いつか大空へ
バンタンが今までに出した曲は、個人のミックステープやコラボなどを含めると350曲を超えるらしい。
明るいヒップホップや、バラード、激しいラップなどその内容は多岐に渡る。
だからその中で1番好きな曲を選ぶのはとても難しい。以前1度好きな曲ベスト10を考えてみたけれど、とてもじゃないが選べなかった。大好きな曲が多すぎて。
でも実はその中で1曲だけ。
好きになって聞けるようになるまでに、時間がかかった曲がある。
Outro:Wings
ライブで流れると(まだオンラインしか経験はないが)アミボムを振って飛び跳ねるほど今では大好きな曲だが、わたしはこの曲をまともに聞けるようになるまで3ヶ月かかった。
1番最初に聞いた時、歌詞の内容は分からないけれどメロディーもリズムもわたし好みでとてもいい曲だと思った。バンタンは韓国人アーティストだからその歌詞はほとんどが韓国語で、もちろんわたしには何を言っているのか分からない。
いつものようにインターネットで日本語訳を調べて、どんなことを歌っているのか読んでみた。
以下に1部抜粋する。
Outro:Wings
僕をあの空まで連れていってよ
子供の頃の俺は
大した悩みを抱えてなかったから
この小さな羽が翼になって
その翼で飛べるようになるはずだと
信じて疑わなかった
《略》
※どこまでも僕は飛んでいく
もっと高く もっと高く
空のさらに上を
どこまでも 飛んでいく
赤く染まった翼で力の限り
大きく 大きく広げる 僕の翼を
大きく 大きく広げる 僕の翼を
翼は空を飛ぶためにあるから
空を飛び回るんだ
この翼に詰まった僕の夢
《略》
やっと気づいた
後悔しながら老いていくなんて駄目だって
決めたんだ
無条件に信じるって
今こそ勇気を出す時だ
怖くなんてない
自分を信じてるから
※繰り返し
(訳は『KーPOPに染まる日々』さんよりお借りしました)
これを読んだ時わたしは文字通り号泣した。
それは感動したとか共感した涙ではなく、ただただ悲しかった。絶望に近かったかもしれない。
二度とこの曲は聞けないと思った。
悲しくて辛くて、イントロを聞くだけで吐き気がするようになってしまった。
わたしの両親はとても愛情深い人で、我ながら大切に育ててもらったなと思う。
それなのにわたしはとても自己肯定感が低い。劣等感の塊と言ってもいい。ブスでデブで容姿に自信がないし、誰からにも好かれる性格ではない。
何をやっても人並みで誇れるところや自慢出来るところなんて何もなくて、小さい頃から寝る時に「どうか目が覚めませんように」とお祈りをしてから眠るような子だった。
大事にされてきたのに、何故こんなに自分に否定的なのかよく分からない。分からないけれど自分を愛せない。消えてなくなりたい。
だからだろうか、Wingsの歌詞を読んだ時この人達とわたしは決定的に違うのだと気付かされてしまった。
彼らは痛みや苦しみを伴ってもそれを癒しながら、その傷すら武器に果敢に挑んでいく人達だ。
自分達を信じられる勇気のある人達だ。
そうして高く高く飛んでいき、どこまでも羽ばたいていく人達だ。
わたしは自分を信じられない。
だからこの曲を聞けなくなってしまった。
この曲を聞くとわたしのダメで汚くてどうしようもない部分を突きつけられる気がした。
わたしには飛べない、飛ぶ勇気もない、傷付くのが怖い、でもこのままの自分でいるのも嫌、嫌なのに動けない、苦しみや痛みを思うと体が竦んで立てない、夢も希望も何もない。
羽なんかもともとない。
それからはこの曲を避けながらバンタンを聞いた。イントロが流れると口を押さえながら次の曲に送ったし、酷い時はイントロの数秒を聞いてしまい涙が込み上げ、その度に劣等感に苛まれた。
バンタンは眩しすぎる。
特別な7人が集まったグループなんだ。
わたしなんかとは違う。
それがある日を境に聞けるようになった。
それはJinが目に涙を溜めながら解散を考えたことがある、と話した2018年のMAMA受賞スピーチの動画を見た時からだ。
Jinは「精神的にとても辛く、解散も考えた」と話した。
わたしはこれにとても驚いた。だって順風満帆だと思っていたから。数々の賞を受賞し、ファンだって世界中に毎日どんどん増えている。出す曲は全部売れるし、お金も地位も名誉も、全てを手にした人達だと思っていたから。
でもそうじゃなかった。
RMはあまりに高く飛びすぎて、下を見ると怖くなると言っていた。
jiminはプレッシャーになるし、怖いと言っていた。
SUGAはこれは自分が望んだことじゃないと泣いたと言っていた。
みんな普通の人達だ。
ただ音楽が好きで、音楽で自分達を表現したくて、音楽でみんなを幸せにしたい、そんなただ音楽を愛する普通の人達だった。
わたしと同じ怖いことがたくさんあり、辛いことがあって涙を流す。
Wingsの歌詞にも書いてあった。
『赤く染まった翼』
そうか、この人達にも翼はもともとなかったんだ。
歯を食いしばって、涙を流して、拳を握りしめながら少しずつ飛ぶための翼を作ったんだ。
そうして今、ようやく空を飛んでいる。
わたしはWingsを聞けるようになった。
少しずつ聞いても泣かなくなったし、怖くなくなった。
でもそれはわたしの劣等感が消えたわけじゃない。
Love myselfは今も上手く出来ない。
でも明日が少し楽しみになった。
そんな自分でもいいかもしれない、と思えるようになった。
この先、わたしにも大空を飛べるほどの翼を作れるのかは分からない。
作れずに、空高く飛んでいく彼らを地面から見送るだけになるかもしれない。
それでも今は以前ほど悲しくならずにすみそうだ。
彼らもわたしと同じだと気付いたから。
Outro:Wings
わたしの、1枚の羽になってくれた曲。
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