持ちがわかる。

「界隈が発展してほしいから、長く続けてほしい」なんて、神の目線で物事を語るつもりはない。
「どんな形でもいいから、いい仲間と楽しく格ゲーをしてほしい」
かつて仲間に貶められ、挫折したおじから初心者の方に言える言葉は、それだけである。

この流れで自分が所属している鯖のことを宣伝しようと思ったが、青汁のCMみたいになるのでやめておく。興味があれば自分のTwitterを辿ってもらえれば、多分死ぬほど呟いてるのでわかる。そしてこれはおせっかいだが、多分今の所属してる鯖にはその環境がある。

ひとつ言うとしたら、今の仲間たちとやる格闘ゲームは、かつての悪夢を払拭するほど、とても楽しい。

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