【言葉遊び空論14】あて字・あて読み

 歌人:木下龍也の短歌に 以下のような作品を 見る

風に背を向けて煙草に火をつける僕の身体はたまに役立つ
(『つむじ風、ここにあります』より)

 作品の 味わいに浸るのは 後回しにしよう

 ここで 焦点を揃えて 頂きたいのは 「煙草」 そして 「身体」 の部分である

 これらがそれぞれ 「タバコ」「カラダ」と 訓(よ)む事は 存じの通り商店街であろう

 「煙草」に対して 果たして此は 煙→タバ・草→コ か 煙→タ・草→バコ か などとは おおよそ 思考を徘徊させはしない

 それは 「タバコ」という語の音ではなく 言うなれば タバコのからイメージされる ケムリ(煙)・クサ(草)の字を借用し 当てはめた表記である という事を 承知ている為だ

 「身体」も同様 通常であれば 漢語的に 「シンタイ」と読む語で あるが 和語「カラダ」と 同義である事から 代替的に 訓みを当てたものである

 このような 例を挙げれば キリがない

 土産(ミヤゲ) 祝詞(ノリト) 鹿尾菜(ヒジキ) 足袋(タビ) 心太(トコロテン) 台詞(セリフ) 団扇(ウチワ) 竹刀(シナイ)...

 このような ある言葉に対し 元々は無関係であるはずの 漢字を 音や意味などに基づいて 当てはめた表現を 当て字あるいは熟字訓 と本稿では呼ぶ事とする

 留意

 当て字と熟字訓は 厳密には異なっているが ここでは 意味と音の 操作的に相関させる表現全般を 便宜上統合し 以降 「あて字」表記で統一する

 ご了承を

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(かわいい)



 見渡せば あちらこちらに あて字が 見え隠れである

 それほどに あて字は 溢れており 日本語の表現法とは 切っても切れない 関係を 築いてきた

 簡易ではあるが あて字の種類を 見てみる


1⃣限義種

 元の言葉の ”音”は無関係に ”意味”のみから それに相当する 漢字が当てられた タイプ

 冒頭の 「煙草」もそうだが 「小豆(アズキ)」「時雨(シグレ)」「梅雨(ツユ)」など その数 極めて多し


 小説や漫画 楽曲の歌詞などにおいては この種の発現が かなり目立つ

 特に ”振り仮名”というシステムの 需要が 大いなる成果を呼んだ事もあり 既存の言葉に 外来語を 当てはめる というケースも この種のあて字の 生産技巧を 拡充している

四雫八落(バラバラ)
 (滝沢馬琴『南総里見八犬伝』)

寄っといで巨大都市(デっかいまち)へ
しんどいね生存競争(いきていくの)は
 (サザンオールスターズ『闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて』)

絶海の探偵(ぜっかいのプライベート・アイ)
 (劇場版『名探偵コナン』)

 文筆を 生業とする者によっては 独自の あて字を 茶飯事的に 施す者も 少なくはない

 中でも 落語家:立川談志の 著作には 「理解(ワカ)る」「演(ヤ)る」「不要(イラ)ない」「一票(イレ)る」「占領(トラ)れる」「邪悪(ワル)い」など 独特なあて字が 表面張力を突き破る

 さて

 遊戯としての あて字の歴史は 相当に遠く 万葉の時代にまで 遡る

 今では非常に 有名ではあるが 万葉集の

垂乳根之 母吾養蚕乃 眉隠 
       馬声蜂音石花蜘蟵荒鹿 異母不二相而
タラチネノ ハハガカフコノ マヨゴモリ
       イブセクモアルカ イモニアハズシテ
(たらちねの母が飼ふ蚕の繭隠りいぶせくもあるか妹にあはずして)

 では 「馬声」を馬の鳴き声より「イ」 蜂音を蜂の飛ぶ音より「ブ」 と読ませる アクロバティックな 手法が 用いられ この他にも 「牛鳴」を「ム」 喚鶏を「ツツ」 といった鳴き声あて字シリーズが やいのやいのと 展開されている


 珍しい苗字の類には この種の例が 数多見られる

 「山が無いので月がよく見える里」から「月見里(ヤマナシ)」 「鷹が居ないので小鳥が遊ぶ」から「小鳥遊(タカナシ)」 は 代表格 東西大関といったところだ

 他 「旧暦八月一日に神事の為に稲穂を刈って積む」事を基に 積んだ稲穂=穂積(ほづみ)から「八月一日(ホヅミ)」 「死者が黄泉に行ける為の四十八の願い」を基に 「四十八願の黄泉ヶ原(ヨミガハラ)」が省略と訛りによって「四十八願(ヨイナラ)」など かなり高難易度の 字謎ぶりとなっている例も 必見である

 地名では 例えば 芸能の地 京都は「太秦(ウズマサ)」

 渡来系の秦氏が 絹を”うず高く”積み上げて 献上し 喜んだ雄略天皇より賜ったという 「うづまさ」の姓から 当てた地名であるとされている他 オカルトでは 秦氏がローマから経た 原始キリスト教徒であるとの説から ローマの中国表記「大秦」に基づき アラム語のイエス・キリストである「イズ・マサ」に 由来するという解釈もある


 昨今 話題となった キラキラネーム(スラングとしてはDQNネーム)と呼ばれる 特殊な読み方をさせる名前にも このような類が散見される

 賛否について ここでは行わないが 「漢字の意味だけで当てはめた」だけでなく 「当てはめ」かつ通常の読みをする漢字を 混合させたものもある とだけ 言を付しておこう

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 ところで

 限義種は 意味のみを 主体とする為に 時として 奇妙な事態が 起こり得る

 奇妙とは?

 例えば以下の類

 「香具師」「百舌鳥」「山毛欅」「七五三」など

 上掲の三字語は それぞれ 「ヤシ」「モズ」「ブナ」「シメ」 お解りの通り 漢字の字数に比べて 訓みの字数が少ない

 香具師の場合 「香具師(コウグシ)の他に野士・矢師(ヤシ)などと呼ぶ」事から 「香具師」と書いて「ヤシ」となった というが 字義から 漢字をあてた場合 このように 一風変わった現象が 観察されるのだ

 この他にも 「秋刀魚(サンマ)」など 「ン」の音が 配置されてしまうケースもある

 だが これをして 「訓み数と字数が合わないではないか!」「ンの訓みに当たるのはおかしい!」「スシ!!テンプラ!!」などと ご立腹を催すのは 少々抑えて 頂きたい

 さぁさぁ一旦 「伊達(ダテ)」の「伊」 「和泉(イズミ)」の「和」 「右衛門(エモン)」の「右」 などの 黙字(発音されない字)に漬け浸り 血中温度の上昇を 和らげようではないか 


2⃣限音種

 元の言葉の ”意味”は無関係に ”音”のみから それに相当する 漢字が当てられた タイプ


 これは 古来より 万葉仮名に 見られる

余能奈可波牟奈之伎母乃等志流等伎子伊与余麻須万須加奈之可利家理
ヨノナカハムナシキモノトシルトキシイヨヨマスマスカナシカリケリ
(世の中は 虚しきものと 知る時し いよよますます かなしかりけり)

 この歌は 全ての文字に 漢字一字ずつを 当てている

 先に見た 「馬鳴」のような 限義種の他 万葉の歌は 全てが全て 音を一字ずつ漢字を あてている訳ではなく この他 「銀も金も玉も」が「銀母金母玉母」とあるなど 一部の言葉のみ そのままの漢字で 記しているという歌もある

 万葉の歌の解読が 如何に難を極めるか 大変に よく お解りだろう

 万葉集は 言葉遊びの 宝庫である


 さて このタイプ

 誰しも一度は 目にした事が あるであろう 『夜露死苦(ヨロシク)』『仏恥義理(ブッチギリ)』など いわゆる暴走族用語 と呼ばれるものも ここに カテゴライズされる

 暴走族用語におけるあて字は 意味が不穏であるもの もしくは 画数が多いものが 比較的 好まれて使用される 傾向にある

 この関連として PSPソフト『ハローキティといっしょ!ブロッククラッシュ123!!』(2010)では 有り触れた ブロック崩しという ジャンルでありながら あまりにも不合理 かつ 製作側の悪意による 難易度の高さから 「ハローキティ」に「覇王鬼帝」で もじられた事もあった

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(「トロピカルフルーツだぁ!!」)

 こうした あて字は スナックなどを主とした 商店名にも 多く散見され チャップリンの映画『ライムライト』のヒットにより 全国的に 『来夢来人(ライムライト)』という名の 喫茶店が続出した他 『女騎士館(メキシカン)』『酔飲食(スイング)』『小相撲(コスモ)』など 逞しい発想に 溢れてる あて字命名術が 受け継がれている


 この種で 忘れてはならないのが 国名や海外の地名だ

 『亜米利加(アメリカ)』『西班牙(スペイン)』『独逸(ドイツ)』『阿蘭陀(オランダ)』『露西亜(ロシア)』『土耳古(トルコ)』『仏蘭西(フランス)』等々 中国における他国の表記とも異なった 独自のあて字である事が多い

 日本国籍を取得した結果 名前に漢字を当てた 『ラモス瑠偉(ルイ)』『三都主(サントス)アレサンドロ』『呂比須(ロペス)ワグナー』といった例も 忘れてはならない

 因みに 

 音のみでの 名前のあて字例は 日本人にもある

 小説家:森鷗外は ドイツ留学時代の師匠である あのコレラ菌の培養液を 弟子と共に飲んだ 衛生学者:マックス・フォン・ペッテンコーファーの 「マックス」から取り 孫の名を「眞章(まくす)」と命名した

 なんと無茶な!

 とも思えるが NBA選手:コービー・ブライアントは 親が神戸牛を好物としていた事から 「KOBE(神戸→コービー)」と名付けられた という伝えもあるので 案外と 名前とは ”そういうもの”で あるのかもしれない

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(本田△→本田さんかっけー)


 一般的な語にも この種は見られる

 『目茶苦茶(メチャクチャ)』や 『矢張り(ヤハリ)』『兎に角(トニカク)』など 単に音だけで 漢字があてられた 常用的な言葉も多い

 このように表記しても 全くの間違い ではないが 時と場面を考慮して 使用する事を なるべく 心掛けておくのが 無難である

 さすれば 作文全編を 今一度 書き改めよ といった惨事は 起こり得ないだろう

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(”カッコ付けた”口調)


3⃣並列種

 元の言葉の 音は残しつつ それに相当する 意味を持つ漢字が 当てられたタイプ


 映画『言の葉の庭』(新海誠監督)にて 

”愛”よりも昔、”孤悲”のものがたり

 というキャッチコピーが 手添えられていたが ここでの「孤悲」は 「恋」のあて字である事は よく知られる

 万葉集でも 多く見られる この表記は 『孤(ひと)り悲しむ』との 連想であるらしく 単に音を当てたタイプとは異なって 漢字により その心情性を 深めている

 この並列種は その言葉に 漢字の意味を 付与する事により イマジネーションの広がりを 意図する手法として 用いられる


 『素敵麗音(ステレオ)』『仕為定務(システム)』『見遊知会夢(ミュージアム)』など 外来語に適用される場合が よくあるが 日本語においても 類する例が 無い訳ではない

 「ごまかす」という語は 
 ①『護摩かす』(護摩の灰を弘法大使のものと偽って売る詐欺があり”護摩+接尾語かす”から)
 ②『胡麻菓子』(胡麻胴乱という菓子は中身が空洞であり”見せかけ”の意味でも用いられた事から)
 の 二説の語源があるが 現在では 行為から連想される字義的を 適応させたであろう 『誤魔化す』 のあて字が 主流となっている

 このように 元の表記を 字義に則して 改変した例は
 『景色』(元は”気色”であったがキショクとの区別をつける為”気”を”景”へ改めた) 
 『時計』(方角や日影を測定する”土圭”という古代中国のコンパス的な道具が元)
 などがあり 今では ほぼ違和感なく 一般化しているようである

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(「WHO INSIDE」「封印再度」いずれも物語の中核を示す)


 2chの 『病院で「神弾」というものを食らってしまった……』スレッドでは 大々的に この種を活用した 大喜利が 展開されている

・超神機とやらを食らった
・初鳳旋っていうやつ出してくるらしい
・練斗幻あびた
・神体剣鎖を今度するって言われたんだけど封印的な事か?
・真蝶と胎獣の割合に気をつけろよ
・仙哭とやらで敵の余命を操れるらしい
・親父が忍幻独狗受けちまった
・天敵を討って来いって言われたよ
・俺の腕のなかに妖精がいるらしいんだけど……

 あるテーマ(ここではおそらく”中二病”的なもの)に則した あて字を施していく というのも 愉快な競技だが これは 先の限音種における 暴走族用語とも 通ずる 技法というよりも 一種の”作法”である とも言えるだろう

 一定のグループ・母体にとって 使用頻度の高い 漢字の傾向が ここから 可視し得るというのも 実に興味深い現象だ


◆◆◆


 小説家:日日日は 名を「あきら」と称する

 これは 人名訓で「あきら」と読む「晶」の字を 更に分解した事に 由来する

 より字謎要素を 強めた例では 「山上復有山(イヅ)」がある

 中国文学にも見られ 万葉集にも この語を拝借した歌が 見られるが 「山の上にまた山がある」の意で 「出」の字を表している

 このような 元の漢字の読みを 温存した上で 漢字それ自体を分解(折字)する 手法は 数こそ無いが タガメ オオタカ ツキノワグマの如く 細々と棲息している

 発展形として 近年では 「日生」を(”星”の分解である事から)「スター」と訓んだ 広告なども 見られたようであり あて字の 複雑化は 近年ますます 進歩しているようである

 元々の漢字や熟語では なされない訓み方を ある条件に基づいて あてはめる手法を あて読み と呼ぶ


 あて読みの 好例として 「下村→アンダーソン」などのように 一部もしくは個々の漢字を 直訳する手法がある

 遊戯的には これが更に 無関係であったはずの 既存の語と 合致する事で 一層の 面白味を増す事となる


 冷奴→クールガイ
 美大生→ビューティフルライフ



子子子子子子子子子子子子
(『宇治拾遺物語』より)

 非常に有名なので 存じ上げる読者も 多い事だろう

 この類を扱う 例として 必ず挙がる 王道的作品である為に いい加減耳が痛いと 訴える 諸患者も おられるだろう

 それらを 退けて ここでも解く

 上記は 嵯峨天皇が 文人:小野篁に 「子」を12書き 読み方を問うたところ 「ねこのここねこししのここじし(猫の子”子猫”獅子の子”子獅子”)」と 訓み答えたとされている

 「子」の 「コ」「シ(ジ)」「ネ」といった 音の多様性を 利用した 見事な回答である

 流石 地獄界へ出入りしていた人間は 一味違う

 また 江戸の古川柳に 以下のような作がある

同じ字を 雨雨雨と 雨るなり
(『柳多留』より)

 これは 「雨」が 「春雨(ハルサメ)」「五月雨(サミダレ)」「時雨(シグレ)」の語に使用される事から あえて 訓みを分解させて 「雨」の字に 相当する部分を 抜き出して 訓ませたものだ

 即ち 『同じ字を アメ・サメ・ダレと グレるなり』 と詠む

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(laugh-women-nation の gh-o-ti 部分が f-i-sh の発音と同じ)


 あて字(熟字訓)で 訓まれた語から その訓み方を抜き出し 別語として使用する という手法は 江戸時代において 大規模炸裂するに 至った

 『南嶺子』(多田南嶺著)には 「海」の字の読み方を 按摩から聞かれ 「ウミ」と「カイ」しか知らない と答えたところ 海老はエビ 海月はクラゲ 海人はアマ 海苔はノリ 海鼠はナマコなので エ・ク・ア・ノ・ナの読み方があるだろう と言いくるめられた 咄が記されている

 これが由来であろうか 『海海海海海』 と書いて 「アイウエオ」と訓む というなぞなぞも 発生した

 ※「海女(あま)のア 海豚(いるか)のイ 海胆(うに)のウ 海老(えび)のエ 海髪(おご)のオ」

 同字を重ねた あて読みを より コンパクトにした例もある

尾尾 オビ   味味 アジミ   惑惑 マドワク
素素 スソ   真真 マシン   盛盛 サカモリ
路路 ロジ   鼻鼻 ハナビ   待待 タイマツ
下下 カゲ   里里 サトリ   方方 カタホウ
(山本昌弘『漢字遊び』より)

 筆者自作では 「音音 ネオン」「オオイタ 多多」「コガラシ 枯枯」「オリコウ 降降」「カガヤキ 輝輝」など

 さて 同字重ねのあて読み について 真骨頂と称するものが あるとすれば 翻訳家:柳瀬尚紀の作品を 置いて 他はあるまい

生生「生」。生生生生生生生生生。生生生生生生。生、生、生生。
(柳瀬尚紀『英語遊び』より)

 「生」は あて字を踏まえると 最も訓み方の多い漢字と 云われているが その先駆的作例とも 呼べるのが 上記の一文である

喫茶「池」。小生危うい愛情破棄。なお生飲む。生(なまり)、麩、お稲荷。

 ここでは 全容を説明しないが 生粋(キッスイ)の「キッ」 福生(フッサ)の「サ」など 「生」の数多ある訓みを 徹底的に駆使している

 『フィネガンズ・ウェイク』完訳者は 桁が違う


 この他にも あて字を本格的に クイズとして 扱った書籍は 既に江戸時代 非常に 出回ったようである

楽殿 鯛 (雅楽ウタのタ 縫殿ヌイのイ)
月豆 盃 (月代サカヤキのサカ 赤小豆アズキのズキ)
明長 松茸 (松明タイマツのマツ 長タケ)
(『背紐』の「海里十納年」より)

和七 トダナ (大和ヤマトのト 七夕タナバタのタナ)
寸宮 トツキ (一寸チョットのト 斎宮イツキのツキ)
日武 モリモノ (晦日ツゴモリのモリ 武士モノノフのモノ)
(式亭三馬『小野ばかむら歌字尽』より ※ばかむら→竹冠+愚)

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 漢字の読みの多様さを 活用した作例は 何も これだけに留まらない さぁ 留まらない

 『瀬戸の花嫁』(木村太彦作)の 名文句「任侠と書いて”にんぎょ”と読むきん」

 任侠(ニンキョウ)であるところを 「ニンギョ」と読むような 既存の熟語を 異なった 別の訓み方にあてる という手法

 より有名な例で言えば 「殺気」と書いて「ころっけ」 と訓むようなものが 合点行くだろう

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 字の意味や音ではなく 形状から訓みをあてる という事も有り得る

 「白」を 「百(100)の一(1)足りない→九十九(99)」から 「あと一で百に付く→”付く百(も)”」となる事から 「ツクモ」と訓ませる事がある

 このように ある漢字の形状から あるいは 形状を改変する事で 別の訓み方をあてるような例だ


 圀 ← ハッポウフサガリ(”八方”が国構え”囗”で塞がっている)
 肯 ← オオミソカ(正月の”正”の一が足りない=一日前)


 失意の表情を表す 顔文字として使用される 「囧」は 通常は特に 訓み方が定まっている訳ではない

 あえて言えば ある対象・現象に対して 図画的に 漢字をあてた という言い方も 出来るかもしれない

 漢字がそもそも 現実の形あるものから かたどり作られた 象形文字 いわば元祖絵文字のような ものではあるが それを恰も 先祖返りするが如くに 再び絵として 見立てる というのも 感慨深い思いがする

 こうした 漢字の図画化そのものは よく見られる


 興 ← 学校への道
 誤 ← 物陰に隠れる人
 貝 ← 線路の上を走る電車(正面)

 漢字を図画的に見出し それに依った 訓みをあてる といった例は まだ確認出来ないが それも可能である という事だけは確かだ


◆◆◆


 法定速度を 守ったとは言え ここまで 目まぐるしい速さで 解説を進めた

 眼球があらぬ方向に 引き寄せられる者 多数と見て 一旦 整理しよう

【あて読み】
ある言葉に 本来は無関係な漢字を あてる
1⃣意味だけであてる
2⃣音だけであてる
3⃣意味・音どちらもあてる

【あて読み】
ある漢字や熟語に 本来はしない訓みを あてる
①読み方の多様性を利用してあてる(翻訳・音訓)
②漢字の形状からあてる(字謎)

 本稿で ガッと説明した事を バッとまとめれば ザッとこの程度である

 勿論 作例を全て 挙げる事は 不可能であるし 況してや 触れられなかったものさえ あるだろう

 あて字・あて読みが 如何に 多面・多角に その勢力を 拡大しているか よぉくお解りに なったと思う

 最後に 賢明なる読者に なぞをば 出題しよう

 おのが あて字力・あて読み力(ほぼ字謎力かもしれない点はご愛敬)を 試すに 良い練習問題と なるに違いない

 いざ参らん

(1)「蟹」は「ちからふたつ」 なぜ?

(2)「情」は「レーム」 なぜ?

(3)「聞」は「スペーパー」 なぜ?

(4)「努」は一字で良し なぜ?

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(『言葉とアヤ』)

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