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山本文緒さんのプラナリア

自転しながら公転する、に魅了されすぎた私ですので、次は山本文緒さんのプラナリアに手を伸ばしました。直木賞受賞作です。

解説・あとがきなしの283項、買ったその日に読み終わってしまいました。短編集だったんだけど、この話が読み終わって、また次の話があるワクワク感はもちろん、だんだん読み進めていって左手の方が薄くなってきた時に、''さらにもう1話あって欲しい''と、ここまで名残惜しくなったのは久しぶりでした。

山本文緒さんの著書は2作目だけど、やっぱり社会に蔓延る目を背けてはいけない問題をリアルに露わにしている感覚があって、キャラクターはそれぞれ自分とは違う特徴を持っていて個性的なはずなのに、どこか親近感が湧くような描写に釘付けになりました。

わたしは、''囚われ人のジレンマ''が特に印象に残っています。題名の通り、囚人のジレンマという心理学的なやつ?がすごく印象的で、なおかつ内容にも刺されました。うまく矛盾を突いてくるというか、悔しいけど否定できない部分を探り当ててくれて、特にジェンダー問題がこの話のそれでした。自分の思想の浅はかさと、理解してる''つもり''になっていたことに気付かされたのと、この先本当に男女平等なんてことは実現されるのかどうか雲行きが怪しいなとさえ思わされました。考え方を擦り合わせるのは、やっぱり難しい。''そういうことじゃないんだけど''ってお互いが思ってしまっているのが歯痒かった。そして一概に、どっちが合っているか、客観的に見えている自分でさえ判断できないところがさらに歯痒かった。いろいろなことを考えさせてくれたすごい短編だったなと思いました。

やっぱり今回も、結婚とか恋愛とか病気とか親の世話とか、そして無職だとか貯金だとか、めまぐるしく問題が行ったり来たりで、どんどん読み進めてしまってのめり込みました。

表題作の''プラナリア''もかなりインパクトの強いお話で、病気をアイデンティティとしているという感覚が、私にとって新鮮だったから、このシーンはこれから暫く自分の中に残りそうな予感がします。ただ、''自分で言うのと他人に言われるのは、話が違う''んだなと改めて気付かされました。例えば、自分で料理下手だからさ〜と言うのは良くても、あんたってほんと料理できないよね、と言われると少し違うみたいな感覚。これはレベル1だけど、プラナリアの場合はもっともっと繊細で、レベルが上の話です。ここに、人の本質というか、人間らしさを感じてしまいました。うまく言語化できないし、言い方が悪いかもしれないけれど、アイデンティティと言うことによって、これ以上詮索したり、解決しようとすることから目を背けてしまっている部分が、他の人を介すことで顕になっていった感じでした。正直、残酷でした。

あと、5作品を読み終わった後、なぜか印象に残っていたのは、みんなの涙のシーンでした。感情のピークで泣いてしまうシーンが多くて、キャラクターそれぞれが何かと向き合った時に、涙もついてくる感じが、勝手にキーポイントみたいに思えて、繋がりが見えました。勝手な捉え方なので、気にしないでください。でもやっぱりわたしは、泣くことは大事なことだし、自分の感情に気づける大事な方法だと思います。泣くことを我慢してばかりでは、自分の本当の感情と向き合えないと思います。これが勝手に私がトータルの話で受け取ったメッセージです!

あとは、本当に人によって価値観が180度違う事です。一生分かり合えない人もいるし、奇跡的に合致する人もいるし、あとはなんとか擦り合わせられる範囲にいる人もいるし、部分的に合致するが故に分かり合えてると思ってしまう人もいます。こればっかりは仕方がないです。

これ自体に気づくために、そんな本をたくさん読みたいです。山本文緒さんの文章にはやっぱり現実だけではなく、暖かい部分もあるから、またもう一冊買おうと思います。

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