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短歌 その五

食道がんの父
風邪治る
介護用こっそり買った
ズボンをスラックスに買い替えろ

「パジャマ着て」
何だか笑う
白い長袖Tシャツの父親

ホスピタリティの限界に
鬼になる母親
がん保険振り込みで
暖かい電気毛布を父にくれる

暖かい電気毛布
エアコンを消し
長袖Tシャツで
朝日にくるまるお父さん

「鍬は捨てないでしょうね」
「鍬は無理」
何でも捨てる娘は
今朝姉を処分する

わがままな
病気の父に服を吟味する
これも人間の短い服の歴史の終わりなのか

金は無い
遺産は非課税NISA
少ないがん保険に笑う母に
因果応報とはお前のことだぞと
娘が青鬼になって笑う朝

仏壇に
フレッシュハチでかわいい小菊を買う金が無い
十月一日に
母は自転車の前カゴに茄子を乗せ走り去り
さすがに朝ドラおにぎりは見ないのか?

「めぇものくわせろじゃ」
お粥とアイスがご飯な父
「赤飯ならところてんだな」
牛乳パックに挿した花を切る音がする
「そろそろ起きたら?」
襖越し

赤飯とところてん
柿とメイバランス
仏壇には小菊を
娘の上げ膳据え膳に
新聞
嫁にはおしっこで叱られる父のブランチ

お粥から
甘いお赤飯を食べた秋の日
「散歩に行く」
ハンチング
財布
おお歩くのか?お父さん

暑い奇妙な秋
ビールケースにスポンジで
道端に座る父
お地蔵さんのように
ついに惚けた記念日に
静かに天空晴れるや

明日捨てる
晴れ着のような赤い綿布団を
階段から投げ捨てた
あの世では
お母さんとは別れてね

迎え待つ
デイサービスの送迎車
運転するのは孫よりも
お兄さんだねお父さん

いつか言ってたな
俺は黒塗りも金ピカも嫌だって
娘は今日長年の
精神科から心療内科へ
チャリンコで

長袖Tシャツを穿こうとする父
保護色のように灰色を着る娘
仏壇の小菊がかわいいねお母さん
何もせず
ただそこにある一向宗っていいねお母さん
娘はマウンテンバイクで空を飛ぶ不格好な青い鷺

買い物行くかと父が聞く
「何か買って来る?」
鶏もも肉と父が言う
「今日はきりたんぽだよ」
それならビールだな
またエンシュアのプルトップ

きりたんぽの日
時空の歪みチェインソー
中飯のウィンナー蕎麦に
カラスが綴子になった胡桃を割る
さあ車
四辻で時空は交通安全だ

何もしない
何かする?
さあ悠輔さん乙矢さん
道がお前らを呼んでいる

「たしか」
「なお」
それは遺伝子が持つ記憶
「もとい」は間違いの元だった

髙橋家は
燐龍
いわゆる爬虫類系
私はカナリヤ鶺鴒目かな?

体内の遺伝的リン
オーラはいいんだけど
歯と食事に気を付けてね!
いい歯医者行ってきた

関所の関税
租庸調とは
実は
カステラやモロコシなど
日持ちする甘いものだったのではないか?
現代でも
人に何か差し上げるときは
菓子折りだ
饅頭の下に小判が入っていたのは
後の世の時代劇のパロディで
真剣に十万石饅頭だったのでは?
政治と国際政治が一緒になったのは近代で
外国の人は単なる客人だった

大館には包みにする経木もあったし
杉盆もある
砂糖貿易もあり
小豆もはちみつも採れる
ずいぶん都の殿様が憧れたのではないか?

むかしの
何もないけど
おいしいものがあった
秋田県が
現代的なパソコンの猜疑心で
「あそこなんかあるんじゃね?」みたいな
それで髙橋家がジブリのネタにされたり
最悪なのですが
やはりおいしいものはある
「アイス」
「今朝食べたからダメだよ」
「プリンは今、冷やしてるし」
「梨食べる?」
「柿もあるけど」
「梨」

お母さん帰宅

「あら、あずかられて」

町野さん
重箱の隅をつつくのは
やはり女性で
あんこです。
糖尿病の人には気を付けて下さい。
職人さんに対して
菓子が小さいとうるさいですよ

お母さんが
がん保険の余剰分で
私とお父さんの和室の
雪見障子さんを張り替えてくれる
おお
まともなお金の使い方だ
それにお父さんに
「菜穂が一生懸命ゴミを捨てて、あのキャンプ道具」
おおゴミが見えたか?
大学生さんとお母さんとお父さんと私
大学の長期休みは寮にいられないらしい
髙橋家に帰って来てもいいよ
お母さんのいる家を一度出ると荒れて汚くなるよ

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