『人生思考囲い』「ウェブトゥーンなんか読む気起きない問題」回について

2023/12/29に配信されたWEBラジオ『人生思考囲い』で「WEBTOONを読む気が何故か起きない」というテーマについて議論されていました。

トークテーマに対して様々な角度から考察し、短時間のうちに視野を広げ、掘り下げていくプロセス自体が知的で興味深いものでしたし、
また、ウェブトゥーンというテーマに関しても
私の知り合いにたまたまウェブトゥーンの制作に関わっている人がいて、その縁で色々な情報を知る機会が多い関係上、非常に興味深く聞くことが出来ました。

そういうわけで、個人的に思うことが多かったので
配信内であげられた問題点に対する私の考えと
制作関係者から聞いた情報を紹介する目的でnoteを書いてみました。

※なお、私自身は制作に一切関わっておらず、ウェブトゥーンも数作品を読んで「なんか読む気起きないな」と思っている程度の人間のため、このnoteの内容は基本的にエアプ語りであることを予めご理解ください


配信内であげられた問題点

パーソナリティの中野さんが既に素晴らしい要約を作ってくれているのですが、私なりにさらに整理したところ、問題点は二点に集約できると思いました。

  1. 自分の好みに合う作品を見つけられない問題

  2. 作品を継続して読み続けられない問題

2に関してはウェブトゥーン側の問題と言うよりは、スマホで漫画を読む習慣がついてないことが大きいような気がしました。
スマホで時間を潰すのならTwitterやソシャゲで十分足りているし
逆に漫画を読みたいときは本やブラウザ、タブレットの方が便利が良いので
わざわざウェブトゥーンを読む理由は特に無いわけです。

そもそも、スマホは漫画を読む媒体としては小さすぎるので、表示できる情報量も少なくなります。
また、ウェブトゥーンのターゲット層というか、想定している利用シーンが
通勤通学のようなスキマ時間を潰すために読むことなので
内容自体も短時間で頭を使わずに読めるもの、毎回同じような内容が求められます。

なので、ここで問題点1につながりますが
漫画好きの人が読みたくなるような面白いウェブトゥーンがそもそもほとんど無いというのは実際間違ってないと思います。

とはいえ、ウェブトゥーン以前に同様のポジションを占めていた携帯小説やなろう小説のときは上澄みの中に面白い作品も有ったわけで
だったらウェブトゥーンにも面白い作品が有ってもおかしくはありません。

面白いウェブトゥーン作品

配信内で手塚さんも挙げられていた、『死して生きるSSS級ハンター』『喧嘩独学』『外見至上主義』などは定番の有名作品で、漫画好きの人の批評にも耐えられる面白さがあると思います。

しかし、それでも「新しい体験として試してみよう」とか「ちょうどスマホでスキマ時間を潰したかった」というのでなく、
「面白い作品にめぐり逢いたい」という動機で読むほど面白いかと言えば怪しい気がします。

ウェブトゥーンの欠点

ここからは、ウェブトゥーンの制作に関わっていてる知り合いから聞いた話になります

前述の繰り返しになりますが、ウェブトゥーンは「画面に表示できる情報量が少ない」という特徴があります。
文字数も少ないし、一度に表示できる人物も少ない訳です。
なのでそもそも「情報量の少ないものを好む層」に向けた作品づくりをするのが正解になるわけです。

  • シーンに登場するキャラ数を減らす

  • 作品全体に登場するキャラの数も極限まで減らす

  • メインキャラ以外は出番が終わったら使い捨てる

  • セリフや設定はとにかくシンプルにする

これらがウェブトゥーンを制作する上でのセオリーです。
最新話を読むときに前回の内容を覚えておく必要がないか、見ればすぐに思い出せるようなものが好ましいわけで
そこでは主人公の性格や生い立ちに関する描写ですら不要物として切り捨てられます。
読者のほとんどは主人公の名前すら覚えているかどうか怪しいくらいキャラが立ってないのが実情だそうです。

なので内容としても即物的な快感を手っ取り早く追求するのが基本ですし、
読み進めていくうちに情報が蓄積されて面白みが増してくるということもありません
ウェブトゥーンに対して「ジャンルが偏っている」という印象があるのも、こういった事情が関係しているでしょう。

前述したヒット作は、こういった縛りがある中でも面白さを作り出せているという点では間違いなく素晴らしいのですが、縛りがない作品と比較しても面白いかと言うと、分が悪いように思えます。
その面白さについてSNS上でわざわざ語ったり、周りの人間におすすめすることもあまりないのではないでしょうか。
だからこそ漫画読み界隈で面白いウェブトゥーンが話題になることがなかったのです。

制作側の事情

ウェブトゥーンはカラー彩色などの手間が多いため、スタジオで大勢の人間が分業して作るのが主流です。
また、リリース時に一気に数十話を配信するやりかたが主流になったため、予め大量の書き溜めが必要になりました。
これらの事情から連載を立ち上げる際の初期コストが増大してしまいました。
それだけのコストを投入しても、スタートダッシュでランキングに乗れるだけの成果を出せなければ、そこで読者の目に触れる機会がガクンと減ってしまい、失敗が決定してしまうそうです。
最初はいまいちでも続けていくうちにじわじわ売れてきたというケースはまず無いそうです。
こういった理由から制作側はリスクを取ることが出来ず、売れ線ガチガチのジャンルしか作れない状況が更に加速します。

国産ウェブトゥーン作品の失敗

とはいえ、「これからはウェブトゥーンの時代が来る」と囁かれ始めた頃から、日本産の面白い漫画でウェブトゥーン業界を席巻してやろうと目論んだチャレンジャーは何度も現れてきています。

配信内で触れられた『刀娘』は、かなり早い段階でのチャレンジャーでした。
しかし結果は、作品クオリティーに対して散々なものでした。
漫画好きに届くほど知られることもなく、保守的なウェブトゥーン読者にはウケなかったのです。

その後にもいくつかの大企業がウェブトゥーン事業部を立ち上げて、国産ウェブトゥーンの制作準備にかかり、大物原作者に実力あるチームを付けたフラッグシップ作品を投入しました。
しかしそのどれもが惨敗に終わりました。
彼らはウェブトゥーンの特殊な性質を甘く考え、チューンナップを怠ったのでしょう。

この失敗を受けてか多くのウェブトゥーン事業部が様子見、あるいは撤退に方針を切り替えました。
実際に私の知り合いの作家は、昨年いくつもの会社から「ウチでウェブトゥーンやりませんか?」と声をかけられてたのに、秋ごろから連絡が途絶え、冬に企画立ち消えの連絡を受けたと話していました。

ウェブトゥーンブームは本当に来るのか?

ウェブトゥーンには事業の収益性の問題点もあります。
先読み配信と広告収入以外のマネタイズ手法に乏しく
漫画の内容を読み返すこともないので単行本化もしにくいし、キャラが立っていないのでグッズ展開、メディア展開も弱いと見られています。

結局、「これからはウェブトゥーンの時代」という話自体がかなり怪しくなってきているのが日本での最近の状況らしいのですが
とはいえ、そもそも生まれてからまだせいぜい10年とかの歴史しか無いウェブトゥーンには伸びしろがまだまだ大量に残っており
定番ジャンル以外でヒット作が生まれる余地は十分にあるはずだし、メディア展開もほとんど始まっていない状態で判断を下すのは早すぎるとも言えます。キャラ付けが弱いのが問題なら、メディアミックスするときに設定を足したりアレンジすれば解決するかもしれないわけですし。

現に、既存の売れ線ジャンルの焼き直しでない挑戦的な作品も断続的に発表されていてそれなりの結果を出した作品も出てきていると聞きました。
中野さんが配信で挙げられていた『先輩はおとこのこ』もそういった作品の一つだそうです(どの辺が新しいのかは忘れました)
おデブ悪女に転生したら、なぜかラスボス王子様に執着されています』は、従来の横読みのやりかたでコマ・セリフ配置をしているにも関わらず、読みにくくなっていない画期的な作品との評価も聞きました。(読みにくくなっている失敗例との具体的な違いまでは聞かなかったので不明です)
神血の救世主』は序盤はウェブトゥーン・なろう小説の定番展開を踏襲していますが、徐々に日本漫画の技法を混ぜ込んでいくことで
主人公以外のキャラを立て、伏線やストーリー展開の魅力で人気を博しています。
毎回コメント欄でもキャラ萌えの話題で大盛り上がりしており、通常は話数が進むに連れてPVが右肩下がりになる傾向が顕著と言われているウェブトゥーン界隈の中で、PVの持続率が異例なほど高いそうです。
このような作品が今後他にも出てくれば、当初期待していたような国産ウェブトゥーンのブームが本当に訪れる可能性はあります

ウェブトゥーン作品のメディア化という点では、韓国ウェブトゥーン初期のヒットタイトルである『俺だけレベルアップな件』が日本のスタジオでアニメ化されることが決定しています。

2024年には集英社がジャンプトゥーンを立ち上げるらしく
それがきっかけとなって一気にウェブトゥーンの認知度が高まることも期待されています。

ということで、数年前から言われていたようなウェブトゥーンブームの到来は既に頓挫しているという悲観的な見方もあるし
まだまだこれからだという楽観的な見方もまだ残っているというのが、私の聞いた話でした。

おすすめのウェブトゥーン作品

今回は、論の都合上「日本の漫画読みが満足するようなウェブトゥーンなんて無いよ」というスタンスを取りましたが、時間があれば個人的なおすすめウェブトゥーン作品を紹介する記事も描きたいと思います。

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