シンプルさわやか__17_

週に一度の恋人

こちらはTwitter連動企画、
3000文字チャレンジ参加作品です。
ルールはこちら。

今回のテーマは「ラーメン」です。
過去のお題で、ずっと前に書き始めましたが
頓挫していたものを発掘して書き上げました。

今回は久々の創作です!
公開するの、めっちゃ勇気がいった…
けど、せっかく書きあがったから、出しちゃう!
やや長いです(4500文字)。読了無理なさらず。
ではどうぞ。

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彼と食べるラーメンは何杯目だろう。
目の前に運ばれてきた味噌ラーメンを見ながら私は思った。

地元ではそこそこ人気のラーメン屋さん。
今日も入る前に30分ほど並んだだろうか。
味噌ラーメンはそれほど好きなわけではないが
ここに来たいという彼の要望に押される形で入った。

少し前まで、ふたりでラーメンを食べるのは毎週の楽しみだった。
県内のラーメン屋を特集している雑誌を買い、
会う度に違うお店を開拓した。
かなりの数行ったと思う。
市外にまでドライブしに行くほど色んな所に行ったのに、
近場にあるここのラーメンはまだ食べたことがない。

うれしそうに目を細めながら麺をすする彼を見て
少し胸が高鳴る自分に戸惑っていた。

ー私はまだこの人が好きなんだろうか。

私たちは終わったはずだ。
というか、終わらせたのはそっちではないか。

2ヶ月ほど前だった。
毎日のようにLINEをくれた彼からの連絡は突然途絶えた。
デートの誘いはいつも彼から。
それが普通だった私たちの関係は、
彼から連絡がこないことは必然的に疎遠につながった。

会いたくなかったわけでは決してない。
むしろ会いたかった。
ものすごく会いたかった。

でも私は知っていた。
彼には他に付き合っている人がいる。

だから私からは連絡しない。
それが暗黙のルールだった。


出会ったとき、
すでに彼には彼女がいた。
周りからも公認のふたり。
もちろん私も恋愛対象としてなど見ていなかった。

誘ってきたのは、彼からだった。
仲間で集った飲み会。
偶然隣になった。

それまであまり話したことがなかったが、
話してみると意外な共通点が複数出てきた。
一気に距離が縮まり、会話が盛り上がる。

会がおひらきになりかけたころ
周りに聞こえないような声で言われた。
「この後ふたりで飲まない?」

誘いに乗った時、下心はなかった。
本当だ。
ただ私ももう少しこの人と話したい。
楽しく話したい。
そう思っていただけ。

二人で大衆居酒屋に入った。
雰囲気がいいとはとても言えないお店。
ビール瓶を入れる籠を逆さにしたものが椅子替わりになるような
客のほとんどがサラリーマンであふれるような
煙のたちこめる焼き鳥屋だった。

そこに連れていかれた時点で
爪の先ほどあった警戒も完全に解かれた。
楽しく飲み、食べた。

送っていく、と言われたことに
少し女の子扱いされたうれしさを感じた。
断ると、「じゃあ勝手についていく」そう言って半ば強引に家の前まで来た。
送ってくれた礼を言う。
「そのお礼にコーヒーごちそうして」

それはつまり家に入れろということか。
彼女がいる人を家に入れるほど飢えているわけではない。

少し苛立ちながら拒否すると
意外なくらいあっさり引き下がった。

「そう、じゃあ、おやすみ。楽しかったよ。」

手を振って向けられた彼の背中を見ながら
なんで私が拍子抜けしないといけないの…と唇をかんだ。

何を期待していたんだろ…
かすかな落胆をごまかしながら家に帰った。

その日はなかなか寝付けなかった。
アルコールで興奮していたのもあるが
どういうつもりだったんだろう…と
彼の意図が図りかねたことに思いを巡らせてしまった。

彼女がいるんだから。

何度もそう言い聞かせ眠りについた。

次の日から
仲間内で集まるとどうしても彼に目をやってしまう自分がいた。

彼はと言うと
何事もなかったかのように振る舞っている。ように見えた。

飲み会の日からちょうど一週間。
彼からの連絡は突然来た。

「今日飲みに行かない?」

あの日以来だ。
この一週間の彼の態度を思うと
ますます気持ちがわからない。

もう期待するのはやめよう。
半ばあきらめに似た気持ちで「OK」と送った。
楽しく飲めればそれでいい。

待ち合わせた店は
またも大衆居酒屋だった。

そこそこ酔いが回った頃
ふと聞いてみたい気持ちになった。

「どうして今日私を誘ったの?」

一瞬の静寂のあと
すこし笑って彼が言った。

「一緒に飲みたかったから」

あまりに普通の答えに思わず吹き出してしまった。
「普通じゃん」
そう言って笑うと彼はすこしむっとした様子で
「一緒に飲みたいっていう意味わかんないの?」と聞いてきた。
思いのほか真剣な表情にひるんでしまう。

「今日も送ってく。そんで今日は絶対家にあげてもらう。」
怒ったように言う。
有無を言わさない強引さ。
鼓動が激しくなる。

「…彼女いるじゃん」
ありきたりのセリフが口をついて出る。

「そんなつまんないこと言うと思わなかったな」
まるでこちらがおかしいみたいに彼は言う。
そして続けた。

「共犯になってよ。」
同じ罪をかぶるという甘美な魅力に
引き込まれてしまった。

「コーヒー、ごちそうして」
その言葉に頷いた時、
共犯になる覚悟ができたのだと思う。


誘い通りコーヒーを淹れ、テーブルに置いた。
私は自分に淹れたコーヒーの入ったマグカップを持ったまま
空いている彼の隣に座った。

緊張なのかカップを持つ手に力が入る。
ごくん、と一口飲み、カップを置いた仕草を合図にするように
座ったまま抱きしめられた。

微かに香水の匂い。
そうか、気づかなかったけどこの人は香水をつけてるんだな。
近くに来ないと感じない位に。

その香りを楽しませる隙を与えないと言わんばかりに
彼が顔を近づけてくる。
長く、深く、吸い込まれそうなキスをした。
もう後戻りできないと思った。
戻らせないでほしいと思った。


背負った十字架は思ったよりも重くて
彼女を見かける度に胸が詰まった。

小さい仲間内でのことだ。
他の誰にも話せない痛みを一人でずっと抱えながら
二人を見ているのは正直辛かった。

もうやめてしまいたい、と何度も思った。
次に誘いが来たら断ろう。
もう終わりにしようと言おう。
その決意は、彼からの連絡が来るたびに砕かれた。
あと一回、今日だけで終わりだから。
そう思って会った次の日には
彼からの連絡を待ってしまう。

連絡がきっかり1週間ごとだと悟るのに
そこまで時間はかからなかった。
いつも決まって月曜日。
彼女との何かがあるんだろうと察しはついたが、
口には出せなかった。

週に一度だけ来るこの時間を中心に
私の世界は回るようになった。
他の予定は月曜にだけは決して入れない。
入れられるはずがなかった。

彼を中心にスケジュールを組む自分に何度も嫌気がさしたけど
この日を逃すと会えないのでは、という不安の方が勝った。

不安と同じだけ、
いつ終わってもいいように、という覚悟も持っていた。
いつさよならを言われても、
泣いて引き留めたりしないように。


それでもそんな日が来たら、
冷静ではいられなかった。

週に一度会う生活が半年ほど続いたころだった。
彼からの連絡が突然途絶えた。

月曜日になっても
会おうという連絡がこない。

私から連絡することはルール違反。
そして月曜日に会うことを約束していたわけでもない。
でもこの半年、ずっとそうだったのに…
そんなことをぐるぐる考えているうちに、
連絡がこない最初の月曜の夜は明けていった。

次の週も
その次の週も
月曜日は一人きりで過ごした。

待つ時間は長い。
テレビを見ていても
好きな音楽を聴いても
好きな本を読んでいても
何をしていても長い。

時計を見る度、進まない時間に苛立ち、
鳴らない携帯を放り出したくなった。

連絡がこない2週間を過ごした後、
それが彼の意志なのだとようやく受け入れた。

もう待たない。
月曜日に思い切り予定を入れまくった。

映画を見たり
友達と出かけたり
極力今日が月曜日だと認識しないようにしたかった。

そんな過ごし方にも慣れてきたころ。
彼に貸したままのDVDがあることに気づいてしまった。

そのままにしようかと思ったけれど、
もうそのころには戻らないという自信めいたものがあり、
一度連絡してみよう、と思った。
友人として。

「DVD、貸したままになってたよね。郵送でいいから返してくれない?」

郵送でいいから、としたのは
会いたいわけではないという意地を示したかったのと
できれば会いたくないという気持ちの裏返しでもあった。

彼からの返事は
「明日なら会って返せる」
だった。
明日は水曜日なのに。


昼下がりのカフェだった。
待ち合わせの時間よりすこし早く着いた。
楽しみにしていると思われたくなかったが
仕方なく扉を開けると、彼はもうそこにいた。
珍しく本を読んでいる。

そっと近づき、声をかける。
「ああ」
うれしそうでも、めんどくさそうでもない、
何とも言えない声で迎えられる。

「これ、DVD」
すぐに会った目的は果たされた。
そこで帰ることもできたが、
ちょうどスタッフが注文を取りに来たので
コーヒーをオーダーした。
じゃあこれで、というわけにもいかなくなり、
何を話そうかと逡巡した。

聞きたいことなら山ほどあった。
なぜ連絡をくれなかったのか
なぜ今会おうと思ったのか

でも今聞くべきでないことはわかっていた。
いずれにしてももう終わったことだ。
理由がわかったところでどうなるわけでもない。

会話は予想外に盛り上がった。
二人とも好きなお笑い芸人のラジオの話をしていたら
いつのまにか1時間も話してしまっていた。

「なんか腹減ってきたな。ラーメン食べに行こう」
こちらの都合などお構いなしに
聞くでもなく、確定事項のように誘う強引さ。
そして、断れない私。


こうして今、私の前には味噌ラーメンがあって
うれしそうに麺をすする彼もいる。

さっさと帰ればよかった。
なんでこうモヤモヤするんだろう…。

「そういえば、新しいライブDVD出たよね?もう見た?」
と彼が言う。
首を振ると、こう続けた。
「今から一緒に見ない?」

断れば、意識したと思われるかな。
変なプライドが顔を出す。
DVDを見るくらい、何でもない。
見るだけ、見るだけ。
そう言い聞かせて、首を縦に振った。

レンタルDVDを借りてきて
私の家に一緒に入る。
すっかり定位置になっていたソファに腰かけ
並んで見る。

彼はマグカップのコーヒーを一口飲んで
テーブルに置き
からっぽになった手は私の手に少しだけ重ねられた。
ぎゅっと握るのではなく
ほんの少しだけ交わるように。

気のせいと言われても
わからないくらいの感覚。
でも、たしかに感じる体温。

胸がきゅっと苦しくなる。
くやしいけど
まだこの人が好きなんだ。

手を払いのけない私に
拒否されていないと思ったのか
今度はたしかに手を握ってくる。

思わず彼を見る。
彼もこちらを見る。
視線がぶつかる。

「嫌なら言えよ」彼が言う。
何も言えない私。
それはもう始まりの合図だった。

また彼を待つ月曜日が来るのか。
そう思ってこみあげてきた憂鬱な感情が
少しだけうれしさをまとっていることに戸惑いながら
久しぶりの彼の感覚に
驚くほど興奮しているのがわかった。
敏感になっていく自分の感覚と彼のリズムに身を委ねて
夜は更けていった。

また始まってしまった。

私たちの関係はまるでジェンガのようで
一緒にいる時間が長くなればなるほど
積み上げれば積み上げるほど
崩れやすく不安定になるような気がした。
そして崩れるきっかけになるジェンガを置くのも
また自分なんだという皮肉。

崩れるくらいならもう触りたくないのに
そうすれば積み上げるものもなくなる。
それはそれで虚構のようにただ佇むだけのオブジェになる。
だから崩れるまで積み上げていくしかないのだ。

また月曜が来る。
私はまたジェンガを一つ取って積み上げる。
乱雑に置いて崩れさせることだってできるんだから。
そう強がりながら慎重に置いていく。
崩れないように、そっと…

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最後までお読みいただきありがとうございます。
これは実話と妄想を独自のブレンドで配合したフィクションです。
久しぶりに恋愛モノを書いてみたくなって1ヶ月ほど前に書き始めたのですが
一度筆が止まってからなかなか再開できず、
お蔵入りにしようかと思いましたが先日ふと書きたい気持ちになり再開したシロモノです。
ちなみに、同じタイトルの曲から発想を得ています。

頭の中を垂れ流すようで
恥ずかしい思いもありますが
もともと自由にこんなことも書いてたので
久々にやって楽しかった気持ちもある。
でもやっぱり恥ずかしい。笑

自己満足要素が強く、拙い部分が多々あるかと存じますが
大目に見ていただければ幸いです。

最後に
3000文字チャレンジは、批判禁止ですのでよろしくお願いします。笑

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