「おい、笑える」が笑えない話

おばあさんが「おい、笑える」っていう動画がおかしいという話を聞いて、見てみたのだけど、面白いどころか怖いと思ったので、その理由を言語化してみる。

動画の内容は、道を歩いている撮影者が、すれ違ったおばあさんに対して「あの川にいる鴨、うまそうですね」とヘラヘラしながら話しかけると、おばあさんが「うまそう・・・?」と若干困惑したあとにはっきりとした口調で「おい、笑える」と返すものである。

予想外の反応と言い方が面白いという話なのだと思うが、まず自分にとってはこの動画のシチュエーション自体が不快に映った。
というのも、これはつまらないやつがやる典型的なコミュニケーションのやりかたで、本人たちは「イジり」とか言って面白いつもりになってるやつだからである。

「イジり」「からかい」「ちょっかい」「うざ絡み」など色々言い方はあるが、やってることの本質は、他者に突然不条理な問いかけをして困らせ、無理やり反応を引き出して、その反応を笑いモノにしようとする試みのことだと考えられる。
最初からコミュニケーションとして成立させる気がないため、リアクションに正解がなく、何を言っても不正解になるのだが、それをあげつらって「こいつがこんな変なことを言った」と集団で笑うのである。
(実際この動画はまさにそういう内容だ)
本人達は「面白くしてあげた」つもりでいるらしいが、実際はただバカにしているだけで、最初から結果が決まっているので漫画の『今日から俺は!!』に出てきた「勝敗がわかってりゃイジメなんだよ!」という台詞に照らし合わせればイジメと言うこともできる。

脱線してしまったが、このつまらない行為を面白いつもりでやってる撮影者がまず不快という前提があり、その上で肝心のおばあさんの「おい、笑える」という言葉の考察にやっと入るのだけど、私はこの発言は言葉通りの意味ではなく、「つまらない」と皮肉でバッサリ切り捨ててるように聞こえる。

特に根拠があるわけではないのだが、単に私がこの撮影者の男のユーモアのセンスが最低で全く面白くないと感じたため、本心で「笑える」人間などおらず、これは単なる愛想笑いのはずだと思ったからである。

おばあさんは突然話しかけてきた不快な男の意図を的確に察し、内心では「くだらん」という評価を下したのだが、このときはたまたま散歩を楽しんでいる途中で機嫌が良かったので、「面白いユーモアですね」と愛想よく適当な返事をするつもりだったのだろう。
だが、とっさのことで上手くリアクションするのに失敗してしまい、「面白いですね」と言おうとしたのに本心の「つまらない」が混ざってしまい、結果的に「おい、笑える」という上から目線の言葉が出てきたというのが私の解釈である。
(そもそもこの場合の「イジり」は不意をつくように突然話しかけ、相手が戸惑って咄嗟に変なリアクションすることを期待しているタイプであるため、このおばあさんも上手く返すのに失敗して本音と建前が混ざってしまったのである)

「おばあさんをいじったら思ったより面白いリアクションが返ってきた」かのように紹介されている動画が
「おばあさんをいじったら面白くなるという浅はかな撮影者が内心を見透かされて、表面的には温厚に見えるが内心ではバカにされているリアクションが返ってきた」ものに見えたので、他の人達がそれに気づかずにネタとして面白がってるのならホラーだなと思ってゾッとしたのである。

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